準備は進む

 リソスフィアフォーミングで地下に生命が生存するに適用した環境を、地下に生み出すメリットの一つに、地表面の環境に影響されないというものがある。

 惑星地表面の環境は様々な条件により変化をする。

 例えば地軸の変動、自転の変動、公転軌道の変動や恒星の活動状況等がこれに当たる。

 これらの要素に人的に介入する場合非常にコストが掛かるし、その結果得られるものは現状維持というものだ。

 正直なところ、また何時か起こる事なので、これに毎回毎回対処するのは面倒ではある、例えそれが何万年という周期であったとしてもだ。

 であるならば、地下資源の採掘により出来てしまった空洞を利用して、そういった自然と起こってしまう様々な現象と、それに付随して起きる惑星地表面の環境変化から逃れてしまえば良い、これが、惑星開拓の最終目的地点への経過点の一つである。

 そして、この惑星地下の環境維持を行い、更なる発展を促していくのだ。

 唯問題としては掘削により惑星の重さの偏りが変わり、惑星運動に変化が起きてしまうと云う問題だ。

 この結果地表面の環境が変わってしまうのが問題点ではあるが、その変化にしても数万年単位周期で変動する様な時間の掛かる問題な為、あまり問題視はされていない。

 いつかは来る自然環境変化周期の変動幅の変化と、変動する時期がずれるといったものであると考えられ、前述した自然に起こる現象とそれによる環境変化と大差ないと考えられているからだ。

 では話を戻そう。

 岩盤層と一言で言っても、惑星の地表面は人が感じるよりも動いている。不動の存在では無い。

 短期的に見れば僅かな差であったとしても、長期的に見た場合大きなズレが生じてしまうのだ。

 その為、どれだけ短い期間でこの事業を終えるのか、そこが問題になってくる。

 ただ今回は、地表面に既に存在している文明に気取られる様な、地表面で複数の掘削開始地点を設けて一気に行うという手法が、使えないという条件がピオニアによって設定されている為、現在ピオニアがいる地点からしか、地下にアクセスするポイントは設定しない方針だ。

 そこで提案されたのが、比較的安定的なルートを掘削し、地下を伝って掘削開始拠点を複数建造、然る後、各拠点から一気に掘削を進めながら、工事を行い天井・床部分の補強とそれらを支える支柱を建造する予定である。

 また、今回の計画では一層三十㎞の空間を四層建造する予定である。

 そして現在は、アーデンの森に存在する拠点地下に最初の掘削拠点の建造を行い、それに並行して不可知化した偵察機等を駆使し、各プレートの精査が行われている。


 ポッダー。

 それは大規模な装置を、出来得る限り少ない人員で操作する為に開発された技術により強化された人々を指す言葉。

 機械装置を、あたかも自身の肉体の様に、感覚的に動かす為の処置を施された者達の総称だ。

 そして、スキルデータ。

 それぞれの種族の記録方式―脳がどの様に記憶をしているか―に併せてデータ化された様々な技能や知識である。

 ポッダーはこのスキルデータを最も効率よくインストール出来る存在でもあった。


 スキルデータ、インストール終了。

 意識に直接響く音といえない音を聞き、ピオニアは意識を覚醒させる。


「お疲れ様です、マスター。

 ご気分は如何ですか?」

 ピオニアは新しくインストールされた情報を頭に思い浮かべ、それによってどの様な変化が起こったのかを軽く認識していく。

「今のところは問題ないかな」

「それは良かったです。

 今回はかなりデータ容量の大きいデータのインストールでしたからね、それだけ時間も掛かっていますから、リハビリから始めましょう」

 ポッドと呼ばれる機械装置の中で、首後ろに増設された機械とピオニアの神経を繋げる為のソケットから、接続子が引き抜かれる感覚を感じながら、ピオニアはインストールをしている間に変化のあった自身の肉体の状態を把握した。

「ナノマシンで変化は最小限に抑えられているから問題ないよ」

「いいえ、これより現地民の前に姿を見せるのです。

 状態は万全に整えましょう」

「あー、それもそうだね」

「身体状況をスキャンし、リハビリメニューを設定します」

「宜しく」

 そう言葉を交わしながらピオニアは立ち上がる。

 やや違和感は感じるものの少し動けば問題ない程度だと感じながらも、彼はネートが提示したリハビリメニューを熟す為、トレーニングルームへと足を向けていった。


 今回ピオニアがインストールしたスキルデータは多岐に渡る。

 この母星生活時代の中世頃の文明が存在する惑星の住民を統治する為に必要な、様々な情報と知識を使い、ピオニア達は本格的にアーデンの森のエルフ達へと介入し、自分達の存在が外部に露出しない様にする為の作戦が開始される。

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