クル氏族

 アーデンの森に住むエルフは種族としては単一。

 氏族単位で部落を形成し森の中で生活を営んでいる。

 その中でも特殊な立ち位置の氏族が存在する。

 その氏族の名はクル。

 ケトーの系譜論では先祖返りと考えられ、この様な経緯で誕生した能力の高い個体のことを、ハイエルフ又はエルダーエルフ等とピオニア側の文明では呼称されている。

 このアーデンの森に住むエルフ達は、このハイエルフをクルと呼んでおり、神に近しい存在として崇拝の対象としている。

 クル氏族の部落はこの崇拝対象であるところのクルを集めて信仰する為の部落であり、エルフ達はそのお世話係として住んでいる。

 その性質上この部落は宗教的意味合いが強く、クル氏族の部落に住むエルフは、クフの世話をし神に仕える者達と、それを守る者達で構成されている。

 クル達ハイエルフは、生まれながらにして崇拝され特別視されて過ごしている為、自らが特別であるという認識である。

 それ故に些か傲慢であるというのは、自身でも認識する程である。

 ハイエルフと云う存在は得てして長命である。

 それ故に永い年月の中でその精神は成熟され、自らの傲慢さに気付ける様になるのだが、それと同時に永い年月の中で培ってきた性格というものは消せるものでは無かった。


 ピオニアがエルフの後を不可知化した人型偵察機に後を追わせ、クル氏族の部落に潜入させると、本格的な実地調査が行われた。

 現在クルと呼ばれている氏族の数は十三名。

 寿命は一万年程、このレベルの文明水準では妥当と言える寿命だ。

 因みに、ピオニア達の技術レベルだと、肉体を乗り換えることで死を免れることが出来る為、寿命は有って無い様なものだ。

 話を戻そう。

 ピオニアが観察対象として選んだ個体は、その十三名の内最も若い個体であった。

 観察対象の名称はクル・エフダンザー。

 性別は女性で年齢は七百七十七歳、肉体年齢はオーソドックスな人種の七歳相当と断定された。

 精神年齢は見た目に反して大人と言えるものだが、他の歳を重ねた個体と比べれば傲慢さが際立つ。

 見た目に騙されることが出来るならば、ちょっとおませで口達者な子供と言ったところだろうか。

 最も若く活動的な為、エフダンザーは神の踊りと呼ばれる、アーデンの森の各氏族が集まる際に披露されるクフに伝わる踊りを踊る事を役割としており、定期的に開かれる各氏族が集まった会合で、踊りを披露している様だ。

 ピオニアは、こういった報告を聞きながら、可愛らしい見た目で踊りの練習をするエフダンザーの姿を見ながら報告を受けていた。


 さて、ここからはピオニアの事を少し語ろう。

 高度に発達した科学技術によって、肉体を乗り換えることで死という物から遠く離れた存在になっているピオニア。

 だが、こういった存在が抱える問題がある。

 それは長く生きることによる精神または魂の劣化・摩耗だ。

 記憶の消去を定期的に行いある程度は対応は可能だが、それでも限界というものが存在する。

 そこで活用されるのが本能や欲求だ。

 生存本能の強化や三大欲求の肥大化によって、生きたいと思わせ、生きる事に充足感を得やすくする事によって精神と魂の寿命の延長が行われる。

 皮肉にも、肉体を乗り換える事で死を免れる様になった彼等は、その肉体からのアプローチによって精神と魂を保護しているのだ。


 そう云う訳で、ピオニアの欲求というものは強化されているのだが、その結果どうなるのかはこれからのお楽しみ。

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