第33-2話 「キスしてたじゃんか‼︎」

 私は家から程近い小高い丘の上にある公園の上のベンチに座り、景色を眺めていた。


 はぁ……。これからどうすれば良いんだろう。


 新谷んとは距離を置くように頑張ってはいるけど、教室で隣の席に座っている状況を考えるとこの先も距離を置き続けるのは至難の業だ。


 そうなると、今後も上手く付き合っていかないといけないのかもしれないけど……。


「そんなの無理だよ……」


 私は新谷んに惹かれている。


 それは疑いようのない事実だ。


 しかし、新谷んには人目も憚らずキスをしてしまえる程愛している彼女がいるので、これ以上新谷んを好きになるわけにはいかない。


 一度は彼女がいないと分かり期待したが、あの2人は本当に付き合ったのだ。


 そうなったら、私の入る隙なんてもうない。


 あの2人、家族みたいな雰囲気でお似合いだったな……。

 私もあんな風に新谷んと家族みたいになれる日が……なんて夢物語はもう実現しない。


 そんなことを考えていた次の瞬間、私は後ろから何者かに抱きつかれた。


「な、何⁉︎」


 急いで後ろに振り向くとそこには新谷んがいた。


 私は何が何だかわからなくなってしまい、思わず新谷んの顔を殴ってしまった。


「へぶしっ‼︎」

「あ、新谷ん!? 何やってるの⁉︎ 急に抱きつくとかどうかしてるんじゃない⁉︎」


 まずこの場所に新谷んがいること自体に疑問を持ったが、そんな疑問は新谷んが私に抱きついてきたことでかき消された。


「す、すまん。体が勝手に」


 新谷んの言い訳に正当性があればよかったのだが、あまりにも雑な言い訳を聞いた私は眉間にしわを寄せる。


 体が勝手に、で許されるならどんな痴漢魔でも逮捕されないよ。


「か、勝手に女の子を襲うような人だったんだ。新谷んって」

「椎川じゃなきゃこんなことしてねぇよ」


 新谷んからの不意打ちに私は顔を赤くする。


 その顔の前に右手を持っていき、さりげなく顔を隠そうとした。


「俺は椎川以外の女の子には心を許してない。だから椎川以外にはこんなことはしない。あ、いやまあうるはには心を許してるけど」

「じゃあ新谷んはうるはちゃんにも簡単に抱きつく軽い男ってわけだ」

「いや、うるはにも心は開いてるけどさっきみたいに抱きついたりはしないよ。もしかしたら子供の頃にはそういうこともあったかもしれないけど」

「やっぱり軽い男なんだ」

「子供の頃はノーカンだろ」


 わざわざ公園にいる私を見つけて、新谷んが何を言いたいのか理解できない。


 私に対して多少なりとも心を開いてくれているのは嬉しい話だし、今まで散々新谷んにちょっかいをかけた甲斐があったが、それはうるはちゃんに対しても同じなはず。


 それに、新谷んにとって私はうるはちゃんよりも下の存在だ。


 それなら何か話をしたいのなら私ではなくうるはちゃんにしたらいいのに。


「さあね。というかうるはちゃんに抱きついてないわけないじゃん。だってうるはちゃんと付き合ってるんでしょ?」

「いや、それは嘘だ。俺はうるはとは付き合ってない」

「知ってるよ。付き合ってないって嘘ついてたけど本当に付き合いだしたんでしょ」


 私がそういうと、新谷んは不思議そうな表情を浮かべた。


「ちょ、ちょっと待て。ツッコミどころは沢山あるけど、俺が付き合ってないの知ってたのか?」

「知ってたよ。新谷んと橘くんが2人でファミレスにいた時に偶然私も隣の席にいて話盗み聞きしちゃったから」

「なんだよそれ……。まあそれはまだいい。俺とうるはが付き合ってるってのはなんなんだよ」

「だ、だって新谷んたち……」

「新谷んたち?」

「……」

「……?」

「な、なんでもない‼︎」

「気になるだろ‼︎ 教えろよ‼︎」

「嫌だね、教えない‼︎」

「教えてくれ‼︎」

「教えない」

「教えてくれ‼︎」

「教えない‼︎」

「頼む、教えてくれよ……」

「ああもううるさいなぁ‼︎ だって新谷んたち、キスしてたじゃんか‼︎」


 言うつもりはなかったのに、怒りに任せて機嫌が悪かった原因を口走ってしまった。

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