第31-1話 「待て椎川‼︎」

 うるはとの問題が終わったと思った翌日に椎川の機嫌が悪くなると思っていなかった俺は椎川にどのように声をかけようか悩んでいた。


 普通に声をかけたところで椎川はまた逃げてしまうだろう。何とかして椎川が逃げないように声をかけたいのだが……。


 そう思いながらも、気の利いた言葉や椎川の興味を引き付けられるような話は思い浮かばず俺はストレートに声をかけた。


「椎川、なんで……」


 椎川になぜ態度を急変させたのか訊こうとすると、椎川はまた席を立ち俺から逃げるように教室を出て行こうとした。


 予想していた反応ではあるが、俺と椎川の関係は修復されたと思っていただけにダメージは予想以上に大きい。


 とは言え、ここで俺が椎川をそのまま逃がしてしまったら逆戻りしたままになってしまう。そうならないためには椎川を追いかけるしかない。


「望むところだ」


 そう意気込んで椎川を追いかけ始めた。


 あー、なんか既視感デジャヴだなこれ。追いかけてばっかりだわ俺。


「し、椎川!! 待ってくれ!!」

「しつこい‼︎ なんで追いかけてくるわけ⁉︎」

「なんでってそりゃ追いかけるだろ!? 椎川が冷たい態度取ってくるんだから!!」

「別に新谷んにどんな態度取るかなんて私の勝手でしょ!? 追いかけてこないでよ!!」

「じゃあ止まってくれよ!! 椎川が止まってくれたら俺だって追いかけずに済むんだから!!」

「私が止まったら新谷んに捕まるでしょ!?」

「べ、別に捕まえようとはしてねぇよ!! ただ話がしたいだけだ!!」


 そんな風に会話をしながら、俺は椎川を5分ほど追いかけまわしてようやく椎川の腕をつかんだ。


 うるはの時よりも距離があったし、椎川はうるはより足が速かったので捕まえるまでに時間がかかってしまった。


 運動部でもない俺はある程度の足の速さは持ち合わせているが、何せ体力が無い。椎川を追いかけるにしてもすでに限界を迎えてはいたが、追いかけることだけはやめなかった。


「なんで追いかけてきたの!? 今は新谷んと話したくないんだけど!!」

「だ、だって椎川がまた俺に対して冷たくしてるから……」

「それが分かってるなら放っておいてよ‼︎ 別に追いかけてくる必要ないでしょ⁉︎」

「前も言ったじゃねぇか。俺にとって椎川はもう大事な友達なんだよ。もう友達がいなくなるのは嫌なんだ」

「私がいなくなったって平気でしょ。だって新谷んにはうるはちゃんっていう最高に可愛い彼女さんがいるんだから」

「な、なんだそれ。それとこれとは話が別だろ」

「別じゃない」


 椎川がなぜ急に俺に対して怒りの感情を向けてきているのか理解ができない。


 俺に彼女がいるって言うなら椎川にも彼氏がいるし……いや、彼氏がいるかどうかは分からないけどさ……。


「俺、何かしたか? 何かしたなら謝る」

「謝って済む問題じゃないの‼︎ それくらい分かってよもう‼︎ それじゃあ私はイケメンで最高にかっこいい彼氏と遊んでくるから。それじゃあね新谷ん」

「ちょっと待て!! 今謝って済む問題じゃないって言ったな!? てことはやっぱ何か問題があるんじゃないか!!」

「し、知らない!! 別に問題なんてないもん!!」

「ちょ、ちょっと!? おい椎川⁉︎ ま、待て椎川‼︎」


 椎川は俺の腕を振り払ってそのまま俺の前からいなくなってしまった。


 俺が握った椎川の腕はあまりにも華奢で、正直思いっきり握って入れば振り払われることなんてなかったと思う。


 しかし、俺は椎川の腕を離してしまった。


 椎川との関係を崩したくはないと俺なりに頑張って追いかけたつもりだったが、あそこまであからさまに拒否されると無理矢理手を握っているわけにもいかない。


 どうしたんだよ……。なんで理由も教えてくれないまま怒って俺から遠ざかろうとするんだよ……。


 それに、やっぱりイケメンな彼氏がいるんじゃねぇか……。


 体力を失った俺は、その場に大の字で寝転がった。

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