第28-2話 「これからも友達でいてね」
いつも通り登校してきて自分の席についた私は窓の外だけを見るようにしていた。
いつも窓の外を見ているわけではなく、今日は新谷んと関わらないようにするための作戦として窓の外を見ているのである。
いつもなら朝イチで新谷んに声をかけるところだが、今新谷んと関わるのはまずい。非常にまずい。
窓の外を見ていると隣の席にカバンを置く音が聞こえ、新谷んが登校してきたのが分かる。
私は体を硬らせながら、声をかけてくるなムードを出しながら引き続き窓の外を見ていた。
「なぁ椎川」
な、なんでこんな時に限って新谷んから私に声をかけてくるの⁉︎
普段は私から声をかけることばかりで新谷んから声をかけられることは中々ない。
「な、なに? どしたの?」
平然を装おうとしても声が上ずってしまい上手く会話することができない。
それに新谷んの顔を直接見ることもできなくて顔逸らしちゃうし……。
「放課後さ、俺の家こいよ」
「……へ? 新谷んの家?」
「そう。俺の家」
「な、なんで私が新谷んの家に行かないといけないの⁉︎」
私は新谷んからの誘いを聞いて教室にいるにも関わらず大きな声を出してしまった。
新谷んと距離をおこうとしてるのに、なんで新谷んはむしろ私との距離を近づけようとしてくるの⁉︎
一瞬教室中の視線を集めてしまったが、咳払いをしてから話し始めた。
「特に理由はないけど、別に来ない理由もないだろ?」
「そ、そりゃまあ別に行かない理由はないけど……」
「じゃあ決まりな」
「いや、勝手に決められても困るんですけど⁉︎」
「だって断る理由はないんだろ?」
「理由はないけど……」
「なら構わないな。それじゃあ放課後、帰る前に声かけるわ」
「わ、分かった……」
半ば無理やりではあったが、私は新谷んの圧に押されて誘いを断ることができず、新谷んの家へと行くことが決定した。
「お、お邪魔します……」
私はできるだけ小さい声で断りを入れてから新谷んの家へと入っていった。
「別に緊張しなくても大丈夫だぞ。まだ家族誰も帰ってきてないから」
「だ、誰もいないの⁉︎」
誰もいない、と言う言葉を聞いて私は変な妄想をしてしまう。
誰もいないってことは、今この家には私と新谷んの2人しかいなくて何をしてても誰かに見られたりする危険性もなくて……。
てことは新谷んは家に誰もいない隙に私と色々なことやっちゃおうってことで私を家に呼んだってこと⁉︎
となると手を繋いだり抱きついたり、なんてそんな順序なんて無視で一気に……⁉︎
「いたほうがよかったか?」
「いや、いないほうが気楽だけど……」
焦りはしたが、流石に新谷んに限って私を食って取ろうとは思っていないはずなので、一度深呼吸して呼吸を落ち着ける。
それから私は新谷んの部屋へと侵入した。
「まあ座ってくつろいでくれよ」
「いや、くつろぐって言われても……」
男の子の部屋に入るのは初めてだったので、緊張して辺りを見渡してしまう。
初めて入る男の子の部屋は殺風景で、面白みがない。
とはいえ、ザ、男の子の部屋と言った感じの部屋で落ち着くと言えば落ち着く部屋でもある。
そう思っていた矢先、新谷んが私の前に一冊の本を置いてきた。
「え、何これ……卒業アルバム?」
「そうだ。俺の中学の卒業アルバム」
「え、なに、これを見せるためにわざわざ家に呼んだの?」
「そうだよ悪いか」
「別に悪くはないけど……」
なぜ新谷んが私に自分の中学時代の卒業アルバムを見せようとしているのかは謎だが、とりあえず私はページをめくってみることにした。
途中途中で登場する橘やうるはちゃんを見つけて嬉しくなるものの、ページを捲るにつれて私はとあることに気がつき始めてしまった。
「……え、新谷んどこにも写ってなくない?」
新谷んの写真が1枚もないのだ。そんな偶然起きえるのだろうか。
「写ってなくはねぇよ。最後の集合写真にだけはいるよ」
「なんで写ってないの? 偶然写真に写ってなかったの?」
「大体そーゆーのは全員が写るようになってるから、偶然写ってないってことはねぇよ」
「ならなんで……」
「あんまり学校に行ってなかったんだよ」
「……え?」
その瞬間、私は弟の言っていたことがフラッシュバックしていた。
新谷んは中学時代、本当に友達がいなかったんだ。それで学校に行っていなかった日が多いせいで、写真に写っていないのか。
「俺さ、色々あっていじめられてたんだよ。理由は恥ずいから言わないけどな」
「そ、そうだったんだ……。でも、なんでそれを私に?」
新谷が中学時代にいじめられていたのは事前の情報で知っていたので驚きは少ないが、なぜ新谷んはそれを私に伝えようと思ったのだろうか。
自分の汚点、思い出したくない記憶なのだから、わざわざ私に伝える必要はないはずだ。
「中学時代も友達がいなかったからさ、俺が今友達って呼べるのは橘だけなんだよ」
「まあそうだろうね。いじめられてたからって理由は知らなかったけど、新谷んが橘くん以外と学校で喋ってるの聞いたことないし」
「確かにほとんど喋ってないけどな、お前もそのうちの1人なんだよ」
「……へ?」
そう言われてから、しばらく私は息をするのを忘れてしまってしまた。
「お前だけなんだよ。あんなにうざったらしく毎日毎日絡んでくるのは」
「う、うざいってそんなストレートに言わなくても……」
「でもそのうざさが俺にとって大切だったんだよ。だから……」
「だから?」
「こ、これからも友達でいてくれ」
「--え? そんなこと言うために私を家に呼んだの?」
新谷んの発言が、あまりにも軽い内容すぎて私は思わず新谷んにそう聞き返していた。
「な、何がそんなことだ‼︎ こっちからしたら重大なことなんだからな⁉︎」
「はははははっ‼︎ なにそれ新谷んやばい、面白すぎるよそれ‼︎」
思わず腹を抱えて笑ってしまう。
でも、中学時代いじめられていた新谷んからすれば無理矢理にでも絡んでくる私という存在は大切な存在になっていたのかもしれない。
そう思っていることがわかっただけでも、私は飛び跳ねて喜びたい気分になっていた。
「おい、笑うな‼︎ これでも勇気出していったんだからな‼︎」
「ごめんごめん。そうだよね。……こちらこそ、これからも友達でいてね」
「……ありがとう」
「ほら、礼を言うならジュースでも持ってきてよ」
「ちょ、お前急に態度元に戻りすぎ……」
「ほら、早く持ってこないと友達やめるよ‼︎」
「ちょ、調子に乗りやがって‼︎ すぐ持ってきます‼︎」
「持ってくるんかい‼︎ ははははっ‼︎」
ここ最近新谷んと関係は間違いなく悪化していたが、この日を境に関係は改善され元の関係に戻ることができた。
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