第3-2話 「なんで疑問系なの?」

「ねぇねぇ、新谷んって彼女さんとどこにデート行ったりするの?」


 私の新谷んに対する質問はいつも唐突に行われる。

 質問の内容に意味が込められているパターンは存在しておらず、ただなんとなく思いついた疑問を投げかけているだけだ。


「……水族館、とか?」

「いやなんで疑問系なの?」


 なんとなくした質問ではあったが、その返答があまりにも曖昧で私は違和感を覚えた。

 

 どこにデートに行くかと訊かれれば、「この前は映画館に行った」とか、「先週は水族館に行った」と実際に行った場所の話をするはずなのに、疑問系で「水族館とか?」と発言されると違和感しか覚えない。


 あの言い方はデートで実際に水族館に行った経験のある人の言い方ではなかった。


 何か裏がありそうな気がする。


「す、水族館だけじゃないぞ。映画だって観に行くしショッピングにだって行ったりもする」

「……へぇ。そうなんだ」


 私が疑問系であることを問い詰めたせいか新谷んの声は微妙に震えており、その声に焦りが含まれているのは一目瞭然。


 それに水族館や映画館はデートの定番スポットではあるが、どこか嘘くさいような気がしてしまう。

 まあデートなんて定番スポットって言葉があるくらいなのだから、それに違和感を覚えるのは変な話なのかもしれないけど。

 

「それで、次はいつデートするの?」


 新谷んの返答を訝しんだ私は思わず質問攻めをしてしまう。

 あまりにも怪しんでいる雰囲気を出すと警戒されてしまうが、気になってしまったからには質問せずにはいられない。

 

「今週の土曜日」

「へぇ。そうなんだ。写真、楽しみにしとくね」

「……は? 写真?」


 カップルがデートに行けば写真の1枚や2枚撮らないはずがない。

 それを、撮らない、見せられないと主張するのであれば、新谷んの言葉にはさらに怪しさが出てくる。


「うん。写真」

「前に彼女の写真見せたときもそうだったけどな、なんで俺が椎川にデートの写真を見せなきゃいけないんだよ」

「私が見たいから」

「だからそれじゃあ理由になってないっての。それに俺たちあんまり写真とか取るタイプじゃねぇから」

「えー、そんなカップルいる?」

「実際ここにいるんだから仕方ないだろ」


 あまりに新谷んの言葉の節々に違和感があるので、更に質問を続けようとしたところで新谷んの親友である橘くんが割って入ってきた

 

「新谷の彼女が写真苦手なのは本当だぞ」


 新谷んと橘くんは親友で、友達のいない新谷んにとっては唯一の友人であり、休み時間に2人で会話している場面をよく見かける。

 そんな橘くんが新谷んの彼女は写真が苦手だと言っているのだから、やはり写真を撮らないのは事実なのだろうか。


 写真の件についてはこれ以上問い詰めても意味がなさそうなので、新谷んの彼女についても色々知っていそうな橘くんにも質問を続けることにした。

 

「橘くん新谷んの彼女に会ったことあるの?」

「会ったことあるもなにも3人で一緒に遊んだりしてるからな」


 3人で一緒に遊んだことがあるとなると、新谷んに彼女がいるのは嘘ではなさそうだ。


 それなら、先程新谷んが焦った様子を見せていたのはなぜなのだろう。


「へぇ。そうなんだ。じゃあ土曜日の新谷んたちのデート、私と橘くんも一緒について行こっか」


 流石に無理な提案であることは理解しているが、新谷んが焦りからボロを出すことも期待して提案してみた。


「だから、じゃあの意味が分かんねぇよ文脈無さ過ぎるだろ。何でそんなバカなことばっか思いつくのか……。絶対にやめてくれ」

「えーいけず〜」

「面白そうだけど流石にデートについていくわけにはいかないだろ。新谷だって色々やりたいこともあるだろうし」  

「……まあそりゃそうだね。私たちがいたら人目を憚らずに街中でキスとかできないもんね」

「いてもいなくてもそんなことしねぇよ」


 無理な提案であることは理解していたので、橘くんの発言に合わせて返答をしたところで授業開始のチャイムが鳴って会話は終了となり、新谷んに彼女がいるのかどうかは謎のままとなってしまった。

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