第1-2話 「私と付き合わない?」

 高校生の私、椎川しいかわ望結みゆうには彼氏がいる。


 顔面偏差値は控えめに言って上の下といったところで、彼氏がいなかった頃は学校中の男子が私に好意を寄せていたと言っても過言ではなく、そんな私に彼氏がいるのは不思議なことではない。


 彼氏がいるという事実は私が通っている高校の中でも周知の事実となっており、学校内でこの事実を知らない者は存在しないだろう。


 彼氏の名前は鈴木すずき しん


 SNSで知り合い連絡を取るようになり、そこから関係を深めて付き合うに至った。

 SNSで彼氏を見つけたと聞くと軽い女だと思われるかもしれないが、私は彼氏を愛している。


 彼氏がいると公言しているせいか、顔面偏差値が控え目に言って上の下と整った顔立ちをしていてもあまり男子が寄ってくることはない。

 寄ってこないとは言っても全く関わりがないわけではなく、楽しく談笑したりはする。


 ただ、そこから友達以上の関係に発展した経験はない。


 そりゃ彼氏がいるのだから、友達以上の関係に発展しないのは当然だ。


 恋愛対象として見られるとその男子との関わり方や関係性が変わってきてしまうので、恋愛対象として見られない方が個人的には楽である。


 負け惜しみでも何でもなく、恋愛対象として見られるとその男子との関わり方や関係性が変わってきてしまうので、恋愛対象として見られない方が個人的には楽である。


 私と恋愛関係になろうという男子はいないが、たった1人だけ友人の枠を飛び越えて、私の方から恋愛関係になろうと声をかけている男子がいる。


「ねぇ新谷ん、私と付き合わない?」


 そう声をかけたのは隣の席に座っているクラスメイトの新谷直生。

 告白したら相手は狼狽するのが正常な反応なのだろうが、新谷んは狼狽するどころか呆れた顔を私に向けてきた。


 身長は178センチ、顔面偏差値も高めで友人も多く何一つ悪いところが見当たらない。

 強いていうとしたら若干対応が素っ気ないことと、あと2センチあれば180センチに到達していたのに、その2センチを手に入れられなかったことくらいだろうか。


「毎日言ってるけどな、なんでお前と付き合わないといけないんだよ。俺に彼女がいるって知ってるだろ?」

「そりゃ知ってるけどさー。だって新谷んいい男だし?」


 彼氏がいると公言している女子からそんなことを言われれば困惑するのも無理はない。


 しかし、逆に言えば彼氏がいるからこそ、こんな風に冗談を言えるのである。

 もし彼氏がいない女子から告白をされたら本気の告白だと思われてしまうが、彼氏がいる女子からの告白であれば本気だとは思うまい。


「バカなこと言ってんじゃねぇよ。お前も彼氏いるじゃねぇか」

「あちゃー。バレてたか」


 私は新谷んに彼女がいることを知っていながら、毎日こうして冗談で告白をしている。

 その告白を、「彼女がいるから」と言って断られた回数は数えきれない。 


 あ、あとセットで「お前彼氏いるだろ」と言われた回数も数えきれない。


 しかし、私にとって新谷んにも彼女がいて、私にも彼氏がいるというこの状況は楽で仕方がないし、新谷んにとっても私との関係が楽なもので、有益なものになっていたら嬉しいなと思う。

 

 まあ私には彼氏がいるのだから新谷んと付き合う資格は無いし、新谷んにも彼女がいるのだから私と付き合う資格なんてない。

 この状況こそが私が求めていた最高の状態なのである。


「バレてるも何もお前が自分で言いふらしてんだろうが。そんな奴が簡単に告白まがいのことしてんじゃねぇよ」

「だって新谷んいい男だし?」

「それしかレパートリーないのかよ」


 新谷んとは、私に彼氏がいなかったら付き合いたいとさえ思う。

 だって新谷んは私の内面を見てくれた初めての男子なのだから。


 先程から冗談で告白をしてみたり、彼氏がいなければ付き合いたいとさえ思う、なんて突拍子もないことを考えたりしているが、そもそも新谷んに彼女がいる時点で私が新谷んの彼女になることはできないし、彼氏がいるのにそんなことを言う資格もないと思う人もいるだろう。


 しかし、実は資格がないわけでもない。


 なぜなら、私、椎川望結には彼氏なんていないのだから。

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