ラストチャレンジャー
@LaRoeGavriel
1話 少年は死にたい。
プロローグ 少年は死にたい。
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「綺麗だなぁ」
そう表情一つ変えず口ずさんだのは明るい街並みを眺める少年だった。少年は光を失った銅色の瞳をまだ太陽に照らされる街並みに向ける。
制服を着た少年は風によって髪の毛が無造作に散らばっている。
「ふー」
息を深く吸う。
少年は、今から死ぬのだ。
しかし少年に恐怖や後悔などの雑念は無く、あるのは解放される可能性への期待だった。
少年は15階以上はあるであろうビルのフェンスの上に立っている。
足場は少年の足のごく一部の面積であり、少しでも動けば落下の危険がある。
「あっ」
少年はふとある事に気がつくとフェンスから一旦屋上の地面に降りて屋上の入り口へと足を運ぶ。
ガラス張りの入り口は粉々に割れており、破壊に使用されたであろうベンチが転がっている。
床に散らばったガラスの破片を踏みながら自分のバッグの中を漁る。そこからゆっくりと取り出されたのは黒い十字架のネックレスだった。
「一緒に行かなきゃだよな」
少年は優しい声でネックレスに話しかける。
そのネックレスを身に付けて少年は再びフェンスへと足を動かす。
フェンスの上に乗り、腕を大きく広げて風を感じる。
「おい!そこのお前!危ないぞ!」
下から通行人が何かを訴えかけてきているが少年の耳には入っていない。
「空ってこんなに綺麗なのか」
美しい水色が広がる空、所々に薄い雲がより良い味を出している。
「ごめんな.....みんな助けられなくて」
光を失った銅色の瞳に潤いが広がっていく。やがてそれは溜まっていき、涙として頬を伝い顎から垂れていく。
涙を拭い、もう一度空を見上げる。
「お母さん....俺、空を飛ぶよ」
涙でぐちゃぐちゃになった作り笑顔を空に見せつけ、
少年は足を動かす。
地面と垂直だった体は徐々に平行へと変わっていき、
落ちれば落ちるほど体に重みが掛かる。
「やっとだ....やっとみんなと..」
終わりが近づき、少年は目を閉じる。
きっともう二度と開かないであろう瞼をゆっくりと閉じた。
「今、いくよ、みん」
そう心で言いかけた時だった。
「ダメえええええええッ!スピカッ!死なないで!
スピカああああああ」
少女の声がする。その声の大きさに驚き、目を開けてしまう。
もうすぐ体は地面に衝突する。だが目を開けたその先、先程立っていた屋上に人影が見える。
視界は涙で薄まっており顔はよく見えない。
けれど少年は何も意味を理解できなかった。
何せ少年の名前はスピカではない。
少女は死に行く少年とは違う名を少年に叫んでいた。
少年の体は上向きから地面の方向へ自然に変わっていく。
『違う。俺の名前は』
そう再び死を覚悟し、目を閉じ、自分の名前を思い浮かべる。
ー瞬間、体に掛かる重力は消え失せ、落下する感覚も、風の音も、何もかもが消失した。
『あぁ。死んだのか。きっと、死んだのだろう』
「まだだよ。まだ死んでない」
あまりにも耳元から聞こえてくる女性の声に驚き瞼を開けてしまう。
「ーーー?」
瞼を開けれたのだ。即ちそれは死んではいないという事。
「っ!?」
しかし瞼を開けた先の景色は、地面だ。
自分が落下していた地面、鼻の先にコンクリートの地面が広がっている。だが不思議と体は落下を続けず、空中に静止している。
「ごめんね、こんなところで止めてしまって」
「え?」
真隣から聞こえてくる声、だが横を向こうにも首は動かない。
「あなたにお願いがあるの。もう生きる力が無いのは知っている。それでも最後のお願いをしにきたの」
何がなんだかわからなかった。けれど少年は何故か自分の置かれている状況を冷静に理解し、会話を行う。
「悪い、もう解放されたいんだ」
「分かってる。あなたが辛いのは分かってる。
けれど、あなたが今から
大勢の人を助けれるとするなら?」
「っ.....やめてくれ。知ってるだろ、俺は失敗したんだ、全てに。」
「じゃあもうダメもとでお願いするね。
私を助けて欲しい。」
「......」
助け。それは皮肉ながら少年に1番の勇気を与え、
1番の傷を与えた物である。
「どうして.....俺なんだ」
少年は掠れるほど小さな声で問う。
「あなたを必要としているからだよ」
その言葉は、何故だか少年の心を大きく揺らした。
そして少年の銅色の瞳に、光が浮かんだ。
「ありがとう」
女性の声が終わると共に少年は落下運動を再開する。
鼻の先にあった地面は、やがて鼻にめり込み、顔が潰れ、そのまま身体も地面へと衝突する。
「ぁあがぅ」
声とは呼べないその悲痛な音と共に、体の骨と肉が弾け、その間から血が勢いよく散乱する。
肉の音か、骨の音か、それは定かでは無いが辺り一体は少年だった物によって汚されいった。
その日、少年は死んだ。
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