冬の魔法使い

@oto1103

情動心景

 ふと思い立ち、少し遠回りをすることにした。辺りは仄暗く、冬の訪れを感じさせる11月の夕暮れ。なだらかな勾配を上った先の丘の上に立ち街を眺める。活気づいた中心部から少し離れた人気のないその場所で街を眺める。時刻は18時をまわろうとしていた。そろそろ帰ろうと立ち上がる。特に意味もなく、立ち寄った場所を離れることに少し躊躇いがあったのはきっと、何か、本当にしたいことがあって、忘れているだけではないかと、心のどこかで思っていたからかもしれない。見上げた空はいつの間にか太陽の明るさを失いつつあった。もう一度、最後に街に目を向けた。このまま帰宅することに、どうしても抵抗があったから。一つの影を見た。光を失いつつあるこの街でただ一つ、他とは根本的に違う美しい少女を見た。なびく長髪は瑠璃、透き通る肌は真珠、凛とし歩く姿は湖を悠々と進む白鳥を連想させる。気づいたときにはその少女を追いかけていた。追いかけたところでどうなる。これでは変質者か何かだ。理性がそいののことに気づかせてくれるのは少し後のことになるだろう。これは運命的な出会いの一刻ほど前の出来事であり、僕の日常を吹き飛ばした、突風であった。|

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