チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【23】どんな姿になっても君を愛す PART1【なずみのホラー便 第110弾】

なずみ智子

どんな姿になっても君を愛す PART1

【問題】


 雪雄さんには、ずっと忘れられない女性がいました。

 時を戻せるものなら彼女と結婚したかった。やはり彼女以上の女性なんていない。彼女のためなら俺はどんなことだってできる……と、その女性のことを思うたびに雪雄さんの胸は切なく疼きます。

 女性にはもう十年以上も会っていません。

 彼女は今頃、どこで何をしているのでしょうか? 時を重ねた彼女はどれだけ美しい女性になっているでしょうか?

 ハイスペックな男性と結婚して優雅な奥様となっているのでしょうか? それとも、キャリアウーマンとして輝く日々を送っているのでしょうか?

 そんなある日のこと、雪雄さんは偶然にも女性の消息を知りました。

 なんと、女性は数年前に事故で全身に大火傷を負ってしまったとのことです。

 それは命が助かったことが不思議なほどの事故であり、長期にわたる入院から自宅へと戻った後も、女性は家から一歩も出ることなく、毎日泣き暮らしているとも聞きました。

 しかし、女性の見た目が以前とどれだけ変わっていたとしても、雪雄さんへの彼女への愛には一切の揺らぎはなく、いえ、その思いはより強くなりました。

 ”どんな姿になっても君を愛す”。しかし、時が巻き戻せるものなら、俺が彼女の大火傷の痕を全て消してやりたい……。

 そんな雪雄さんの思いに気付いたのか、人外の存在がある取引を彼に持ちかけてきました。

「時を巻き戻すことはできぬが、お前が真に愛する女の大火傷の痕を消すことは可能だ。だが、それはお前が持っているものと引き換えとなるがな」と。

 雪雄さんは、取引を行いました。

 そして今、家を出た雪雄さんは最愛の女性と暮らしています。

 美しい笑顔で微笑む女性の顔にも体にも、大火傷の痕はもう少しも残っていません。

 さて、雪雄さんはいったい何と引き換えに女性の大火傷の痕を消したのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : 感動的なお話です。雪雄さんは、ずっと忘れられなかった女性の顔も身体も元通りにして、心の傷までも癒してあげたのですね。


チエコ先生 : ……感動的なお話かどうかは、誰の視点に立って、この話を解釈するかによるわ。キクちゃんは、雪雄さんは何と引き換えに女性の大火傷の痕を消したのだと思う?


キクちゃん : 人外の存在と取引を行ったんですよね。この人外の存在について、突き詰めていこうとすると、本題から外れてしまいそうな気がするのでやめておきます。でも、こういった存在に引き換えに差し出すものの定番といったら、やはり寿命もしくは魂であるかと思います。雪雄さんは、自分の寿命を引き換えにしたのですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : となると、魂ですか? 自分が死んだ後はこの魂を好きにしてくれ。俺は地獄に落ちても構わないから……と。


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : 寿命でも魂でもないとなると……あ! 「地獄の沙汰も金次第」というように、人外の存在相手であっても雪雄さんはお金で取引を行った。自分の全財産を差し出したということですか?


チエコ先生 : NO。キクちゃん、もう一度、問題文をよく読んでみて。


キクちゃん ; 雪雄さんは十年以上も女性のことを思い続けていて、「女性の見た目が以前とどれだけ変わっていたとしても、雪雄さんへの彼女への愛には一切の揺らぎはなく、いえ、その思いはより強くなりました。」とありますね。それほどまでの愛は、雪雄さんに自分自身の肌と引き換えに、女性の大火傷の痕を消してもらうことを決意させたんでしょうか?


チエコ先生 : NO。でも、その調子よ。引き換え、つまり”交換”が解答に辿り着くためのキーポイントよ。


キクちゃん : ……交換って”対価”という意味ではなく、肌そのものの交換だったんですか? そうなると、全く感動的な話じゃなくなってきたような気が……雪雄さんは女性を救うために、”自分ではない誰かの肌”を犠牲にしたのですね。でも、人外の存在は「それはお前が持っているものと引き換えとなるがな」と言っています。雪雄さん自身ではないけど、雪雄さんが持っている”もの”と引き換え……これって、まさか……


チエコ先生 : そうよ、その調子よ。


キクちゃん : 雪雄さんが女性を思い続けたまま、ずっと独身を貫いていたとはどこにも書いていません。雪雄さんは既婚者であり、”家庭を持っていた”。雪雄さんは自分が持っていた家庭の中にいた妻の肌を取引の交換対象として差し出したんですね。


チエコ先生 ; YES。正解よ。妻であれ、夫であれ、人は誰の所有物でもないわ。けれども、キクちゃんが考察したように、雪雄さんの持っているものには”家庭”があり、その家庭の中にいる妻の肌を交換対象とすることを、人外の存在は「まあ良しとするか」と判断したんでしょうね。問題文中には「そして今、家を出た雪雄さんは最愛の女性と暮らしています。」とあるから、雪雄さんは結婚までした相手を、自分の思いを満たさんがために利用し、体にも心にも癒えぬ傷を負わせたまま捨てたのよ。


キクちゃん : 本当に……これは感動的な話なんかじゃなくて、最低な男の話ですね。



(完)

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