違う違う昨日と違う

シヨゥ

第1話

「昨日の俺と、今日の俺は違う人間だから」

 そんな不思議な考え方をする友達がいる。

「いやいや僕から見たら昨日の君も今日の君も大した違いはないよ。整形でもしたの?」

「いや、してない」

「じゃあ髪でも切った?」

「いや、切ってない」

「じゃあ改名でもした?」

「いやしてない」

「ほら何も変わっていないじゃないか。姿形が一緒で、君を表す名前すら一緒なんだから昨日の君と今日の君は同じ人間だよ」

「いやいや同じ人間なわけがない。人間がずっと同じだったらここまで進化していないって。

 たしかに外見は変わらない。いや変わっているけれど気づかれるほどの変化はないというのが正しいか。その変化というのは細胞ひとつひとつの微細な変化だ。でも変化しているということは俺は見た目からして昨日とは違う人間だと言える」

「そうかな?」

「そうだとも。それに俺の脳には昨日1日の記憶と経験が蓄積されている。昨日の過ちを今日の俺は犯すことがない。つまり進化して昨日の俺とは違う今日の俺になったと言える」

「そう……なのかもしれないけど、やっぱりぼくには同じに見えるよ」

「だからお前は過去を引きずりがちなんだ。今日の自分は昨日の自分と違う。そう考えたら過去なんて引きずらなくなるぞ」

「それは難しいよ」

「こう考えてみろ。昨日の失敗は昨日の自分のせい。昨日の自分が深く反省したんだ。だから別に今日はその問題を考える必要はない。さらにその先の新しいことを考えるのが今日の自分の仕事。そう考えるだけで心が軽くならないか?」

「なるとは思うけどさ。難しいって。そこまでポジティブになれないって」

「慣れだよ慣れ。こう考えるようになってから毎日が楽しいぞ。っともうこんな時間か」

「用事でもあるの?」

「リベンジマッチ。昨日フラれた子に別のアプローチ方法を試してみようと思って。いつもこの時間に喫茶店に通うのを日課にしているみたいだから。そんじゃ行ってくるわ」

 彼は颯爽と駆けていく。不思議な考え方の彼は友達の中でも1番の遊び人。ただそれが彼なりの努力の証だからか不思議と憎めない。本当に不思議な人だ。

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