第110話 たった一人で百万の兵士を殲滅したからでは?
トーコさんが王都へと戻り、スズハたちがようやく復活して日常へと戻った頃。
ぼくはトーコさんに頼まれた内容について、アヤノさんに相談していた。
「閣下自ら調査に、ですか。なるほど……」
考え込むアヤノさんは、現在のぼくの領地における事務総長的な役割の人で。
外見はよく見れば整っているけど華がない、ぼくと同じでいわゆるモブ顔男子だけれど。
その中身はローエングリン辺境伯領の事務を一手に引き受ける、超有能官僚なのだ。
まだ誰にも言っていないけれど、ぼくとしてはこの恩を返すため、いつかアヤノさんの結婚相手を探してあげたいと思っていたりもする。
それでアヤノさんが、ずっとこの領地に暮らしてくれるといいなあ。なんて。
それはともかく、今はぼくが長期間、この城を離れることをどう判断するか。
「アヤノさんはこの話、どう思うかな?」
「よろしいのではないでしょうか」
「そう思う?」
「トーコ女王の提案は理解できますし、早急に対処すべき事項でもありますから。それに閣下の能力を最大限に活用するためにはこの城内で事務仕事などさせておくべきではない、という点でも同意です」
「たしかにぼくも、外で山賊退治とかしてた方が気が楽かなあ」
「閣下に山賊退治などさせたなら、国際問題になるものまで狩ってきそうですね……まあそれはともかく、辺境伯領のほうは何とかなるでしょう」
「そりゃよかった」
事の発端は一月前、王都での戦勝パレードがあった時に遡る。
その戦勝パレード後の祝勝会で、敗北した敵の領地をぼくが丸々押しつけられた結果。
ローエングリン辺境伯領はなぜか、以前の倍以上に膨らんでしまったのだった。
そりゃぼくだって、愚痴の一つも漏らしたくなる。
「ただでさえ元の領地で大変だったのに、なんで領土が倍に膨らんだのか本当に謎だよ」
ぼくがそう言うと、アヤノさんがなぜかアホの子を見るような目を向けて。
「……それは閣下が、たった一人で百万の兵士を殲滅したからでは?」
「そうは言うけど、ユズリハさん並に滅茶苦茶強い人なんて一人もいなかったからね? それどころか、スズハくらい強い女騎士すらいなかったかも?」
「そんなものいるわけがないでしょう。それにもし仮に、スズハさんが百万人──いえ、たった百人でもいたら、この大陸はとっくに制圧されて兄妹が婚姻可能になっています」
「アヤノさんは大げさだなあ」
アヤノさんは軍事方面には詳しくないのか、ぼくやスズハの戦力を過剰に評価しすぎるきらいがある。
「それはともかく、領地拡大に伴う事務仕事の増加は、サクラギ公爵家から送りこまれた人材で十分にカバー可能だと思われます」
いきなり領地が倍になって困ってたぼくに、手を差し伸べてくれたのがサクラギ公爵。
つまりユズリハさんの父親で。
トーコさんが来るのと前後して、かなりの人数の事務官僚をローエングリン辺境伯領に送り込んでくれたのだった。
「わたしもこの目で確認しましたが、サクラギ公爵家は相当に気合いを入れていますね。どの人材も間違いなくトップクラスで、大国の上級官僚も余裕でこなせるレベルですから。いかな公爵家といえど、あれだけの質と量を兼ね備えた人材を送り込むのは相当苦労したはずですよ」
「そうなんだ──ユズリハさんだけじゃなくて、父親のサクラギ公爵も本当いい人だよね。ぼくなんかにそこまで協力してくれてさ」
「むしろ閣下だからこそ、最大限の協力をしてくれたのだと思いますが?」
「……否定できないかも……」
サクラギ公爵、ぼくを謎に買いかぶっているフシがあるんだよなあ。
それさえ無ければ優秀な公爵閣下だと思うんだけれど。
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