2章 王女とゴブリン退治と吸血鬼(死闘編)
第14話 キミが噂のスズハ兄だね?
ある日、スズハが学園のテストを手伝って欲しいと言ってきた。
「試験勉強を教えてほしいってこと?」
「いえ兄さん、そうではなく」
詳しく話を聞いてみると、王立最強騎士女学園一年生の最初の中間考査はゴブリン退治で、数日かけてゴブリンの集落に遠征するのだという。
そこでぼくに、遠征のお手伝いを頼みたいとのことだった。
「なんでも予定の人員が欠けたらしく、ユズリハさんが直々に兄さんを指名してきました。まあ兄さんを名指しするあたり、さすがは生徒会長と言えましょうが──それで兄さんはどうします? 日当などはきちんと出すと言ってましたが」
「もちろん行くよ」
ぼくとしては否応もない。
なんたって、大貴族から名指しの召集令状である。
なにをするのかも知らないけれど、それでも応じるしかないのだ。
****
試験初日。
スズハと一緒に学園の集合場所まで行くと、そこにはユズリハさんともう一人、見知らぬ顔の少女がいた。
年齢はスズハやユズリハさんと同世代。
ユズリハさんと気安く喋っているところを見ると、この子もきっと貴族なのだろう。
ぼくたちが近づくと、少女は屈託の無い笑顔で挨拶してきた。
「やあやあ。キミが噂のスズハ兄だね?」
「なんですかそのスズハ兄って」
「だってスズハの兄でしょ? だからスズハ兄。ボクはトーコって言うんだ、今後ともよろしくね?」
「こちらこそ」
貴族なんだろうけど、随分と気さくな態度だ。
それにトーコさんは名乗りこそしたが、爵位も家名も口にしていない。つまりお互い貴族と平民ではなく、身分に縛られない人間関係を結びたいという意志の表れである。
ならばその心遣い、有難く乗っておこう。
さすがに敬語は崩せないけど。
「えっと、トーコさんはスズハと同じ新入生なんですか? それともユズリハさんと同じクラスとか?」
「どっちでもないよ、ボクは学園関係者だけど生徒じゃないからね。スズハ兄と一緒」
「ああ。お手伝い」
「そういうこと。ボクは魔法が専門なんだ、騎士なんてとてもとても」
「……ふん、よく言う……」
「うっさいなー。ユズリハは黙ってて」
なにか言いたげなユズリハさんの態度を見るに、トーコさんとやら、ただのお手伝いではなさそうだ。
そして言われてみれば、たしかに着ているものも魔道士っぽい感じ。
白いブラウスにリボンタイ、下はミニスカートにニーハイソックスという王立最強騎士女学園の制服を着た二人と違って、トーコさんは黒ずくめの服装だった。
黒いブラウスに黒いホットパンツ、黒いロングブーツからはパツパツのふとももが剥き出し。
それに黒目とボブカットの黒髪で、なんなら魔道士用の杖まで持っている。
「では、同じ手伝いということで、よろしくお願いします」
「うんうんスズハ兄。よろしくねー」
「実はぼく、お手伝いとは聞いてるんですが、どんな仕事をするのかまるで知らなくて」
「んー? まあ別に、大したことはないから気にしなくていいんじゃないかな。その都度ボクも指示するし」
「助かります」
頭を下げるぼくに、トーコさんはうむうむと頷いて、
「それじゃーまずは、ボクを肩車して運んでね」
「はい。……はい?」
「あのねえ。ボクは弱っちい魔道士なんだよ、長時間歩いて移動なんて大変でしょ? だからスズハ兄が運んでくれてもいいんじゃない?」
「……それはいいですけど、肩車の意味は?」
「しっかり周囲を見渡すには、ボクの背は低いからねー」
まあ別にいいけど。
トーコさんの今にもはち切れそうなほどムチムチした太ももの間に潜り、えいやっと立ち上がる。
「おー、高い高い! よく見えるよ!」
子供のようにはしゃぐトーコさん。
万が一にも落とさないようにバランスを取っていると、背中をツンツンつつかれた。
「あの、兄さん……後でわたしも、いいでしょうか……?」
「いいけどさ。でもスズハはスカートだからパンツ丸見えになるよ?」
「うっ……兄さんにはしたない姿を見せるのは……でも兄さんの肩車は魅力的ですしっ……!」
スズハが本気で悩み始めてしまった。
まあぼくがスズハを肩車したとしたら、ぼくにはパンツ見えないんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます