マヤノプロジェクト

ウキタ リュウ

絶対に当たるんです①


『今はパッとしないですが、来週発売される子供向けのおもちゃ『たまモン』が大ヒットします』

「えーと、つまり?」

『明日の15時に、バンドー社の株を買えるだけ買ってください。売るタイミングは指示します』

「わかった。……間違いないんだよね?」

『もちろん! これまでに私がウソをついたことがありましたか?』

「……いいえ、一度も」

『ふふっ、それでは良い明日を』

“彼女”はいつものセリフは言って、電話を切った。


 鳴海マヤ。

 知り合ったのはもう1年近く前になるだろうか。

 僕がまだ駆け出しの個人事業主だった頃、仕事に繋がればと参加した同業界の交流会に彼女はいた。


 電子機器を扱うメーカーやシステム開発の企業が集まる立食パーティーだった。

 以前勤めていた会社がそこそこの大手だったので、その名刺を使えばすんなり参加することができた。

 主催者の挨拶とプレゼンが終わると(まぁよくある、交流会という名目のリクルーティング(転職の誘い)だ)彼女はグラスを片手に僕に近づき、名刺を渡しながら月並みな挨拶をした。


 Ms.Wednesday inc. 丸の内にある、最近日本に進出してきた外資系のシェアオフィスが住所だった。

 良い場所に入居しているな、こんなに若いのに……


 そう、彼女は若かった。大学生だと言われても違和感が無い、そんな外見だった。

 手にしているのもアルコールではなくジュースのようだった。

 未成年? いやいや……新卒が一人でこんなところに? と訝しんだが、彼女は「いいえ、1年目じゃありません」と笑った。

 見た目の若さに反してキャリアを積んでいるのだろうか。

 得をすることが多そうだが、それ故に苦労も多そうな外見だ。

 おっと、こんなことをうっかり口にしようものなら、セクハラだなんて言われてしまうな。昨今は厳しいからな......

 こんな中堅どころの男たちが集まる場所で、彼女の様な若い女性が一人で歩き回っていても浮かなかったのは、堂々とした振る舞いのせいだったのかもしれない。


 20分程度だろうか。ちょっとした雑談とこれまでの仕事のことを話し、実は独立したんだと打ち明けたあたりで、それまで小気味好く相槌を打っては合いの手を入れてくれていた彼女は「私は……」と口を開いた。



 — 私はデータ分析の仕事をしているんです。アナリストです。

 え? 珍しいですか? ……んー、確かに男の人の方が多いかもしれませんね。

 でも私はデータが好きなんです。

 だって面白いと思いませんか? 過去の積み重ねなんです。過去の積み重ねなんですけど、データを何のために使うのかと言うと「未来を予測するため」なんですよね。


 だから私は、過去を観ることで未来を予測できる、そんなお仕事をしているんです。

 これでも私、けっこうすごいんですよ。あ、そうです……そこに書いてある……あはは、そうなんです。私も自分で会社をやっているんです。

 だから、経営者としては先輩になりますね。そうですよ、何でも聞いてください。あはは、すみません。脱税のこととか。あはは。


 そうそう、私の市場予測はよく当たるって評判なんです。百発、そうですね、百中です。あまりにもよく当たるものだから、本当に未来が見えているんじゃないかって、最近じゃ偉い人からもお仕事をもらうようになったんです。いや言えませんよ、守秘義務がありますから。でもそうですね、絶対知っている人ですよ。

 秘訣ですか? んー……何て言えばいいんだろう。

 え? AI?

 違いますね〜。百発百中ですよ。

 ……………

 ………………………

 ……ふふっ。

 正解です。ウソじゃないですよ。……試してみましょうか? —

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