25.冷徹になっていくレオナ
しかし兄の死を間近で見て、カナから訓練を受けてきた彼女にとって心を動かされるものではなくなっていた。
(なんだ。死んだのか。ならもうすぐあの世で会えるわよ。ごめんなさいね)
内心では謝りつつも、仕掛けを回収しようとは思わない。屋敷に提供した品は四つ。四つとも品質的には最上級だ。使用人は「主の衣服を仕立てるときに使おう」と嬉しがっていた。屋敷の主が触らないわけがない。この屋敷も勝手に自滅するだろう。
「失礼いたしました」
役に立たない情報だったと苦々しい思いは表情に出さない。残り僅かの命であろう主に会釈して屋敷をでた。
✝ ✝ ✝
最上地区で沢山の暗殺依頼を遂行してきたためにカナは有名人だ。出入りすると高確率でビラが配られる。それゆえにカナと会う場所は下級の地区になっていた。レオナがカナの家に行くと大抵「もう移動した」と言われる。万が一を考えて、二週間ほどで住居を移しているのだ。今回も例外ではなく、カナに案内されて新しい住居に入った。今回は川の近くに立っていた空家を使っている。
調度品は毎回変わる。近くで捨てられているものをカナ自身が手直しして使うらしい。
「カナ姐。終わったよ」
レオナが座っているソファーも川辺に捨てられていたものだ。カナがやる気を出して修理すると新品同様になる。
「レオナ、いい知らせよ。あなたが昨日までに標的にした者は死亡を確認したわ」
「調べてくれたの? 仕事があったんじゃないの?」
「まあ。私は毒殺した遺族にお悔やみを申し上げるのが楽しみだからね」
カナはくすぐったそうに笑った。
カナの様子に安心しながら、ジョンに会った事を話した。
「そうだったの! まさか体に触れられたりしたんじゃないでしょうね?」
こんなに不安げな声を出すことは珍しいと思い、レオナは事細かに答えた。
「殺そうとナイフを向けたんだけど。避けられて、手首を拘束された。挙句、戦略が甘いって。あれほど訓練したのに、あんなにあっさり抑えられるなんて」
カナは慌てて手首を消毒しろと騒ぎたてる。
「どうしたの? そんなに慌てなくても」
「アイツは殺しの中でも私と同じ毒が専門なんだと言ったろう」
「嘘! もう遅いよ。食事だってしちゃったし。体に入ったかも」
「アイツは気分屋だから何をするか分からない。少し様子を見よう。どこかおかしかったら言うんだぞ」
ゴシゴシとあちこち拭ってくれるカナに、安心した。レオナは眼を閉じ、はいと返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます