28、幻想

 深い森の中

 それはある

 ただよう霧を抜けて

 小川を渡り

 灌木を乗り越え

 沼を迂回して

 ようやくたどりつく

 その小屋は

 手間をかけて足を運ぶだけの価値がある場所だ

 小屋の中にはたくさんの本がある

 これまでに私が読んだことのある本

 それも特別な領域にまつわる本ばかりだ

 一番最初の本は幼稚園でもらった絵本

 そこに載っている夜の写真がこの小屋にそれが置かれている所以だ

 雨上がりの夜の公園

 ジャングルジムの水滴が街灯の明かりを受けて光っている

 その写真で私は初めて夜の雰囲気を知った

 ひんやりと冷たく

 静かで

 何かが潜んでいるような不穏さをたたえた

 夜の世界

 何が潜んでいるのか

 じっと息を詰めて

 こちらをうかがっている気配

 その正体を知りたくて私は今日もその小屋へと向かう

 深い森の中

 ただよう霧を抜けて

 

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