『ヒカリ文集』 松浦理英子
『ヒカリ文集』 松浦理英子
二年前に東北で横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代は未完成の遺作を発見する。それはかつて悠高や久代が学生時代に所属していた劇団NTRのメンバーが登場し、ある日突然皆の前から姿を消した賀集ヒカリという女性について語り合うというものだった。劇団員のほとんどと性別問わず交際しながら、誰からも苦い印象をもたれることなく去っていったヒカリの現在を知るメンバーはいない。
戯曲を読んだ久代は元団員の鷹野裕に「戯曲の続きを書かないか」ともちかける。その話が発展し、戯曲のモデルにあたる元団員たちがそれぞれヒカリについての思い出をそれぞれ小説やエッセイの形で発表し、一冊の文集にまとめることになった。それが本書である……という形式をとった小説。
戯曲や短編小説やエッセイの体裁で書かれる小説集で、メンバーおのおのの文章のクセや個性を出す芸の細かさが読んでいて楽しい。
狭い劇団の中で次々に交際相手を変えていったヒカリだが、いわゆるサークルクラッシャーや魔性の女といったタイプではなく、それぞれに最上の思い出を残して禍根は残さずに去った人懐っこくてチャーミングな女性として書かれている。それでも、元交際相手や交際には至らなかったメンバーの中でのヒカリ像にはちょっとずつズレがある。
それぞれの文集から浮かび上がるヒカリ像を統合して現れるのは、相手の言葉の真意を汲み取り、それをその相手が喜ぶことに返せる能力を身に着けた女性だった。どうしてヒカリがそこまで洞察力に長けた人物になったのかを想像させる箇所も、文集内に断片的に書かれている。
進んで相手に自分を合わせる女性というと、愛されるためにはなんでもする少女の陰惨な話を思い浮かべてしまいそうになるが、本作にそういった要素はない(ちょっと不穏な芽は感じられる)。中年になった劇団員が学生時代を懐古する話でもあるので、感傷的にはなるけれど胸やけしそうなドロドロの人間関係話にはならない。ただ「こういう女の人がいたんだよ」というそれぞれの話を、そのまま素直に聞くように読んだ。
そして、ヒカリがどうして皆の元を去ったのかについて自分なりに考えを巡らせ、どこかで幸せに生きていて欲しいなと思いを巡らせるなどしたのだった。
文集の中では、「同性から嫌われるタイプ」として語れそうな女性メンバーの小瀧朝奈による章が好きだった。この章だけアンソロジーに入れて欲しい(なんの?)。
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