『最後の竜殺し』 ジャスパー・フォード
『最後の竜殺し』
ジャスパー・フォード ないとうふみこ 訳
現代社会によく似た魔法の世界が舞台のファンタジー。
内容はコミカルなんだけど、孤児が労働力として搾取されていたり、敵は土地を買い占め孤児たちなど廉価な労働力を使って安い製品を大量に作って売りさばくような大企業だったりと、その設定は結構グロい。
魔法の存在する世界なのに、魔力の減少や煩雑な法律のせいで魔法使いたちはロクに魔法も使えず、気位の高さに反してやってることは単純労働のようなことというのも世知辛いし、件の大企業がドラゴンの所有する土地を狙っていたり、最後のドラゴンが殺される現場を目撃しようと野次馬が群がるなど、全体的にやっていることが黒くてシニカルなあたりがイギリスの小説であるよなぁ……と思わされる。エグいけれどこういうイギリスっぽさは好きだ。
のっけから面倒な大人たちに振り回され続けるジェニファーだけど(そもそも孤児は十八歳になるまで年季奉公しなければならない社会って何事よ?)、さらに自分が最後のドラゴンスレイヤーになるという、この上なく厄介な運命までしょい込むハメになってしまう。
というわけでエグい世界で理不尽な運命に振り回される孤児の少女の物語なわけであるけども、このジェニファーがごく真っ当な正義感と度胸を持つ子でなおかつ機転が利く子なので毒気がいい塩梅に希釈され、読みやすいファンタジーに仕上がっている。
最後のドラゴンであるモルトカッシオンも高潔なキャラクターで、ジェニファーは彼と友情を結ぶ。でも、ジェニファーがモルトカッシオンを殺すことになっているのは予言されている。じゃあなぜにどうしてそのような運命になってしまうのか? ジェニファーは本当に最後の竜を殺してしまうのか? 手つかずの自然が残されたドラゴンランドは、大企業の手に渡ってショッピングセンターや住宅地に姿を変えてしまうのか? はたまた領土拡大欲にかられている国王によって隣国との戦場になってしまうのか(ここの所、2022年に読むとかなり洒落になってない)? そういった数々の謎で終盤まで引っ張るテクニックが巧であった。
三部作らしいのだけれど、今の所続編は訳されていないし訳されそうな気配もない。面白かったので続きも読んでみたいんですけどね……。
【あらすじ】
孤児のジェニファーはヘレフォード王国のカザム魔法マネジメント会社の社長代理として働く十五歳(あと二週間で十六歳)。修道院育ちの孤児でカザムに売られた経緯のあるジェニファーは十八の年季あけまで無給で働かないと自由市民になれない。行方不明になった社長のかわりにクセの強い魔法使いたちのマネジメント業につとめているが、魔力が減少したこの世界ではかつては畏敬の対象だった魔法使いたちも配管やピザの配達で日銭を稼いでいる有様。そんなある日、この世に残った最後のドラゴンであるモルトカッシオンがドラゴンスレイヤーに殺されると予言される。それと同時に魔術師たちの力が少しずつ強くなっていることに気づいたジェニファーは真相を探るためにドラゴンスレイヤーに会いに行くが、あろうことか自分自身がモルトカッシオンを殺す最後のドラゴンスレイヤーだと告げられる。
そうこうしている間に最後のドラゴンであるモルトカッシオンがドラゴンスレイヤーに殺されるという予言は世間へ漏れだす。ドラゴンランドの手つかずの土地を狙って大企業や国王が動き出し、最後のドラゴンが死ぬ場面を見ようとした野次馬達でドラゴンランド周辺は騒がしくなる。そして、最後のドラゴンスレイヤーになってしまったジェニファーは世間の注目を集め、大企業の陰謀や独裁的な国王の野望に巻き込まれるのだった。
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