妖古書堂のグルメな店主
浅井 ことは
#1 古本屋
「あっちぃー」
自販機でドリンクを買い、それを飲みながらダラダラと歩く。
夕方だというのに風もなく、まだまだ日差しは暑いと言うよりも痛い!
何処か休めるところでもないかと影になっている場所を探す。
大通りから一本入った薄暗い場所。
よく見ないと気づかないほどの小さな店舗の看板は、木に『古本』とだけ書かれていて、見つけたとしても誰も中など覗かないような雰囲気を醸し出している。
「気味悪いな……」
それでもお店ということは、冷房のひとつでも掛かって居るだろうと店内に入る。
ムワッとした熱気と、オレンジの蛍光灯で店内は明るいとは言いがたく、真ん中に大きなテーブルがあり、そこにも本が積まれているが、汗は流れ出るばかり。
「いらっしゃーい」
気だるそうな声した方を向くと、本に埋もれたデスクであろう所から、思っていたよりも若い男性が顔を覗かせる。
「あ、すいません……」
そう言って店を出て、さっさとファーストフード店にでも入ろうと踵を返そうとするが、足が地面に張り付いたように動かない。
「いらっしゃぁーい」
「あ、あの、また来ます……」
そういうものの、店主はじっとこちらを見たまま。
足は動かないし、じっと見てくるし、なんなんだ、この人は……
「君……美味しそうな匂いがするねぇ」
「はい?」
「今、何か食べもののこと考えてた?」
「えーと……」
確かに頭に思い描いたのは、ハンバーガーにポテト。
だとしても、それが相手に伝わるなんて有り得ない。
「ま、いっかぁ。また来てねぇー」
ホッとしたら足が動いたので慌てて外に出て、元いた大通りまで走る。
一息ついて手に持っていたドリンクを一気に飲み干してから、ファーストフード店でハンバーガーとポテトのコーラセット。
持ち帰りにしてもらって足早に家へと帰る。
早速エアコンを点け、風が出てきたところでハンバーガーに齧りつきながら、いつもやっているゲームの電源を入れる。
夏休みだからダラダラとできるが、休みが終わったらこんな快適生活はできない。
ポテトを食べながらコントローラーをひたすら動かす。
ただ単に、モンスターを狩って、そのエリアのボスを倒して次のステージに行くという、単純なゲームなのだが、レベルが上がるにつれ難易度は高くなりやり甲斐も出てくる。
ご飯の時間だと呼ばれるまでいつの間にか寝ていたのか、外は少し暗くなっていた。
ゴミをまとめてキッチンへ持っていくと、チラッと見ただけで、「早く食べちゃいなさい」と言われて席に座る。
いただきますと手を合わせ、テレビを見ながら黙々と食べる。
『──では次のニュースです。本日午後、空戸市の路上で、倒れている男性を通行人が発見し、救急車で空戸病院へ搬送した二十代後半の男性が姿を消し、警察は──』
「熱中症かしら?変な事件も多いし、出かける時気をつけるのよ?」
「分かってる。ご馳走様」
食器をつけてから部屋に戻り、スマホでさっきのニュースの現場あたりの地図を見ると、昼行っていたところの近く。
「二十代後半……まさかな」
少し食休憩したあと、お風呂に入ってからベッドにゴロッと横になりながら漫画を読んでいるうちに眠ってしまい、いつもと同じ朝を──迎えるはずだった。
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