0806
「お、おい君正気か?」
同期が私を止めに来た様だ。
「正気?私からしたら、君らの方が正気か聞きたいくらいだよ。」
私はそう言って、研究を続ける。
ほんの後少しなのだ。
たった一つの理論が確立すれば研究は完成する。
「君は間違っている。やはりその領域に踏み込んでいいのは神だけだ…… 僕ら人間がどうこうしていい物じゃない。」
「笑わせないでくれ。神の領域だって?それじゃあ聞くがね、その昔まだ人が二本の足で歩き始めた頃だ。その頃の人間にとって火は神か悪魔にしか成せないものとされていただろう。」
それがどうだ、と私は続ける。
「今じゃコンロの出っ張りを傾けるだけで簡単に火が付くじゃないか。最早、私たちは神も同然だ。」
同期はそんな屁理屈はいいと怒鳴ったが、私は研究を続け「国のため……いや世界のために研究しているんだ。きっと私の研究が世界を平和に導く!」そう言って彼の方を見たが同期の姿はもうそこにはなかった。
どんな時代だって先進的な研究は馬鹿にされるものだ。ちょっと抜きん出た者が現れれば、出る杭は打たれ変わり者だと皆は笑う。
しかしどうだ、今でこそ飛行機は空を飛ぶものだが、昔はあんな金属の塊が飛ぶなんて想像した者はいなかったはずだ。
地動説だってそうだ。現代を生きる人々は誰もがこの星を丸い形で太陽の周りを回っていると疑わないが昔は違った。地球は宇宙の中心で静止して、全ての天体が地球の周りを公転していると誰もが疑わなかった。
しかし、たった一人の天才が、研究に研究を重ね異論を唱えこれまでの概念を覆すことで人類は進歩していった。
私だってそうだ。今は誰もが私を揶揄するだろう。しかし、いつかきっと理解される。さしずめ私はガリレオガリレイか。
そうこうしているうちに遂に……
「か、完成した。」
忠告を受けてから何日たっただろうか。
日付を確認するにもカレンダーがない。
それに数ヶ月なんて日数ではなく年単位で私は研究をしていた。
まぁ、窓から溢れる陽の光や部屋の気温なんかで大体の月日は分かった。
「遂に完成したんだって?」
あの同期が私の研究が完成したことを聞きつけやってきた。
「あぁ、完成したよ。ほら。」
私は完成した品を見せた。
「……本当に完成したんだな。さしずめ神の鉄槌か。いや……君が作ったのは大量殺戮兵器だ」
「酷いことを言うな。これさえあれば我が国の何万もの人々が救われ、きっと平和が訪れる」私は誇らしげに笑ってみせた。
しかし、同期は私とは対照的に悲しく笑い
「そして、これを投下された国は何万もの人が死ぬんだ。……我々は研究者であり人殺しじゃない」
そう呟き研究所を後にした。
私は、彼の悲しげな後ろ姿に「これは抑止力だ。実際には使われない」そう言ったが、それは届くことはなかった。
……彼にも……世界にも。
0806
後に、私の研究により多くの犠牲を払い大戦が終結したが、果たして私は間違っていたのだろうか? いや、戦争に正しいも間違いもない。我々には我々の正義があり、彼の国には彼の国の正義があった。それが戦争と言うものだ。
ただ、そんな中でも一つだけ明確に言える事がある。
「我々は戦いには勝利したが、平和までは勝ち取れなかった」……それだけだ。
あの研究を始めたのは紛れもなく、平和のためだったはずなのに。私は8月6日という日を忘れることはないだろう。
私……アルベルト・アインシュタインはそう呟いた。
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