第6話 最悪の始まり
俺がフェイリスのことを説明しようとすると、それより先に糾弾された。
「スミス、どうして魔物と仲良く話しているの!」
それはバスタオルを巻いただけのジェシカだった。甲高い声で興奮しているのがわかる。
「成り行きというか、ちゃんと説明するから、聞いて欲しい」
「あんた、あたしの時計盗んだでしょ。信じられない。何? 逆恨み? それで魔物とつるんで火をつけたわけ?」
聴衆の前で、針のむしろだ。時計はあの二人に渡してここにはない。けど、それは今関係ないじゃないか。
「ねえ、クランツもなんとか言ってよ。これはあたしたちパーティーの問題よ」
隣に突っ立っていたパンツ一丁のクランツが追従するような、笑みを浮かべる。
「うん、そうだな。スミス、ちゃんと説明しろよな」
だから話させてくれよ。でも獣王の証とか、女王個体が女の子になったとか信じてくれるだろうか。自信がなくなってきた。口を閉ざしていると、警官がやってきた。俺はその前にジェシカに駆け寄る。
「時計は今は手元にないんだ。てもいつか……」
頬に鋭い痛みが走る。ジェシカに頬を張られた。
「最低。あんた気持ち悪いわ」
ジェシカの顔を見ないで済むように俺は閃光弾で視界を塞いだ。混乱に乗じて広場を離れる。
皆、火消しに必死で俺に目をくれる奴はいない。門まではすぐに逃げられた。
アーチ型の大門では仲間だった忍が立ち塞がる。黒い頭巾で表情はわからない。
「お前も俺を捕まえに来たのか」
「行け」
忍が顎をしゃくる。足下には門番が倒れていた。
「どういうつもりだ」
「仲間を送るのに理由が必要か。持って行け、餞別だ」
袋には路銀が詰まっていた。
「お前そんなキャラだっけ」
「貸しだ。お主ならいつか倍にできる。ちゃんと返せよ」
なんにしろありがたかった。俺は忍と別れ、森へとわけいった。
道を塞ぐ岩の上にフェイリスが座っていた。
「お前のせいで散々だ。とりかえしがつかない。終わりだ」
頭を抱える俺の前に、フェイリスが降りてくる。
「終わりじゃないです。ここから始めませんか、わたしと」
「お前に何ができるんだよ! 物を壊すだけじゃないか。何ができるんだよ、教えてくれよ」
がくがくと体を揺すっても、フェイリスは目をそらさない。
「わたしもたくさん仲間を失いました。主の言う通り、壊すだけかもしれない。でもさっきの人が言ってましたよね。借りを返せって。わたしも主に恩をお返ししたい。てゆーか、つがいになりませんか」
急になれなれしくなったな。アホらしくなる。
「勝手にしろ。あとつがいにはならん」
「えー? この流れだといけると思ったんですが」
どんな流れだよ。最悪な旅が始まる。
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