第3話
だが……僕はクラスメイトという事以外の面識は全く無い。そしてなぜか、待ち合わせ場所の校門の前で彼女と二人で待っていた。
「はぁ、武明おそいなぁ……」
木の影で日差しを避け、スマートフォンを見つめる彼女。はっきり言って気まずい。
「杉沢……だよね?」
「そうだけど」
ギリギリ名前を覚えられていると言った所だろうか、空気に負けて話しかけてくれた様だ。
「誰か待ってるの?」
「え、一応……」
「お互い真面目は損するよねー」
「あの、」
「どうかした?」
彼女の反応は、まるで別のグループでも待っているかの様だ。もしかして僕がメンバーに居る事に気がついていないのだろうか?
「ごめんなさい、先生に呼ばれちゃって」
「うわっ、道井さん!?」
「どうしたの?」
背後から気配も無く急に声がして驚いてしまう。一体どこから現れたんだ。
「いや、急に声がしたから驚いちゃって」
「ふうん、成宮さんに見惚れてたんじゃない?」
「ちがうし!」
そのやりとりを見て、成宮旭はポカンとした表情をしている。まさか僕がメンバーだという事に気づいていないのか、それとも──
「悪い悪い、ちょっとお腹の調子が悪くてさ!」
「武明、遅い!」
「旭、怒るなって」
「ごめんね、杉沢も一緒だったんだね」
「あ、悪い。旭には言ってなかったな」
なるほど、どおりてあの反応だった訳か。
「えっと、とりあえず俺んちで! 二人は知らないだろうから一緒にと思ってな」
「武明の家で何するのよ?」
「何って『もちぷよ』に決まってんだろ?」
「聞いてないし!」
歩いて日比野の家に向かう事になったのだが、よくよく話を聞くと成宮さんは待ち合わせの場所しか聞いていなかったらしい。グループにも入っていなかった事に気づき慌てて日比野は招待していた。
二人の痴話喧嘩をよそに、僕は道井さんと並び彼らの後に付いていく。さりげなく道路側を歩いている日比野を見てそれを真似して歩いてみた。
「なんか緊張するね!」
「道井さんも?」
「男の子の家って初めてだから」
少し俯いて恥ずかしそうな彼女を可愛いと思ってしまった。
「ねぇねぇ気になってたんだけどね、道井さんと杉沢ってどんな関係なの?」
「えっと、隣の席で少し話……」
「ただならぬ関係です!」
はい?
僕はギョッとして道井さんを見る。
「なにそれ? もしかして付き合ってるの?」
「お、お付き合いはしてません」
ちょっとまて。もしかしてあの道井杏が成宮に緊張しているのか?
そんな素振りは全く……いや、確かに待ち合わせの時も僕としか話していない。
すると、道井杏はシャツの袖を摘んでいる。
やっぱり?
「ふむ……怪しい」
「多分、緊張しているんだよ! 成宮さんだし」
「どういう意味よ?」
成宮旭は目を細めて僕を睨むと、スキップする様に道井杏の元に来て右腕に絡み付いた。
「杏ちゃん人見知り?」
ニヤリと道井さんを覗き込む。すると驚いたのか咄嗟に僕の腕に絡み付いた。
「ひゃっ!」
慌てて離れようとした僕は、縁石に足が引っかかり車道に体が乗り出した。
ヤバい……。
車通りはそれなりにある。轢かれなかったとしても他の事故にもなりかねない。だが心配をよそに、なぜか僕の身体はふわりと引き戻され、それを受け止めた道井杏の胸元に吸い込まれて行った。
ポフッ
柔らかい感触。
脳に理解が伝達するより先に「ごめんなさい」が飛び出した。
「杉沢くん大丈夫だった?」
「……うん、ありがとう」
恥ずかしがっている道井さんを成宮はニヤニヤしながら見ている。道井杏は背が高く同じくらいの身長があるとはいえ、僕の体重をあっさり支えられる様には見えない。運動神経もいいらしいからもしかしたら物凄い体幹をしているのかもと思い、少し身近に感じ始めていた距離が遠のいた気がした。
「ところで杉沢ってやっぱり『もちぷよ』上手いのか?」
「一応ランクはクリスタルまで行ったよ」
「マジかよ……相当やり込んでるな。ハンデもらわないと相手にならないぞ」
日比野が考える素振りを見せると、成宮がペアマッチを提案した。
「あたしと武明、杉沢と道井さんでペアですればいいんじゃない?」
「なるほど。いいかもしれない」
道井杏は得意だと言っていたが、二人もそれなりに自信があるのだろう。何より道井さんとペアになる方が気が楽だと思った。
住宅地に入ると小さなマンションの前で日比野が振り向く。
「ここが俺んち。夜まで親は帰ってこねーから気楽にくつろいでくれ」
入り口のすぐそばにある部屋が彼の部屋らしい。生活感はあるが、いきなり来た割には綺麗に片付いているなと思う。
だが、六畳間の部屋は四人入るには密度が高い。そのうちの半分が女の子ということもありドキドキして来た。道井杏も緊張しているのか、周りキョロキョロと見渡しているのがわかる。
日比野は奥の部屋からペットボトルのお茶と紙コップ、それとお得用のポテトチップスを持ってくると机の上に置く。すると流れ作業の様に成宮が袋を広げティッシュを置いた。
多分普段からよく来ているのだろう。
「ねぇ、これ何?」
「えっ、道井さんポテチ知らないの?」
「ああっ、これがそうなんだ!」
「マジかよ? でも今日食べたら初体験だな!」
僕も何かしないといけないと思い、コントローラーを二人の前に一つ、僕らの前に一つ置く。なんとなく気を遣っている様な素振りで様子を伺っていると日比野と目が合った。
「集まってゲームするのもたまにはいいだろ?」
その一言で僕は日比野武明は結構いい奴なんじゃないかと思う。それとは別にポテトチップスと睨めっこしている道井が可愛く思えていた。
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