転校生はアンドロイドなのかもしれない
竹野きの
第1話
学校生活で最も重要視される事はリア充か非リアかという二択。
別に俺はそんな事ないと思っている奴でも、テレビで流れる殺人事件よりは自分の恋ややりたい事が何なのかという悩みの方が深刻に考えている筈だ。
そんな中僕は中古屋で買った何のキャラクターか分からないフィギュアに夢中になっている。別にリア充になりたくない訳じゃない。ただ、人付き合いなんかで『めんどくさい事』に関わる位なら、フィギュアを作る事に集中して【リア充レース】から逸脱したいと思っていただけだ。
「ねぇねぇ、今日転校生来るんだって!」
「知ってる! すっごくかわいい子なんでしょ?」
「後ろの席に机が増えているって事は、うちのクラスだよね?」
高校二年生の夏休みが明け、クラスは【転校生】の話で持ちきりだった。窓際の一番後ろ、僕の席の隣には終業式の時には無かった机が置かれている。
可愛い転校生。
本来なら期待してしまう様なイベントも、正直関係ないと思った。結局はリア充を更に充実させるためだけのイベント。それよりはその子が自分に害を生す存在にならないかの方が心配になる。
チャイムが鳴ると、それまで騒がしかった教室はそれぞれが席に戻り少し静かになった。それとほぼ同時に、担任の教師が【噂の転校生】を連れて教室に入ってくるのが分かった。
ガラガラガラガラ……
その瞬間。静まりかけた教室は歓喜の声と共にピークに達する。
「はい、静かに!」
担任の強い口調と共に、クラスメイトはヒソヒソと声を殺す。そんな中僕は、窓の外の青く晴れた空に浮かぶ雲がゆっくりと動いているのを眺めていた。
「今日からこのクラスの仲間になる
担任がそう言った後、透き通るような声が優しく教室に広がった。
「道井杏です。よろしくお願いします」
シンプルな挨拶は落ち着いた雰囲気で全く緊張感は感じなかった。僕はその声と、柔らかく堂々とした話し方が気になり彼女に目を向ける。
……あれ?
噂通りというか、そのハードルを遥かに超える造形美。全体的に色素が薄く髪も染めたのでは無くアクリルの様にアッシュ掛かっている様にみえる。
……彼女は人間なのか?
自分でも意味のわからない事を考えているのは分かる。だけど、可愛い女の子というよりはどちらかと言うと普段眺めているフィギュアに近い様に感じた。
挨拶を済ませた彼女は、ゆっくりと僕の席の方へと歩いてくる。姿勢が良く歩き方すらも絵に描いたようにどこを切り取っても様になっている。
その姿に僕の視線は釘付けだった。
彼女は足を止める。
軽く見上げると目が合って、僕はすぐに視線を逸らした。
「隣……よろしくね」
「あ、うん。よろしくお願いします」
社交辞令なのはわかっているものの、まさか声をかけて来るとは考えて居なかった。不意をつかれた僕は、何故か敬語で返してしまった。
道井杏。
可愛いとかそんな事以前に何か違和感と、不安を感じる存在だと自分の第六感がざわついていた。
・
・
・
それから彼女は、当たり前の様にブレイクした。
無理もない。完成された隙の無いルックスに堂々とした話し方と人当たりの良さはリア充達にとっとの大好物でしか無い。
それに、元々かなりレベルの高い高校にいたのだろう。彼女は勉強や運動も完璧にこなしている様に見える。だが、僕には余計に彼女は【ロボット】なのでは無いかという疑惑が湧き出ていた。
「杏ちゃんすごいね、小テスト満点じゃん」
「こっちに来る前に勉強していた所だっただけだよ……」
「運動もできるしなんか、完璧って感じ」
「そんな事ないよ」
中身の無い話だからなのか道井杏は少し困った様な顔をしていた。彼女は彼女で愛想良く振る舞う事を強要され苦労しているのかもしれない。
だけどそれは、あくまで人間だったらの話だ。
授業が始まる直前。ふと目をやると道井杏の美しい横顔が見える。例えるなら半世紀後のO社の新型人形と言われた方が納得できる位だ。
どこか人間味が無いというか……
その瞬間、彼女が振り向き目が合った。クリスタルガラスの様に純度が高く、吸い込まれそうになる。僕は咄嗟に声をだした。
「人間、だよね?」
すると彼女はニッコリと笑うと、計算された様に首を傾げ答えた。
「どうして? 妖怪か何かに見えた?」
本当ならすぐに謝るべきなのだろう。だけど、動揺する事も無く自然に返す彼女に、不思議と罪悪感が湧かない。
「どちらかというと、ロボット。アンドロイドとか?」
すると彼女は目を見開き、気のせいなのか一瞬驚いている様な素振りを見せ、再び落ち着いた声で微笑みながら言った。
「さぁ、どうだろうね」
「否定はしないんだね?」
「君、面白そうだからそのままにしておくね」
普通に考えればありえないのだけど、僕の中で『ロボットは人間に嘘をつくことが出来ない』という言葉が頭を過ぎっていた。
「何か外にあるの?」
「何の本を読んでるの?」
しかしそれからというもの、彼女はよく話しかけて来る様になる。リア充の頂点に立っていそうな彼女が、特に仲のいい僕に話しかけて来るというのは周りから見ても違和感しか無かったのだろう。
その事が気に障ったのか、クラスの中心人物である
「あのさぁ、
「いや、別に仲は良くはないけど……」
僕としても、そんなつまらない理由で絡まれたりでもしたら最悪だ。
「そうか? でも道井の奴、お前くらいしか男子と話してねーんだよ」
「多分、隣の席だからというだけだと思うよ?」
「なるほど……まあいいや。お前ちょっと道井を誘い出してくれよ──」
日比野は僕にサラッととんでもない事を言い出した。リア充との価値観の違いなのか、ただの嫌がらせなのか。どちらにしてもただただ嫌悪感しか生まれなかった。
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