第143話 狙撃準備

 自らを悪魔王サタンと称したように、元の神々しい天使の姿から禍々しい黒い天使へと変貌したルシフェルは、個体としての能力が爆発的に上昇していた。

 しかし、それと引き換えに翼による再生能力や絶対防御、救世者メサイア達の属性や能力などは失っている。こうなれば、取る戦術はひとつしかない。


 総力戦。


 ナイチンゲールとアスキーは注射器によるバフやデバフを仕掛け、藤井達は地上からの援護射撃に専念する。藤井達の出す戦闘機や戦闘ヘリでは、人間サイズで高速飛行するルシフェルを相手にするのは難しかった。それよりは弾幕を張って三戸達の援護をする方が得策だと判断した。

 それに、空戦ユニットという意味では、三戸とアンジー以外にも、ジャンヌ、関羽、リチャード、サラディンは自力で飛行できる。ジハードもサラディンの重力操作によって空中戦が可能だ。

 また、これまでの三戸、アンジーとルシフェルの戦闘データを解析していたふぁむちゃんが、藤井達にデータを伝達していた。それによって彼等三人はある程度の予測を立てて、ルシフェルの向かおうとする先へ弾幕を張る。


「ああっ、もう! 面倒くさいな!」


 ルシフェルが地上からの攻撃に対し、明らかな回避運動を取る。大袈裟な程に弾幕から離れるのは、自らの防御力に不安がある事の証明となった。

 

「藤井達が手にしているのはF-35の25mm機関砲だ。今までのルシフェルならば、直撃を受けても致命傷には至らないはずだった。それを大きく回避するという事は……」

「はいっ! ルシフェルは高火力高機動、されど紙装甲って事ですねっ!」


 ルシフェルの行動を見て、三戸はアンジーが話した内容を確信した。それならばリスク覚悟で大きな一発を当てるよりは、全員で少しづつ削ってからトドメを刺した方がいいと判断する。


「アンジー、俺は距離を取ってから電磁加速砲レールガンで狙撃する。アンジーはここで指揮を執りながら位置座標を俺に転送!」

「ウィルコ! お任せくださいっ!」


 ジャンヌや関羽達も戦線に復帰し、こちらの方が優勢になりつつある。

 ルシフェルの攻撃は一発喰らえばアウトな威力だが、それでもナイチンゲールがいれば最悪の事態は免れるだろうし、ルシフェルがナイチンゲールを狙おうとしても他の救世者メサイア達がそれを許さないだろう。

 何より、アンジーがその事を理解しているはずだ。そしてルシフェルも、最大の脅威と見なしているのか三戸を執拗に狙ってくる。

 しかし、藤井達がまるでルシフェルの動きを先読みしているかのような弾幕の張り方をしている上、ジャンヌ達の攻撃にも対処しなければならないルシフェルは、ついに三戸をロストしてしまう。

 その隙に戦域を離脱した三戸は、レールガンを構えた。


「よし、標的ルシフェルまでおよそ40キロ。これよりレールガンにチャージする」


 有効射程距離という意味では40キロでもまだ余裕がある。しかし、肉眼では見える距離でもない。アンジーから随時転送されてくるルシフェルの座標が頼りだ。それを自らのバイザーに表示されているレーダーにリンクさせ、標的をロックするタイミングを待つ。


「うまく動きを止めてくれよ……」


 外せばそこまで。当てれば勝ち。どちらにしても三戸は撃った後は落下する運命だ。だからこそ、三戸は失敗は許されないプレッシャーと戦っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る