第86話 決戦開始!

「アンジー、ジャンヌ、関さんはヤツの直上で待機。俺とリチャードは地上で潜む。その反対側でサラディンも待機」


 三戸の指示に全員が頷く。ブリューナクと青龍は既に憑依済だ。


「ところでミトよ。その草みたいなものはなんじゃ?」


 サラディンが三戸の姿を見て首を傾げている。というのも、三戸はギリースーツを着込んでいたからだ。

 ギリースーツとは、周囲の景色に溶け込み敵から視認されにくくする為のカモフラージュ用の服だ。


「目が無いヤツにどれだけの効果があるか分からないけど、これで草叢に潜めばかなり目立たなくなる」


 三戸が撃墜された際、黒翼の天使は明らかに死角と思われる位置にいた三戸を正確に射抜いた。熱感知か音による振動を感知しているのか。それとも何か未知の方法で位置を把握しているのか。もしかしたら黒翼の天使のは全方向をカバーしているのかもしれない。


「あるもので出来る事はやっておく。なんならサラディンも着るか?」

「いいや、暑苦しそうじゃから遠慮しておくわい」

「そうか」


 そんなやり取りのあと、皆がそれぞれの配置へと散っていく。三戸が狙撃ポイントを確保したら準備完了。三戸の動きは常にアンジーがモニターしている。


「よし、アンジー準備完了だ。10式の砲撃止め」

『ウィルコ!』


 三戸の指示を受けたアンジーが、10式戦車の砲撃を停止した。黒翼の天使の再生が終わっているならば、あの球体の展開を解いて姿を現すはず。それが戦闘開始の合図となる。


 ――!!


 10式戦車の砲撃が止んだ途端、黒翼の天使を包んでいた球体が崩れ始めた。そして丸くなり、翼にくるまれていたそれは翼と両手を大きく広げて雄叫びをあげた。


『drftgyふじこーーーーーーーーッ!!』


 口がないので雄叫びかどうかは分からないし、天使語なのか何なのか、聞き取る事も難しいかったが、明らかに黒翼の天使は『咆哮』をあげていた。


「くっ……これは」


 その『咆哮』が救世者メサイア達の鼓膜を震わせる。決して大音量という訳ではないのだが、酷く耳障りで不快な音だ。


「……煩いですね!」


 さすがにアンジーも不機嫌な顔だ。10式戦車の一輌から砲弾が放たれる。黒翼の天使も威力は承知の上だ。咆哮を止めて黒翼でガードの体勢を取った。


 ――ドゥン!


 ガードした黒翼が爆発を起こす。しかし徹甲弾の爆発が生み出した煙が晴れると、そこには全くの無傷のままの黒翼があった。


(ちっ! やっぱあの翼はとんでもない防御力だな!)


 三戸がM24のスコープを覗きながら舌打ちをする。だが、スコープを覗いていた三戸が異変に気付いた。黒翼の天使の上空にいるアンジー達や、後方にいるサラディンは気付かないだろう。近くにいるリチャードは気付いているかどうか。

 黒翼の天使の顔面部分中央、顔を上下に分割するように、横一文字に亀裂が入った。


「……なんだ?」


 やがてその亀裂はゆっくりと上下に開き始め、顔の三割ほどを占める巨大な単眼モノアイとなった。その単眼モノアイは数度瞬きをすると、目まぐるしく頭部全体を動き始める。


「アンジー! 気を付けろ!」


 三戸の叫びと同時に、その単眼モノアイは頭頂部で停止した。明らかにアンジー達をいる。そしてその瞳が赤く輝く。


「――っ!? 散開して下さいっ!」


 アンジーが咄嗟にジャンヌと関羽に指示を出す。アンジーも単眼モノアイに向けてミサイルを二発発射し、自らも離脱する。黒翼の天使は散開した三人を追撃する事は無かったが、素早く単眼モノアイを動かしては標的を定め、次々と10式戦車を破壊していった。


「こりゃやべえぞ……!」


 今までの黒翼の天使は、目が無い代わりに攻撃には的確に反応し、防御しながらカウンターで反撃してくるスタイルだった。

 しかしあの単眼モノアイが出現したおかげで、自ら敵を探して能動的に攻撃をするという、より攻撃的な性能に変化してしまった。こちらから先制出来るというメリットが消されてしまった影響は大きい。


「不意打ちは効かねえってか。アンジー! ここからは正面切っての戦闘になる! 油断するなよ!」

「はいっ!」


 返事をしながらも黒翼の天使の周囲を飛び回り、的を絞らせないようにしながら攻撃を続けるアンジー。また、それに呼応するようにジャンヌ、関羽もどうにか隙を突こうと飛び回っている。


「リチャード。アレと目が合ったらすぐ動けよ?」

「うむ。分かっておる」


 近くにいるリチャードにそう警告し、三戸もトリガーに指を掛けながらチャンスを待った。

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