第35話 関羽、孤軍奮闘!

「むん!」


 関羽が青龍偃月刀を一振りすれば、纏めて数体の魔物が両断される。それは物理的に刃が届かない距離にいても同様だ。なんと、関羽が立つ場所の半径十メートル程は彼の間合いの中なのである。元より周囲は全て敵。当たるを幸いに相棒を振り回す関羽は、口元に笑みさえ浮かべていた。


「五百はおるか。ふふ。益徳は長坂で数千の曹操軍を押し返したと言うが……それがしも負けてはいられぬなあ!」


 一振り、また一振り。直接刃に切り裂かれる者。刃から放たれる旋風に穿たれる者。軍神関羽の面目躍如と言ったところだ。魔物も手にしたトライデントで受けようとするが、全く役に立たない。青龍偃月刀は受けたトライデントごと魔物を切り裂いてしまう。

 やがて魔物達は、やや距離を置いたところからの攻撃に手段を切り替えた。この時点で関羽が斬り捨てた魔物は二十や三十ではきかない。魔物の方も住民への追撃は一旦諦め、関羽の排除に全力を傾ける方向にシフトしたようだった。


「む?」


 数体の魔物が大きく口を開けた。口腔の奥に赤紫の禍々しい瘴気が満ちているのを見て、関羽が青龍偃月刀を構え直す。そして魔物の口からそれは発射された。


「瘴気弾か!」


 今までの魔物が見せた事のない、遠距離攻撃。鋭い爪を伸ばしてきたり、トライデントを投擲してくるなどの攻撃はしてきたが、『砲撃』とも呼べる間合いの外からの攻撃は初めて見るものだ。

 関羽は青龍偃月刀を前面に構え、グルグルと扇風機のように回した。高速回転するそれは飛来する瘴気弾を弾き飛ばす。しかし、魔物は徐々に関羽を包囲するように位置取りを変え、死角へ死角へと回り込みながら瘴気弾を発射してくる。


「ぐっ……流石に全てを弾き飛ばすのは無理であったか」


 背中に瘴気弾の直撃を受けた関羽が体勢を崩した。それを見た魔物達は、好機とばかりに関羽に肉薄する。


「だがまだだ!」


 関羽は折れそうになる膝に力を込めて立ち上がると、青龍偃月刀を大きく振りかぶり、大地に叩きつけた。

 大量の石礫と土煙が立ち昇る。


「うおおおおおッ!! 出でよ! 青龍!!」


 土煙の中で、関羽は雄叫びを上げながら青龍偃月刀を突き出した。その切っ先から放たれたのは青き風の龍。

 文字通りの青龍は、大きくあぎとを開き、うねりながら魔物を食い散らかしていく。そしてその長大な身体は関羽の周囲にとぐろを巻き、主である関羽を守っているようだ。

 関羽を守りながら、青龍はその爪で魔物を引き裂き、その口から竜巻を巻き起こす。しかし当の関羽はとぐろの中で膝を付き、肩で息をしていた。

 魔物を斃しながらも、関羽を守る為に瘴気弾の直撃を受け続けている青龍は、その密度を徐々に薄めていく。


「ふ……それでも七割は減らしたか? もうひと暴れして、あとはジャンヌ殿に託すとするか」


 青龍偃月刀を杖替わりに、関羽は立ち上がる。同時に青龍が刃の部分に吸い込まれて行った。刃は刃こぼれしている部分もあり、あの青龍が青龍偃月刀そのものである事を窺わせる。

 もう一押し。そう判断したか、魔物が関羽に一斉に襲い掛かった。


 ――ゴオォォォッ!


 その時、襲い掛かった魔物が業火に包まれる。


「まだです! お待たせしました関羽殿! ここからは私が!」


 関羽の背後に、白銀の甲冑を身に纏い、槍を突き出したジャンヌ・ダルクがいた。


「ジャンヌ殿か……情けない姿をお見せした」

「いえ、関羽殿は少し後方でお休みになって下さい」

「ふ、そうはいかぬなぁ!」


 関羽は明らかに強がっている風だが、それでも強力な援軍のおかげで息を吹き返したのは間違いない。


「では、共に参りましょうか。焼き尽くせブリューナク!」


 ブリューナクの穂先が真っ赤に赤熱化し、そのエネルギーはそのまま火炎放射となって魔物を焼き尽くす。

 二人の防衛戦はまだこれからだ。


*****


「おいおい、こりゃあどういう事だ?」


 トラックの運転席から視界に入るキャンプ地を見て、思わず三戸が零す。隣に乗っていたナイチンゲールが首を傾げた。


「取り敢えず降りて話を聞いてみよう」


 見慣れぬ巨大な車に怯える人々だったが、ナイチンゲールや、荷台から降りて来る難民達を見ると安心したのか、ぞろぞろと駆け寄ってきた。

 しかし、このキャンプ地にはまだ誰もいないはず。それに留守居の関羽とジャンヌはどうしたのか。言い知れぬ悪い予感が三戸を襲った。


「ナ、ナイチンゲール様でしたか!」

「おい! 一体何があった!? 関さんとジャンヌ……髭の大男と甲冑を着た若い女はどうした!?」


 三戸は駆け寄ってきた一人を問いただす。


「あ、ああ。南の海岸に魔物の巣が現れて……それで俺達は逃げ出したんだ。それをあの二人が助けてくれて……」

「南に巣だとっ!?」


 海を背にすれば守りやすい。そう考えていた三戸の完全に裏をかく形での襲撃。しかもタイミングの悪い事に、守るべき民は増え、リチャードとサラディンとは分断された状態だ。


「くそっ!」


 現在の三戸はハンドガンしか持っていない。それでも救援に行くべきか。アンジーを待つべきか。


「いや、あいつらを信じよう。アンジーもすぐ来るはずだ。ナイチンゲール、あなたに難民のとりまとめを頼みたい」


 しかし三戸は関羽とジャンヌの力を信じる方に賭けた。アンジーが来た上で、万全の状態で救援に臨む。そう判断した。 

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