第17話 トリガーハッピー
アパッチ・ロングボウ。三戸がアンジーに指示して出させたのは陸自保有の戦闘ヘリ。
「アンジー、操縦は任せた」
「はい、マスター!」
このヘリは乗員二名。前には射撃手兼副操縦士、後ろには操縦士。三戸が前に、アンジーが後ろへ乗り込んだ。武装は空対空ミサイルに対戦車ミサイル、チェーンガン。アンジーの能力により弾数無限。
猛烈な砂塵を巻き上げ、爆音とともにローターが回転を始める。徐々に回転速度を増していくローターは、アパッチの機体を空中へと持ち上げて行く。
地上では、三人のバトルマニアが相も変わらず嬉々として魔物を屠っていた。そして、やや離れた場所で地道に魔物を減らしているジャンヌの姿も。
「ほう、あの女騎士もかなりやる様だな!」
「ではもっとペース上げて行くかのう!」
「ふふ、ジャンヌ殿はあれでもかなり手加減しておるよ」
(私はあなた方と違って戦闘狂ではないのです!)
眼下の風景を見ながら三戸は少し残念に思う。『空中戦だ!』と意気込んでアパッチを出したのにも関わらず、飛行型の魔物がいないのだ。
「なんだって今回は陸戦型しかいねえんだよちくしょう!」
「私もマスターと共に空で戦えるのを楽しみにしていたのですが……残念です。このやりきれない想い! 魔物にぶつけてあげましょう!」
普段は優しくて可愛らしくて慎み深くて可愛いくて気が利いて可愛らしい完璧美少女のアンジーだが、戦闘中に笑みを浮かべたり三戸に敵対するものには殺気を隠そうともしなかったり、この娘も実は
「まあ、元々戦闘を目的に造られたものだしな。当然と言えば当然か」
そう言いながら、魔物の群れに向かい三戸は対戦車ミサイルヘルファイアを叩き込む。明らかにオーバーキルだが、そんな事は気にも留めずに撃ちまくる。煙で視界が塞がれるがお構いなしだ。
「はわわ~、マスター、凄く楽しそうでしかも容赦ないです! もしかしてトリガーハッピーになってます?」
トリガーハッピーと言われて三戸はふと我に返る。いや、世間一般で言われるトリガーハッピーとは違うと自分では思っている。半ば八つ当たり気味に発射していたヘルファイアだが、ちゃんと地上の四人の位置関係は把握していたし無駄弾丸を撃っていたつもりもない。ターゲットも被らないように着弾地点も計算している。
「いや、現役の頃から持ってても撃てない日々だっただろ? 例え領空侵犯されてもだ。こうやってコックピットに座ってて実際に攻撃してみるとさ、感慨深いものがあるんだよな」
その証拠に、という訳でもないのだが、直接銃を手に取り射撃しようがロケット弾を撃ち込もうが、外にいる時は至って冷静そのものだ。
「なるほど! マスターは根っからの戦闘機パイロットなのですね!」
そうなのだろうな、と三戸は思う。別に戦争がしたくてパイロットになったわけでもなければ、銃を撃ちたくて自衛官になった訳でもない。さらに言えば、国や国民を守る為、と言った崇高な理由がある訳でもなかった。もっともそれは、自衛官を続けていくうちに、三戸の胸の中にしっかりと根付いていたが。
ただ飛びたいだけなら旅客機のパイロットなどの道もあったはずだ。だが三戸が志したのは戦闘機パイロット。
「なんつったって花形だからな」
「マスター! 照れてます! 可愛いです!」
「……ちげえよ。空は飛びたかったが、人の命を預かるのが嫌だっただけさ」
このような会話の間にも三戸はチェーンガンの斉射で魔物を粉砕していた。無論、アンジーの操縦は位置取りも完璧だ。魔物達は空と陸からの二面攻撃で為す術なく倒れていく。
「いつもお前らがやってる事だ。悪く思うな」
いつもは蹂躙する側であったであろう魔物達に、そう声をかけながら弾丸を浴びせ続ける三戸だった。
△▼△
「……なんじゃい。儂らの争いがみみっちい事に思えてきたわ」
「全くだな。ミトという男、あれほどの力を持っておったのか。食えぬ奴め」
「ふふ。どうにも今日のミト殿は楽し気に思える。あの空飛ぶ鉄の箱が原因か」
凄まじい力で魔物を殲滅していく三戸の攻撃を、下で戦っている四人は感嘆して見ていた。既に襲ってくる魔物の数は疎らになっている。
「どうです? ミトには従って然るべき力が有ると思いませんか?」
そんなジャンヌの言葉に、争いの元凶だったサラディンもリチャード一世も同意した。
「うむ、是非もないじゃろ」
「そうだな! 奴に従って時空を超えて転戦か! 楽しそうではないか!?」
三戸とアンジーの攻撃と破壊力を目の当たりにしたリチャード一世とサラディンは、競い合っていた自分達が急に小さく思えた。むしろ、三戸に従った方がより楽しめるのではないかとすら思える。
関羽は元より三戸の力を認めていた為、純粋に戦闘を楽しんでいただけであったが。
アパッチの機内にいて、今回の成り行きを知らない三戸とアンジーは、魔物を掃討した後のリチャード一世とサラディンがやけに協力的になっている事に首を傾げるのだった。
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