第3話 アンジー

「神様が力と知識をくれるって言ったのは、君の事だったのか」


 落ち着きを取り戻した銀色の少女と話す事で、徐々に三戸にも情報を整理する余裕が出てきた。


「マスター。私の事はアンジーとお呼び下さい。それで、先程のマスターの質問ですが、私はマスターのサポートをするAIが人間の姿を取ったものです。単機での戦闘能力もありますが、マスターの指示があってこそ本来の力を発揮出来るものとご理解下さい」


 落ち着いて思考を整理すると、力の使い方がイメージできた。データベースという言葉が脳裏に浮かび、それを検索すると様々な情報を呼び出す事ができる。

 情報は三戸とアンジーで共有されている様だったが、情報処理能力はAIであるアンジーの方が優れているらしい。


「なるほど……アンジー。君は優秀な俺の相棒だな」

「へっ!?」


 三戸の言葉が不意打ちだったのか、アンジーがきょとんとしている。


「アンジーのデータベースを検索してみた。俺とアンジーは、アンジーのデータベースに入っている武装を具現化して使えるみたいだな。ほう、凄いな。空自だけじゃなくてこんなものまで……」

「いやん、恥ずかしいですマスター。一応女の子のプライベートな部分もあるので、検索する時はお声を掛けて下さいね?」

 

 アンジーはそう言いながら頬を染めてクネクネしている。

 三戸はと言えば、目の前の美しい少女が愛機F-4EJ改だと言われても今ひとつピンとこない。年頃の少女が恥ずかしい思いをしたと言うならば、素直に謝るべきだと思った。


「済まなかった。俺みたいなおっさんに覗かれるのはそりゃ嫌だろうな。これからはデータベースの運用はアンジーに任せるようにするよ」

「へっ!?」


 またアンジーがきょとんとしている。機械だとかAIだとか言っているが、こんなに表情豊かな作り物がどこにある、と三戸は言いたかった。

 この時点で、もう三戸はアンジーをAIとは認識していない。生身の身体を持つ相棒だとしか思えないのである。


「あの、マスター? マスターの肉体年齢は十八歳になっているのですが」

「なんだと!?」


(そうか、強力な肉体とか言ってたもんな)

 

 アンジーに言われて驚きはしたが、神様が言っていた事を思い出し無理矢理自らを納得させる。その時アンジーの表情が引き締まった。


「マスター、敵性反応が接近して来ます」


 どうやらアンジーのレーダーに何か反応があったらしいが、三戸は少し気に掛かった事を聞いてみる。


「アンジーはファントムとしての能力を全て使えるのか?」

「はいっ! むしろマスターと一緒なのでファントム以上の性能です!」


 この人間の姿でどうやってファントムの能力を発揮するのか興味津々の三戸であったが、この場は取り敢えず敵性反応とやらに集中する。


「自動小銃とサブマシンガンを」

「はいっ!」


 三戸の要求に対してアンジーが返事をすると、三戸の手には自動小銃とサブマシンガンが握られていた。

 サブマシンガンをアンジーに渡し、三戸は小銃を構える。


「三体、ですね。左からです」


 見えたのは化け物だった。角を生やし牙が伸び、口は耳まで裂けて耳は長く尖っている。腕は長く細い。指は長く爪も長い。全身グレーの皮膚はいかにも硬そうだ。そして背中には蝙蝠のような羽根。


「なるほど。魔界からの侵攻ってのも頷けるな」


 三体が空を飛んでこちらに近付いてくるが、三戸達に気付いた訳ではないようだ。


「あいつらの進行方向に何がある?」

「はい、マスター。どうやら市街地があるようです」

「了解だ。ここで落とそう」

「はいっ!」


 ――ターン! ターン! 

 

 乾いた音を響かせ、三戸が二発の弾丸を放つ。一体の魔物が錐もみ状に落下して行き、もう一体は不時着したようだ。

 攻撃に気付いた残り一体の魔物が、こちらに方向転換して向かって来る。


「マスター、私が」


 小銃を構えた三戸を制して、アンジーがサブマシンガンの銃口を魔物に向ける。


 ――ドパパパパパ!!


 アンジーの銃撃で羽根を穴だらけにされた魔物が墜落する。


「魔物にも銃火器は通用するようで何よりだな。さっき不時着したヤツがいただろう? 捕捉できるか?」

「はい……捕捉しました。マスターと情報を共有出来ますが、如何いたしますか?」

「頼む」


 アンジーの提案を許可すると、三戸の脳裏に情報が流れてくる。実際見えている情報にレーダー情報がリンクして、目標の方向や距離が網膜に表示されるようだ。その便利さに三戸は感心する。


「すごいな、これ」

「えへへへ~。私、マスターの為に頑張っちゃいました!」


 どうやら即興でアンジーがカスタマイズしたらしく、胸を張ってドヤ顔をしている。


「あ、いましたね! まだ生命反応があります。気を付けて下さい」

「見た目はまるで悪魔だな。おい、俺の言葉は分かるか?」


 三戸は虫の息の魔物に小銃の銃口を向けながら話し掛ける。


「グ、グルラアアア……」

「ダメか……どうやら意思疎通は難しそうだな」


 その時魔物が震える腕を上げ三戸を指差した。


「あ? 何だ?」

「マスター、危ないっ!!」


 三戸を指差した人差し指の爪が目にもとまらぬスピードで伸び、三戸の心臓を貫いたかと思われた。


「ひゅ~、焦ったぜ。魔物ってのはこんな攻撃もしてくるのか」

「マ、マスターは今のが見えたのですか!?」

「ん? ああ。なんかヒュンって来たから咄嗟にな」

「すっ……凄いです! 今のをちゃんと視認してから防御するだなんて、神業ですよ!! 人間辞めてますよ!!」


 いつも通りのテンションの三戸に対し、アンジーはテンションの上がり方が凄い。

 実際、神様から強化を受けた三戸の肉体は、飛んでくる矢を手掴みで止めるくらいはやってのけるスペックになっていた。しかし、三戸はいつまでもアンジーのテンションに付き合ってばかりもいられない。


「アンジー。ここが何処か分かるか?」

「少しお待ちくださいね……出ました。ここは元の世界で言う所の、フランスはカレー地方ですね。西暦1430年、元の世界では百年戦争の真っ最中です!」

「ふうん? じゃああの海の向こうはイングランドなのか」

「そうなりますね」

「なんてこった……」


 まさか外国で、しかも時代が遡っているなど思いもしなかった三戸は、海峡を見ながらたそがれてしまうのだった。


 

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