小惑星帯
ラスカラス星域の第五惑星と第六惑星の間にある小惑星群は、キロ単位で大小さまざまな星が帯のようになっている。かなり厚みをもっているので、中に突っ込んだら、まず直進は不可能だ。通常、航行する場合、小惑星群の軌道はほぼ帯状になっているので、進入角度を変えれば、影響の少ない形で進行できる。
しかし、今回はあえて突っ込んでいく。
もちろん、小惑星帯は、難所であるがゆえに海賊が潜伏していたりもする。周囲を囲まれて、かえって不利になる可能性もあるが、デュークはためらわない。
不安材料は、星図が古いこと。
星図が信頼できるならば、それこそAIの計算で、コースを決めることができる。そうでないなら、その場その場で判断していくしかない。その場合、どこまで速度を落とさずに進めるかというのが、ポイントだ。
「左舷R-六時の方角、小惑星八十番、距離二キロ」
警報とともに、ダラスが叫ぶ。
「前方に小型船舶発見。船籍信号はなし。有効射程距離まで、およそ二十秒」
すでに『何』に反応して警報音が鳴っているのかわからない。ありとあらゆるものが危険を示している。
「さあて、腕の見せ所だな。うるさいから、警報音切って」
デュークは、操縦かんを握る。できるだけスピードを落とさず小惑星の間を飛べば、そう簡単に相手に隙をつかれることはない。いくら相手に地の利があるとはいえ、腕で負ける気はしなかった。
船首の姿勢を巧みに変えながら進む。あっという間に小型船舶から離れていくコースにかじを取った。
「熱源反応。ミサイルだわ」
「こんな狭いところで、無茶なことを」
いくら射程距離に入っていたとしても、これだけの小惑星がある場所で攻撃すれば、小惑星に当たる可能性は非常に高い。場合によっては、小惑星が粉砕し、それによって被害を受ける可能性がある。
「前方、小惑星七十六番、三十一番、距離一キロ」
「ついてこられるかな?」
猫丸号は小惑星の間を抜け、細かく転進する。
いくつかの発光があり、細かな岩つぶてが猫丸号に飛んできた。
どうやらミサイルが、小惑星を破壊したようだ。
「あらら。かなり派手にいったわね」
後部のモニターを見たのだろう、リンダが呟く。
大量の岩が飛び散れば、ちょっとした煙幕のような効果はある。
「ありがたいわね」
リンダは笑う。細かく粉砕された岩は猫丸号を追うのに邪魔になるだろう。小さな岩は大きなダメージを与えることはなくても、進んで当たりたいものではない。事態は有利になりつつある。
「星図にない小惑星が五十キロ前方にあり」
「目視している。限界まで近づいて抜ける!」
デュークは操縦かんを握り締めた。
小惑星帯にある浮遊物の大きさはさまざまだ。ちょっとした衛星クラスのものもあれば、人の手のひらほどの『塵』のようなものまで幅広い。
星図に登録してあるのは、ある程度の大きさがあるものだが、巨大な小惑星が破壊されて、星図が変わったりすることがある。ちょうど先ほども小惑星がひとつ粉砕されたところだ。
十年前の地図であるなら、変わっていてもおかしくはない。
「敵さんは?」
「こちらに向かってはいるけれど速度は落ちているわ」
「このまま帯を抜けます」
デュークは星図とモニターをにらみながら、操縦かんを動かしていく。
「後方から熱源」
「進行方向に向かって撃つのは馬鹿でしょ」
リンダが笑う。
猫丸号から発射された迎撃ミサイルが放たれ、後方で閃光がおこる。誘爆もしているようだ。
「小惑星帯を抜けたら加速。第四惑星でスイングバイをして、さらに加速。光速の九十パーセントまで速度を上げて、ラスカラス星域を抜けるわ」
リンダはコンソールに指を走らせながら指示をする。
「了解」
宇宙船は一応、光速移動が可能とされているが、星系内移動の場合、たいていは光速の八十パーセントで航行する。
通常の星系ならば、それでも端から端までいっても、一日かかるかどうかだ。
光速で運行するのは、機械的に問題はないが、そこに至るまでの加速が中の人間にかかるGが強すぎるため、推奨されていない。
それに空間移動航行をするまでのつなぎであれば、光速移動で距離を稼ぐ必要はないのだ。
「小惑星帯を脱出、エンジン全開、加速する」
体全体にGがかかってくる。
「航路を計算したわ。目標座標まで、あと三分」
「了解」
この速度を越えて海賊が追ってくる可能性は極小だ。
さらに速度をあげれば、完全に振り切ることができるだろう。
「ダラス、レーダーはどう?」
「周囲に船影はありません。追っても来ないようです」
「目標座標に到達、ラスカラス星域脱出まで、三十八分三十六秒」
第四惑星は、木星型のガス惑星でかなり大きく、重力も強い。
衛星の数も多いため、待ち伏せを心配したが、どうやら海賊船はいないようだった。
猫丸号は、第四惑星の重力に弾かれて、さらに加速をする。当初の予定航路からかなりくるってしまったが、無事、ラスカラス星域を脱出した。
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