幼馴染が俺のロマンを叶えてくれた話

月之影心

幼馴染が俺のロマンを叶えてくれた話

 休日。


 此処は俺、海老野えびの隆也たかやの部屋で、俺のパソコンデスクに座ってモニタに穴が開きそうな顔で居るのは隣の家に住む幼馴染の諸塚もろづか咲緒里さおり

 ふらっと近所のコンビニにお菓子を買いに行って帰って来たらこの状態。


「あのさ……」


 咲緒里がモニタから目を離さないまま声を出した。

 俺は咲緒里の座るパソコンチェアのすぐ隣に正座いた。


「はい……」


 静寂の中で咲緒里がマウスをクリックする『カチッカチッ』という音が妙に大きく聞こえる。

 静音マウスにすれば良かった……って意味じゃない。


「私、全く、何の意図も無く、このパソコンで検索したんだ。」


 部屋を出る時は間違いなくシャットダウンされていた俺のパソコンが、何故起動しているのだ……。

 何故、咲緒里がそのパソコンのログインパスワードを知っているんだ……。


「『.jpg』『.png』ってワードでね。」


 何処が何の意図も無くだよ。

 しかも検索ワードじゃなくって狙ってんじゃねぇか。


 咲緒里はモニタをぐるっと回して俺の方に正面を向かせた。

 モニタには体のラインにぴたっとしたTシャツ(ノーブラ)を着てパンツ丸見えのミニスカに黒いニーハイを履いた可愛らしい女性がポーズを決めている画像が映し出されていた。


「何よこれっ!?」


 眉を吊り上げて俺を睨む咲緒里は、憤怒なのか羞恥なのか分からないが顔を真っ赤にしていた。


「しかも!」


 咲緒里はモニタを元の位置に戻すと何やら操作をして再びモニタを俺の方に向けた。

 モニタにはブラウザが開かれ、かの有名なグー○ルの検索ページと、検索窓から下へずらずらっと文字が並んでいた。


「『童顔』『巨乳』『ミニスカ』『ニーハイ』って何の検索よこれ?」


 検索履歴め……。


「いや……それは……」

「何よ?」

「男のロマンというやつでな……男が夢見るトップ5がそれで……」


 検索履歴の下の方に『幼馴染』というワードがあった。


「つまり隆也くんは、『童顔で巨乳の幼馴染がミニスカニーハイ履いてる』のを夢見てたんだ……」


 今更言い訳は出来ないだろうな。


「あぁそうだ!」

「威張るなっ!このヘンタイめっ!」


 言うと咲緒里は再びモニタを自分の方へ向けてマウスを軽く操作すると同時に人差し指が一つのキーに向かって振り下ろされた。




天誅っDelete!!!」

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 次の瞬間にはごみ箱に乗せられたマウスカーソルが右クリックされ、ごみ箱は空っぽになってしまった。


「な、なんてことをしてくれたんだ……俺の……血と涙の結晶が……」


 パソコンチェアに座った咲緒里が俺の目線まで顔を下げてきた。


「隆也くんのロマンは、画像なんか集めなくても目の前にいる幼馴染で叶うとは思わなかったの?」


 俺はぱっと顔を上げて咲緒里の顔を見た。

 咲緒里は心なしか優し気な表情をしていた。


「目の前の一番気安く言える相手に言ってくれれば……」

「そ、それって……咲緒里が……」

「セクハラで訴える口実になったのに。」

「ダヨネ……」


 咲緒里が小さく溜息を吐く。


「それはともかく、何で『幼馴染』なんて検索したのよ?」


 俺はそのワード幼馴染を検索した時の記憶を遡って言った。


「初めは邪な気持ちなんか無かったんだけどさ。咲緒里の姿を思い浮かべてたら『童顔』と『巨乳』が出て来てさ。でもあんまりミニスカ履かないしニーハイなんか履いてるの見た事無かったから、もし咲緒里がそういう格好したらどうなのかなぁ……なんて思って……」


 咲緒里は呆れ顔だ。


「色々探してたけどどうも俺のイメージに合うのが無くて、それで『幼馴染』って加えたらドンピシャのがあってよ!そりゃもう歓喜感激だわな!」

「ヘンタイだ……」

「そしたらあるわあるわで保存しまくった画像ちゃんたちだったのによぅ……」

「泣く事ないでしょ。」


 もう一度溜息を吐いた咲緒里はパソコンチェアから立ち上がった。


「まったく……次見付けたらパソコンごとごみ箱に捨てるからね。」


 吐き捨てるようにそう言った咲緒里は俺に背を向けて部屋を出て行ってしまった。

 階段を降りて行く足音が無くなってから、俺は正座を崩して床に大の字に寝転がった。


「はぁ……折角見付けたのになぁ……って言っても咲緒里に似た子は居なかったからイマイチではあったけど。」


 俺は諦めて勉強机に座ると、読み掛けの小説を手に取って続きを読み進めた。




 いつの間にか床に座ってベッドにもたれながら寝てしまっていた俺は、床に落ちた本を拾って机の上に置こうと立ち上がった。

 と同時に、部屋のドアがノックされる。

 晩飯にはまだ早い気もするし、そもそもお袋は俺の部屋のドアをノックなんかしない。


「はい。」

『入ってもいい?』


 咲緒里だった。

 いつも何も言わずどころか俺が居なくても勝手に入って来るクセに。


「え?あ、あぁどうぞ。」


 ドアが開かれると部屋を覗き込むように咲緒里の顔がひょこっと出て来た。


「何やってんだ?」

「いや、何でもないけど……」


 何でもない登場の仕方では無いな。


「まぁ入りなよ。」

「うん……」


 そう言って開かれたドアの外に咲緒里が全身を晒した。

 そこには……


 ちょっとサイズ小さくないか?という感じのTシャツを着て、白い綿のミニスカを履き、黒いニーハイを履いて絶対領域を手で隠そうとする咲緒里が居た。

 Tシャツのせいで咲緒里のトレードマークとも言える雄大な双丘おっぱいはいつも以上に誇張されていた。(さすがにブラはしているようだが……)


「んぉぉっ!?」


 声にならない声が意識とは別のところから漏れ出てしまう。


「さ、咲緒里……それ……」


 体をもじもじさせながら、咲緒里は顔を真っ赤にして俺の方をチラチラと伺っていた。


「こ、こういうのが……好きなんで……しょ?」


 もう最高です。

 言う事無しです。

 ブラボー。


「う、うん……でも……何で……?」


 そうだ。

 さっきあれだけ文句言ってたのに突然どうしたと言うのだろうか。

 咲緒里は完全に俺の部屋に入ると、後ろ手にドアを閉めたがそれ以上近付こうとなせず、ドアのすぐ前に立ったまま俯いていた。


「た、隆也くんが……その……画像見てムラムラが止まらなくなって画像の人に襲い掛かっちゃったら、お、幼馴染の私としてもこ、困るし……幼馴染として幼馴染が犯罪に走らないようにするのも幼馴染の役目で……だから……」


 画像の人に襲い掛かるって出来るもんならやってみたいわ。

 後半『幼馴染』連呼して何言ってんのかよく分からなくなったが。


「た、隆也くんが犯罪者にならないように……わ、私ならその……だ、大丈夫だから……」


 画像観ただけで犯罪者扱いってのもどうよ。

 てか、『咲緒里なら大丈夫』って何だよ。


「な、なぁ咲緒里……」

「ひ!ひゃいっ!?」


 立ち上がったまま固まっていた俺は、咲緒里の方へ一歩近付く。

 咲緒里はさっきよりも更に顔を赤くしておどおどしている。

 俺が更に一歩近付くと、咲緒里は目を瞑って首を竦めて怯えるような仕草をした。

 俺は手を挙げて咲緒里の頭にぽんと乗せた。


「ふえ……?」


 咲緒里は首を竦めたままゆっくり片目ずつ目を開ける。


「無理すんなって。」

「ふぁ……」

「俺は画像観たくらいで犯罪者になんかならねぇよ。」

「でも……自分で『犯罪者になる』なんて言う人はいないよ……」


 おどおどしてる割に冷静だな。


「ま、まぁ俺はそんな度胸も無いし、それに……」

「それ……に……?」

「咲緒里が俺の事気にして俺好みの姿にチャレンジしてくれるんだから、画像探す必要も無いからな。」


 そう言って咲緒里の耳元に顔を寄せる。


「こんな可愛い幼馴染から目移り出来ないだろ。」

「かっ!かわっ!?」


 咲緒里の頭から煙が上がったように見えた。


「あぁ。だからさ……」

「え?」








「撮らせて?」




 俺は咲緒里にスマホのカメラを向けた。


 と同時に、咲緒里は光の速さで俺の手からスマホをひったくると、窓の外に向かって放り投げた。


「うあぁぁぁぁぁ!!!ぅおれのスマホぉぉぉぉぉ!!!」


「このドヘンタイ!!」


 俺の悲痛な叫び声と咲緒里の俺を侮蔑する声が響いた。

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