第63話第十二章12-4サージム大陸

12-4サージム大陸



 もうじき昼になるのだろう、船に積み荷を乗せていた水夫たちが手を止め休憩に入り始めた。



 俺は「鋼鉄の鎧騎士」を操作して静かに港村に近づく。

 オクツマートたちも心得たもので俺とは別のルートで村に近づく。


 俺は崖の上に「鋼鉄の鎧騎士」を待機させその視覚と聴覚の機能を使ってオクツマートたちの配置準備が終わるのを待つ。



 「外装と機構は別だからな。と、準備が出来たか?」


 建物の裏に隠れているオクツマートはこちらに向かって手を振る。

 襲撃開始の合図だった。



 『よしっ! 行くぞ!!』



 俺は声を上げわざとこちらに注意を引き付ける。

 突然現れた「鋼鉄の鎧騎士」に港村は騒然となる。


 多分護衛か何かだろう、冒険者のような連中が出て来るが俺の「鋼鉄の鎧騎士」を見たとたん逃げ出した。



 『好い判断だ。命は粗末にするものではない!』



 俺はそう言いながら大剣を振りかざし積み荷に一撃を入れる。



 ばきっ!

 

 がらがら‥‥‥



 積まれた木箱からは案の定黒い石の塊がごろごろと出てきた。


 魔鉱石。


 これに魔力を注ぎながら精製する事で鉄とは別の強力な素材が出来る。

 それがごろごろと出て来るところを見るとかなりの組織だろう。



 『大人しくしろ! 【鋼鉄の鎧騎士】相手にどうこうならんぞ! 死にたくなければ投降しろ!!』



 俺がそう言い放つと水夫たち勿論、剣を抜ていいた連中もその場で剣を捨て両手を上げる。


 それをオクツマートたちがすぐ様に捕らえ縛り上げる。

 そして港に停泊している船を見て俺に合図を寄こす。


 船を見るが必要人員が足らないのだろう、港から動き出す気配はない。



 『船に乗っている連中も全員出て来い! でなければ船を沈める!!』



 流石にこの脅しには隠れていた連中も大人しく両手を上げて出てきた。

 港口に出てきた連中をすべて集める。



 『この中に責任者はいるか? 話がしたい』


 俺がそう言うと一人の中年の男が手を上げ一歩前に出て来る。



 「止まれ。お前さんがここの責任者か?」


 「ああそうだ。貴様ら何モンだ?」



 オクツマートの問いにふてぶてしくニヤ付きながらそう言って来る。

 まあそう言う事か。

 こいつらも一応保険はかけているか。


 俺は内心ため息をついてから大剣を思い切り振って倉庫の後ろに有ったぼろの雨よけの布を一刀両断にする。



 ガインっ!!


 ギギギっ‥‥‥



 俺に切り裂かれたぼろ布の中から中古の「鋼鉄の鎧騎士」が半分に切られて出てきた。



 ガシャンっ!



 「なっ!?」



 ニヤ付いていた男は絶句して目を見開く。


 『大人しくしていろ、余計な真似をすればこうなる』


 俺の「鋼鉄の鎧騎士」の剣先がその男の前でぴたりと止まる。


 「わ、分かった! 大人しくする!!」


 その男は脂汗をかきながらその場に座り込むのだった。



 * * * * *



 「はぁ? 秘密結社ジュメル?? なんだそりゃ?」


 「今の女神教に異を唱える者たちだ。いや、この世界自体が腐っている。だから全てを破壊して無に帰すのだ!」



 ニヤ付いていた男は秘密結社ジュメルとか言う組織の幹部だったらしい。

 こいつらは魔鉱石を集め独自に「鋼鉄の鎧騎士」を作ろうとしていたらしい。


 ゼッテンと名乗ったこの男は「おおぉ、ジュリ様、どうぞお導きを」などと言っている。



 「それで、あんたが村長か?」


 「ロバートと言う」



 ロバートと呼ばれるこの男は初老に入るくらいだが船乗りだったらしく年の割に元気そうだった。


 この村、ロブの村はもともと船大工が多い村で近隣の街から船の作成依頼や修理を受けて生計を立てていたそうだ。

 しかし一年前に秘密結社ジュメルと名乗る者たちに占拠され依頼魔鉱石を掻き集めサージム大陸に運ぶ仕事をさせられていたらしい。



 「どうか村のモンには手を出さんでくれ」


 「俺たちの要求を呑んでくれたらな」



 ルデンはそう言いながら剣をロバート村長の前にかかげる。



 「やめておけ、ルデン。それよりこっちだ。ゼッテンとか言ったな? この船はサージム大陸の何処へ行くんだ?」


 「我らが拠点、ルシフルの町だ。それより貴様ら何モンだ!? 流れの傭兵か??」



 吐き捨てるかのようにそう言うゼッテン。

 オクツマートは肩をすくめ俺を見る。

 ベリアルも同様に俺に手の平を差し出す。



 「俺たちはサージム大陸に行きたい。お前らの秘密結社だか何だか知らんが海さえ渡れればそれで良い。俺たちと俺の『鋼鉄の鎧騎士』を乗せてサージム大陸に渡ってくれ」



 俺がそう言うとゼッテンはきょとんとして笑い出す。



 「はははははっ! このロブを襲っておいてそれだけか? ここにある魔鉱石の価値が分からぬわけではあるまい? なんだそれは!?」



 「俺にはやらなきゃならない事が有るんだよ」


 そう言う俺にこいつはまだ笑っている。


 「くくくくっ、お前ら傭兵だろう? どうだ俺に雇われる気は無いか? お前たちのあの『鋼鉄の鎧騎士』、そして今までの手際。高く買うぞ!?」



 「興味が無い」



 俺はそう言いながらロバートの縄を切ってやる。


 「村長、あんた船は動かせるか? 協力してくれれば村の人間だけは解放してやる。こいつらの処分はあんたらに任せるぞ?」


 「お、おいっ!」


 俺のその言葉に慌てるゼッテン。



 「な、なぁ、俺たちと手を組まないか? 俺たちの組織はでかいぞ? 協力してくれれば金も女も手に入るぞ?」


 「興味が無いと言った。それにお前らの組織だってどこぞの神を崇めるのだろう? あいにく俺は神と言うモノを一切信じちゃいない。それに俺が契約しているのアガシタと言う悪魔だぞ?」


 俺がそう言うとこの男は大いに驚く。



 「古の女神アガシタだと!? 貴様、アガシタの手の者か!?」



 「手のモンじゃない。契約しただけだ。それにあいつは女神なんかじゃない。悪魔だ」


 俺がそう言うとゼッテンは呪いの言葉を吐く。



 「アガシタは女神だ。今の女神の前の主神。あいつのせいで我ら秘密結社ジュメルは破滅寸前にまで追いやられた! くそう、あの女神まだ陰で動いていやがるのか!! 貴様などアガシタに利用され悲惨な末路を歩むがいい!」



 ゼッテンの言葉に俺は苦笑する。


 もとよりあいつの手を握り返した時点でろくな事は無い。

 そして俺の最後何てきっとろくでも無いものだろう。


 しかし気に入らない事はある。

 納得のいかない事もある。

 だから俺は俺のやりたい事をする。



 「船なら儂らで動かせる。村の者には手を出さないのだな?」


 「サージム大陸に連れて行ってくれればそれで良い。何なら港出向と同時にこの村を解放するが?」


 俺の申し出にロバート村長は深くうなずく。


 「分かった。やっとこの村も解放される。あんたらとあの『鋼鉄の鎧騎士』をサージム大陸まで送り届けよう」




 彼はそう言って握手を求めてきたのだった。

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