第十二章

第60話第十二章12-1南へ

12-1南へ



 ジマの国へ俺が使者として訪れてから早くも三ヶ月が過ぎていた。



 「砦も完成してドドス共和国も大人しくなり、このまま安定してくれればいいんだけどな」



 ルデンのつぶやきに俺は思わずイラっとしてしまった。


 イザンカ王国とジマの国はその後共同声明を出し両国の更なる友好といかなる勢力に対してもこのイージム大陸においてその主権侵害を許さない事で一致していた。



 それは良い。

 俺たち傭兵が暇の方が世の中は平和なのだから。


 しかし俺個人としてはあのアルファードの奴を何としても倒したい。


 それはザシャの仇だからと言う訳だけでは無い。

 奴は王族のくせして戦争を遊びとはき違えていやがる。


 俺たち傭兵は生きる術を戦う事でしか知らない。


 しかし王族である奴は戦いにその身を投じる必要などない。

 ましてや自らオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を引っ張り出しそれに乗り込み最前線に出て来る必要などこれっぽっちも無い。


 だがその行為は、まるで新しい玩具を手に入れ負けを知らないゲームでもするかのようだった。




 「アイン、なに怖い顔しているんだ? 英雄のお前さんには悪いがそっち持っていてくれ。早い所こいつをかたずけなきゃならん」


 同じ「鋼鉄の鎧騎士」乗りのガイジは俺たち傭兵部隊に割り与えられていた「鋼鉄の鎧騎士」のパーツを片付けていた。


 俺の「鋼鉄の鎧騎士」自体はメンテナンスをする必要すら無いが他の「鋼鉄の鎧騎士」はその都度調整や場合によっては外装そのものを変えなければならない。

 外装の換装によっては見た目が全く違う「鋼鉄の鎧騎士」になってしまう場合さえある。


 今ガイジたちは自分たちの「鋼鉄の鎧騎士」の外装をイザンカ王国の「鋼鉄の鎧騎士」に変えていた。


 最前線であるこの砦の守りとして常駐することになったが、イザンカ製の「鋼鉄の鎧騎士」は出力が弱く、外装を可能な限り軽くすることによってスピード重視の一撃離脱型の仕上がりになっていた。


 ジマの国は「鋼鉄の鎧騎士」を保有していない。

 なので技術的に遅れをとっていたイザンカ王国は急遽新型の「鋼鉄の鎧騎士」を開発しなければならなかった。



 「いくら役目とは言え、おれの『鋼鉄の鎧騎士』がイザンカの外装になるとはなぁ。防御力が落ちる分は装備の盾と武器でしのぐしか無いか」


 既に換装を変え終わったイグニバルは自分の「鋼鉄の鎧騎士」を見上げてため息をつく。

 素体自体はあまり大きさが変わらない為に外装は問題無く換装出来ていたが、何処から見てもイザンカの「鋼鉄の鎧騎士」であった。


 「その分メンテナンスや消耗品は国からの提供になるんだ、こいつの維持を考えると俺たち傭兵には悪くはない話だ」


 ロマネスクは最後の外装を取り付け終わりこちらにやって来た。



 「アイン、こっちもあと少しで終わるぞ!」


 オクツマートたちも手伝いをしてくれているのでもう少しでガイジの「鋼鉄の鎧騎士」も外装の換装が終わりイザンカ王国の「鋼鉄の鎧騎士」になる。



 俺はそれを見ながら自分の「鋼鉄の鎧騎士」を見る。


 銀色の輝く外装には傷一つ無い。

 魔導士たちに調べてもらったがこのオリジナルは作られてから三百年は経っているそうだ。

 そして驚くことにこの外装はミスリルで出来ているらしい。



 「アインのは着替えさせなくていいんだよな?」


 ルデンがそばに来てそう言う。


 「ああ、オリジナルであることが抑止力になるそうだが、これではお飾りだな‥‥‥」


 イザンカの英雄として、そしてオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」としてこの砦に俺の「鋼鉄の鎧騎士」がいる事が重要となるらしい。


 一階の奴隷戦士であった俺が今や英雄扱い。

 そしてこのイザンカ王国の最前線に陣取るお飾りとしての抑止力。

 俺とアルファードとのあの戦いを見た者たちはやたらと俺に期待をしてくれている。


 しかし同調を行い最大限に力を使うと俺の「鋼鉄の鎧騎士」でも原動力である連結型魔晶石核がオーバーロードしてしまい機体が止まってしまう。



 ―― まだ完全覚醒させていませんね? ――



 ふと彼女の言葉が蘇る。

 黒龍事コクと言う少女は俺にそう言った。

 この「鋼鉄の鎧騎士」はまだ完全に覚醒していないらしい。


 俺は自分の「鋼鉄の鎧騎士」を見上げてからイグニバルたちのイザンカ王国仕様になった「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。

 そしてふと思う。


 外装は変えられると‥‥‥



 「オクツマート、ちょっと相談が有るんだが」


 「なんだアイン? 珍しいな俺に相談なんて」


 俺は自分の「鋼鉄の鎧騎士」までオクツマートを引き連れていきその外装を見る。



 「なあオクツマート、この『鋼鉄の鎧騎士』の外装を引っぺがしてイグニバルたちの外装って取り付けられると思うか?」


 「おいおいおい、いきなり何て事言い出すんだよ!? いや、確かにこいつも外装外せそうだけど‥‥‥」



 慌てるオクツマートに俺はこっそりと言う。


 「俺はアルファードのやつを追って南に行く事にする。俺の『鋼鉄の鎧騎士』の外装はここへ置いて行く。それを他の機体に換装させれば見た目は分からないだろう?」


 「しかし、アイン。お前のこの外装ミスリルだぞ? 良いのかよ、もったいない」


 オクツマートの言いたい事は分かる。

 普通、外装にミスリルを使った贅沢な機体なんてお目にかかったことは無い。

 

 「だが今のイザンカに必要なのは『英雄』である俺の『鋼鉄の鎧騎士』なんだろう?」


 俺がそう言うとオクツマートは大きくため息をつく。


 「分かった、分かった。お前さんの事だ、何を言っても聞きはしないだろう? で、他には言ったのか?」


 「これからだ。だが俺は行くさ」



 三ヶ月前にジバル将軍の配下の者が持ち帰った情報は俺に焦りをもたらせた。

 それはガレント軍が引いて行くと言う事だった。


 ガレント王国第一王子であったアルファードは俺との戦いで重傷となり急遽オリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」共々本国に運ばれる事となった。

 

 勿論そんな状況下だ、鼻息が荒かったドドス共和国が大人しくなるはずだ。

 後ろ盾だったガレント王国が撤退したのだ。

 あわよくばジマの国も支配下に入れようともくろんでいたドドス共和国は大騒ぎになったらしい。

 


 しかし既に三ヶ月か経過している。



 ガレントのアルファード率いる連中もサージム大陸を経てウェージム大陸へと移動してしまうかもしれない。

 そうなれば敵の本陣となるガレント王国に殴り込みとなってしまう。


 いくらオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」が有るとは言え流石に本拠地でアルファードの奴を倒すのは難しい。



 だから俺は焦っていた。



 「ジバル将軍は俺が説得する。だからオクツマート、お前たちにも協力してもらいたい」



 俺は自分の「鋼鉄の鎧騎士」に手を当てながらそう言うのだった。  

  

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