第56話第十一章11-2黒龍
11-2黒龍
ハビス衛兵隊長に連れられて俺たちは応接間に通される。
意外と質素な作りの応接間はそれでも手が行き届いており、小ぎれいになっていた。
俺たちはそこで親書の引き渡しをする。
「アイン殿たちはしばしここで待っていてくれ。今から大臣と陛下にこの手紙を引き渡して来る」
そう言いながらバビス衛兵隊長は部屋を出て行った。
とりあえずここで待つしかない俺たちは出されたお茶を飲みながら一休みする。
「ジマの国とはそんなに簡単に俺たちの様な部外者を城へ入れるのだな」
「何を言ってるんですかアインさん。あなたが英雄であるからこうも容易く中にまで入れてもらえたんですよ? ここの騎士団は対人戦だけで見れば世界でも有数の強さを誇るんですよ?」
ロッジはそう言いながらハビス衛兵隊長が出て行った扉を見る。
そう言えば昔聞いた事が有った。
この国の騎士団は「操魔剣」と言う技を使う。
よくよく考えてみれば俺の乗る「鋼鉄の鎧騎士」も同じ技を使っていた。
瞬間だけ肉体強化をして爆発的な力を発揮する。
それは防御でも同じく打撃の当たる場所だけを強化して防御する。
瞬間的に必要な部分だけ強化するので使用する魔力も最低限で済むし慣れてくると呪文短縮で出来るようになる。
そんな知らないはずの知識もあの「鋼鉄の鎧騎士」に乗ると何故か分かってしまう。
おかげで今の俺は生身でもその技が使える。
「それよりロッジ、先ほどの黒髪の女見たか?」
「アインさん、もう女の話ですか? 英雄色を好むとは言え流石にここでは控えてくださいよ?」
「馬鹿言え、そう言う意味じゃない。あの女、ものすごい気配が有ったの気付かなかったのか?」
俺の言葉にロッジは首をかしげる。
そして「そんな女性いましたか?」などと聞いてくる。
思わずロッジの顔を見直してしまった。
こいつ文官とは言えあれほどの気配に気づかないものか?
いや、そもそもあの階段の上に女がいた事に気付いていない?
俺は背筋をぞっとさせる。
この世界では幽霊や怨霊と言った物が実在するし、人に害を成しそれを退治する事も出来る。
以前いた世界と違ってこの世界ではそれは当たり前の事だった。
しかし幽霊や怨霊などと言う物とは決して違う。
あの存在感、あの気配。
アガシタかと思うほどのそれは久しく感じていないものだった。
コンコン
扉がノックされハビス衛兵隊長と二人の大臣らしい人物がやって来た。
「お待たせしたアイン殿。こちらは我が国の大臣であるバルク様とイセキ様だ
」
そう言って後ろの二人を紹介する。
「お初にお目にかかります。バルク様、イセキ様。私はイザンカ王国の文官を務めるロッジと申します。そしてこちらが我が国の英雄、アイン殿になります」
ロッジは優雅に貴族の様な挨拶をする。俺も軽く会釈をすると二人の大臣は朗らかに握手を求めながら自己紹介を始める。
「よくぞ参られた、アイン殿。バルクと申します」
「よろしく、私はイセキと言います」
気さくに握手を交わすとソファーに座る事を進められる。
そして一同落ち着いたときにバルク大臣が話を始める。
「親書は読ませていただきました。今陛下にもそのお話をしております。して、アイン殿には失礼となりますが、英雄の証である『同調』をしていただけませぬか?」
開口一番そう言われる。
当然と言えば当然だがただ単に「英雄」と言われてもそうそう信じられるものではないだろう。
俺はふっと笑って「同調」をして見せる。
俺の奥深くにある魂に呼びかけそのあふれ出す力を体全身に流し込む。
目を見開くと力が伝わって来て見える風景が変わる。
この時俺の瞳は金色に淡く輝いているそうだ。
「おおぉっ! 確かに英雄の証!! まさか生きている間に本物の英雄に会えるとは!」
「まさしくこれは英雄の証! 私も初めて見ますぞ!」
大臣二人は大いに驚きそして関心を示す。
「これでアイン殿が英雄であることをお認めになられましたね?」
「いやはや、失敬。我が陛下に会わせるにも確認をしませんとな。失礼、失礼」
ロッジのそれにわざとらしく答えるバルク大臣。
まあこの辺はロッジに任せるか。
「して、ガレント軍がこのイージムで暗躍していると?」
イセキ大臣は笑顔を消し真面目な顔でそう聞いてくる。
「はい、我らイザンカに配下に収まれと言ってきました。ドドスは既に協力と言う名の下ガレントの配下に成り下がっています。このままではこのイージム大陸自体がガレントの支配下に置かれてしまいます」
ロッジはいきなり核心を話す。
「ドドス共和国め‥‥‥」
バルク大臣はそれだけ言ってその表情をゆがめる。
「協定が結ばれ早百年。今までその協定に従いどの国も動くことは無かった。しかしここにきてドドスは何を根拠にガレントに手を貸すのか‥‥‥」
イセキ大臣がそう言った時だった。
「私に対抗できると思ったのでしょう、あのオリジナルを持ち出せば」
いつの間にかそれはそこにいた。
優雅に少し離れた椅子に腰かけお茶を飲んでいる。
その傍らには髪の毛に白髪が混じる執事と、まだ成人もしていないだろうメイドが控えていた。
「なっ!?」
「い、いつの間に?」
俺とロッジが驚くも大臣や隊長たちは驚いた様子もない。
ただ、ハビス衛兵隊長は一言言葉を漏らす。
「黒龍様‥‥‥」
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