第十一章

第55話第十一章11-1ジマの国

11-1ジマの国


 林を抜け、俺はジマの国に「鋼鉄の鎧騎士」に乗ってやって来ていた。


 

 『まさかこんな羽目になるとはな』


 「仕方ありません、アイン殿は英雄です。今回の件もジマの国が我々に協力してもらう為のものです」



 俺の「鋼鉄の鎧騎士」の肩に乗っている文官のロッジが俺のボヤキに律儀に答えてくれる。

 俺一人で親書を渡すにはいろいろと不都合なので同行者としてジバル将軍がこの男をつけてくれた。

 まあ、ありがたい事ではある。

 


 俺たちが拠点の砦を作っている場所からジマの国までは二日とかからなかった。

 そしてやって来たこの国を見て俺は驚く。


 ジマの国はイージム大陸の最東端にあり山岳部になっている為そこへ行くのはこのルートしかないらしい。

 近くには世界最大の地下迷宮や三百年前に世界を騒がせた魔王城の廃墟が有るらしく、妖魔や魔獣の出現も特に多い場所らしい。 


 天然の要塞である渓谷の様な場所を抜けるとその奥に盆地が見え城塞の街が見えて来た。


 そしてその更に奥に狭い山道を登るかのような道が見え、小高い小山の上にその城は建っていた。



 『ここがジマの国か? ずいぶんと険しい所に城が有るんだな?』


 「ここは陸路から攻め入るのが難攻する城ですからね。城に行くまでに十二も詰め所が有り攻め入るのを容易に出来ない様になっています。まさに地形を利用した防壁ですね」


 ロッジはそう言うが籠城戦は援軍が来る事を基本とする。

 確かに攻め入るのは難しいだろうがあれでは逃げ場がなくなるだろう。

 俺は思わず感想を言う。


 『しかしあれでは逃げ込んだ城が落とされれば全滅だな』


 「普通ならそうですが、この国には太古からいる女神殺しの竜がいますからね。この国の守護者になっています。百年前ドドス共和国が攻め入った時も籠城時に黒龍が現れドドスの軍隊を一瞬で焼き払ったそうですからね」


 ロッジはまるで自分の事かの様に興奮してそんな話をする。



 女神殺しの竜か。

 


 俺はアガシタを思い出していた。

 人ならざる存在。

 

 普通の兵士など睨んだだけで吹き飛ばすあの力。

 そんな奴らを焼き殺せる竜か‥‥‥



 『だからこの国には【鋼鉄の鎧騎士】が無いんだな?』


 「ええ、守りは完璧でしょうからね。ただこの国が我らイザンカ王国に何処まで協力してくれるか‥‥‥」


 城塞に近づきながらロッジがそう言う。


 確かに協定では攻め込まれた時に協力をすると言う事だったらしいが、今回は既にそれを撃退している。


 但しドドス共和国が今後どう言う動きをするか分からない。

 もしまた攻め入るのであれば「鋼鉄の鎧騎士」の数が減ったイザンカ王国は不利になる。

 だから今のうちに協力を確保しておきたいか‥‥‥



 俺の本心は早い所その辺が落ち着いてアルファードの奴を追いたい。

 たとえそれが俺一人になろうとも。



 そんな事を考えながら城門の前にまで来た。

 するとロッジが大声を張り上げる。



 「開門されよ! 我々はイザンカ王国の使者、親書を英雄アイン殿が持参してきた!! ジマの国の王にお取次ぎを願いたい!!」



 ロッジがそう言うとその門は重々しい音を立てて開き始めるのだった。



 * * * * *



 「イザンカの使者と言うのは理解した。しかし『鋼鉄の鎧騎士』を城にまで持って行くのは遠慮願いたいな」



 城門で確認を取っている衛兵の隊長はそう言ってロッジが渡したペンダントを返した。

 これはイザンカの使者である証らしい。

 俺はそんな様子を見ながらロッジより先に答える。



 『言う事はごもっともだ。それではこの【鋼鉄の鎧騎士】はここへ置いて行こう。それならば問題無いのだろう?』



 俺はそう言いながら「鋼鉄の鎧騎士」を各座させ胸の扉を開き地面に降り立つ。

 そして衛兵隊長の所へ行く。



 「貴殿が英雄と言われるアイン殿か? 私は衛兵隊長のハビスと言う。英雄殿に会えるとは感激だな」


 そう言って握手を求めてくる。

 俺は一瞬ロッジと顔を見合わせてからその手を握り返す。


 「アインだ、それでこいつはここに置いて行くがそれで構わんな?」


 「勿論だ。我々が責任を持ってあずからせてもらう」


 そう言ってこの衛兵隊長が俺たちを城まで案内すると言う事になった。


 ロッジは心配そうに俺の「鋼鉄の鎧騎士」を見上げたが俺がパチンと指を鳴らすと胸の扉が閉まり静かになる。



 少しほっとした顔をしたロッジを見てから俺たちはハビスと言う衛兵隊長の後を追うのだった。



 * * *


 

 「ふう、まだつかんのか?」


 「ア、アイン殿仕方ありません。この城は正面のここからでしか入れないらしいのですから」


 防衛の為とは言え登り階段を永遠と十二か所もある詰め所を通りながら行くのは流石に堪える。

 しかし衛兵隊長のハビスは平然としていた。


 「ははは、申し訳ありません。この城は外敵に対してこう言う作りになっています。我々も物資運搬はいつも苦労するのですよ」


 慣れているせいだろうか、朗らかに言う。

 全く、いくら俺でも流石に息が上がって来た。


 「もうじきです」


 ハビスはそう言いながら最後の詰め所を抜けるとそこには古めかしい城が立っていた。


 城門をくぐり広間へと入る。


 するといきなり声がする。

 透き通るような女の声が。



 「ふむ、珍しい気配がしたと思ったから来てみたがそう言う事ですか」



 その声の主は広間の階段の上、テラスの光を背に真っ黒な髪の毛に黒地に白のレリーフが入ったドレスを着た若い女だった。



 ぞくっ!



 彼女を見た瞬間俺の背筋に冷たいものが走った。


 真っ黒な長いつややかな髪の毛、透き通るような白い肌、そして陶器のような美しい顔には赤と黒の混ざったような瞳が輝いていた。

 妙な髪飾りだろうか?

 頭に二本の角のようなモノが有る。

 成人したばかりに見えるその若い女はまだ少女の面影が残っているにもかかわらずもの凄い存在感が有る。


 彼女はふっと笑ってそのまま奥へと行ってしまった。



 「アイン殿、こちらにどうぞ」



 ハビスのその声に俺はハッとして我を思い出すのだった。

   

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