第九章

第45話第九章9-1追撃

9-1追撃



 「アイン、どうだ!?」



 イグニバルが俺のもとへやって来た。

 一晩よく寝て体力も魔力もしっかりと回復している。

 

 「ああ、大丈夫だ。行けるぞ」


 「なら準備してくれ。ガレントの軍隊が引いたがそいつらを追撃する事になった。少しでも奴等の戦力を削りジマの国に支援を求める事になったらしい。戦線をドドス共和国の領地付近まで押し戻すぞ」



 ジマの国を巻き込むのか?


 あそこはガレントでさえ手を出さない国。

 いや、手が出さないはずだ。



 ジマの国には女神のしもべである太古の竜、黒龍がいると聞く。

 その力は古い女神を焼き殺したほどだと聞いている。


 だから教義的にも何もガレントはジマの国とは不干渉を決め込んでいたはずだ。

 しかしイザンカはそのジマの国から支援を引き出した?



 「ずいぶんと良い話じゃないか? ジマの国がこちらにつけばイザンカは有利に事を運べるのだろう?」


 「ああ、上がいろいろと頑張ったらしいな。とにかく戦線を押し戻せば俺らの勝ちだ」


 イグニバルのその言葉に俺は起き上がるのだった。



 * * * * *


 

 「勇敢なる我がイザンカの兵たちよ、よく聞け! 我らの母なる大地を汚し女神様のお言葉を歪曲して聖戦を気取る不埒者たちは我らが正義の剣に恐怖し引いた。正義は我らにある! このままあの不埒者どもを我が母なる大地から追い出す! 奮起せよ、その正義の剣をかかげよ! 正義と勝利は我らにある!!」



 ジバル将軍が兵たちを集め演説をしている。

 こちらの「鋼鉄の鎧騎士」の損害も決して少なくはないが兵たちの士気は高い。



 なんだかんだ言ってこのイザンカが容易に屈服すると踏んでいたガレントは戦線を伸ばし過ぎそして虎の子である「鋼鉄の鎧騎士」を一気に投入してこの戦争を勝利しようとした。


 しかしイレギュラーである俺たち傭兵部隊の「鋼鉄の鎧騎士」のせいでその数を減らし、更にオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」まで持ち出したが大技を使ったお陰でそれ以上戦闘を続けられなくなり撤退を始めたわけだ。

 だからイザンカ軍は一気に国境付近にまで戦場を押し戻し、そこで隣国であるジマの国と協力をしこの戦争を落ち着かせたい腹づもりだろう。

 そこまで行けば後は政治的な交渉に乗り出せる。

 そう上層部は考えているのだろう。



 しかし、この追撃戦言うほど楽ではないだろう。



 通常戦場での追撃戦は勝利している側、もしくは勢力的に優位である側が行う訳だが果たして今のイザンカにそれほどの力が有るかどうか。


 どうもジマの国の力を当てにしているようにしか思えない。



 「イグニバル、正直こちらの使えそうな『鋼鉄の鎧騎士』は何体残っているんだ?」


 「厳しいだろうな。傭兵部隊で三体。正規で九体だ。ロマネスクの機体はまだ使えない」


 ここまで聞けば一見有利に見えるが正直イザンカの「鋼鉄の鎧騎士」は良い所二体で一体分の戦力だろう。

 まともにガレントの「鋼鉄の鎧騎士」に突っこんで行ったのでは勝負にならない。


 

 「だとすると俺が先陣を切るしかないな。そしてあいつが出てきたら俺にまわしてくれ。あの機体、俺でなければだめなんだ」


 「あの銀色か? そう言えばお前の機体も燃やされたやたらと奇麗になったな。それにあの機体にそっくりだ」



 イグニバルは俺の「鋼鉄の鎧騎士」を見上げそう言う。


 それもそのはず、これは「魔王」が作ったオリジナルの鋼鉄の鎧騎士。

 十二体あるうちの一つ。


 そしてやつ、アルファードの機体も。



 「こいつは特別なんだよ。出所は聞くなよ?」


 「ああ、分かってる。ランディン副隊長には俺から話しておく。お前さんには期待するぞ」


 そう言ってイグニバルは拳をかかげる。

 俺はその拳に自分の拳を打ちつけてから自分の「鋼鉄の鎧騎士」に向かう。



 偽装の汚れやボロが奇麗に焼かれ本来の銀色に輝くその姿を見る。


 傷一つ無いその機体は正しく新品同様。

 そしてあれだけの修羅場をくぐりながらも故障のひとつもない。



 「『魔王』の作ったオリジナルか‥‥‥」


 

 俺はそうつぶやきまたこの機体に乗り込むのだった。



 ◇ ◇ ◇



 イザンカ王国の軍隊はその総戦力を結集して前線を押し戻す為にユエバの街近くにまで来ていた。


 引き下がったがガレント軍は現在このユエバの街に滞在している。

 イザンカ軍はそのユエバの街の郊外に陣を敷き様子を見ている。



 「まさかユエバの街が占領されているとはな」


 「そう言えばオクツマートはこっちの出だったな?」


 「あそこは俺が冒険者登録した街なんだ」



 それだけ言ってオクツマートは配給された飯を食う。

 俺もそれ以上は言わずまだ温かいそのシチューを食べる。



 「しっかしあの城壁、どうするつもりだ? ガレントは籠城でもするつもりなんだろうか?」


 「それは無いだろう、ルデン。ドドスからの援軍でもない限り街を封鎖すれば食い物すら手に入らなくなるだろう?」


 ベリアルの言う通りだった。


 街の中にある畑や飼育場なんぞたかが知れている。

 近隣の森に狩りや食べ物の採取をしなければすぐに街全体の食糧だって尽きてしまうだろう。

 ましてや大喰らいの軍隊が駐屯するのであればその問題はもっと早く訪れる。



 「あの街は冒険者がとても多いが戦争ともなればいち早く街を離れるだろうな。そうなれば一番きついのは住民になるわけだが‥‥‥」


 オクツマートはそう言いながらシチューの中でスプーンを掻き回す。

 


 そんな俺たちの所へイグニバルがやって来た。


 「アイン、ここにいたか。命令が出た。明日いよいよユエバの街に攻め込む。こちら側の門を打ち破り一気に攻め込むぞ」


 「何っ!? 市街戦をするつもりか!? 『鋼鉄の鎧騎士』何ぞ出突っこんだらそれこそ大惨事だぞ!?」





 イグニバルが持ってきたその命令はこの場にいる俺たち全員が緊張と動揺を同時に味わうモノだった。


   

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