第44話第八章8-5撤退
8-5撤退
「アイン! おいアインしっかりしろ!!」
誰だうるさいな。
今はものすごく眠いんだ、眠らせてくれ‥‥‥
―― だめ、こっちへ来ちゃだめよアイン‥‥‥ ――
この声は?
そうだ、この声はアーシャの声だ!
―― 何処だアーシャ! ――
―― あなたはこちらへ来てはだめ。まだあなたにはやる事が有るの、だから生きて、お願い生き延びて‥‥‥ ――
―― アーシャ! 待ってくれ!! 俺は、俺はっ!! ――
「はっ!?」
「この痴れ者! 勝手に死ぬな!! 貴様にはあの女神の秩序を崩すという役割が有るだろう!!」
目を開くと救護所に寝かされていた。
そして目の前にはザシャがいる。
「よかった、気が付いたようだな?」
「ほんと、焦ったぜ」
「まさかアインがやられるなんてな」
声のする方を見ればルデンやベリアル、オクツマートたちも俺を見下ろしていた。
「全く、お前さんはうらやましいもんだ。ダークエルフの癒しなんぞ聞いた事がないぞ?」
さらに声のする方を見ればイグニバルが水筒を差し出して来てくれていた。
俺は手を出しその水筒を受け取りながら起き上がる。
そして気付く。
「火傷がほとんど無い?」
「だから言ったろダークエルフの癒しの魔法なんて聞いた事がないと」
イグニバルにそう言われ思わずザシャを見るとザシャはすぐに視線を外す。
まさか、俺の為にそんな魔法を?
「その、何だ、あんたが治してくれたのか?」
「それはその、貴様に死なれては私が困る。あの女神に一泡吹かせる為には貴様が必要なんだからな‥‥‥」
そう言ってから、ついっと向こうを向いて立ち上がる。
「もう大丈夫だろう、ガレントの連中は撤退を始めたと聞く」
それだけ言ってどこかへ行ってしまった。
思わず俺はルデンたちと顔を見合わせる。
「なんにせよ今は休め。状況によっては俺たち傭兵の『鋼鉄の鎧騎士』もすぐ出なければならんからな」
イグニバルはそう言って懐から干し肉を出し俺の手渡す。
「喰っておけ」
それだけ言ってイグニバルもどこかへ行ってしまった。
俺は残ったルデンたちに状況を聞く。
するとガレントの前線は現在引き始めているそうだ。
向こうの被害もかなりなもので俺たち傭兵部隊が中心になって倒した「鋼鉄の鎧騎士」が結構いたので陣形は総崩れ、もしあちらのオリジナルが出てこなければ押し切れただろうという事だ。
「だがこちらの正規の『鋼鉄の鎧騎士』もかなりやられた。隊長のディレットも戦死したらしいからな」
「何っ!? 隊長がやられただと!?」
話を聞くと一番最初に標的にされ真っ二つにされて戦死したそうだ。
確かにオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」がイザンカの軽い機体である「鋼鉄の鎧騎士」に襲いかかっているのであればうなずける。
だが‥‥‥
「そうするとドドス共和国の『鋼鉄の鎧騎士』も増援で来るのか?」
「さあな、俺たちにはそこまでの話は来ていない。ザシャがいる魔道部隊やレンジャーの斥候部隊が今は様子を見に行ってるのだろう。もっとも、ザシャはアインがぶっ倒れて運ばれて来たら慌ててこちらに戻って来たらしいがな。なあアイン、お前何したんだ?」
オクツマートはニヤリとして俺に聞いてくる。
だがそんな器用な事が俺に出来る訳もなく首を振る。
「そんなんじゃないだろう。あいつは今の女神に復讐してやると言っていた。だからその駒となる俺にいなくなられると困るのだろう?」
「そんなもんかねぇ? お前、全然覚えていないのか?」
ベリアルまでニヤついた顔で俺に聞いてくる。
俺は何の事だか分からず首をかしげる。
「マジ覚えていないのかよ? 俺なんかザシャの裸を見て起っちまっているってのに!」
「はぁ? 裸ぁ??」
ますます訳の分からない話で俺は更に首をかしげる。
「さっきイグニバルが言っていただろう? ダークエルフが癒しの魔法なんてものを使うなんてなって。お前、裸でザシャに抱き着かれ体中の火傷治してもらっていたんだぞ?」
「なっ!?」
思わず絶句してしまった。
オクツマートはその一部始終を話してくれた。
どうやら肌を合わせ治癒する魔法らしい。
精霊魔法の一種らしいが普通そんなものをやってもらえる間柄でもない限りダークエルフがその身を使ってやってくれることなんて稀らしい。
「でだ、アインお前本当にザシャと何も無いのかよ?」
「ある訳無いだろう? むしろそんな話を聞いた俺が一番驚いてんだからな!」
「あー、あの時を思い出しちまう。やっぱザシャっていい女だよなぁ~」
ルデンはおっ起てたまま上を向いている。
俺としてはあの事は思い出したくない。
大体にしてここにいる四人はあっさりと轟沈したんだからな。
俺は大きくため息をつく。
そして思う。
ザシャに限ってそんなことは無いだろうと。
俺は確かに死ねない。
今の腐った世界で生き延び胸糞悪い女神の教えとやらを広げるこの秩序を破壊したい。
だから今は体を休め次に備える。
俺はイグニバルからもらった干し肉をかじり始めるのだった。
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