第八章
第40話第八章8-1鼓動
8-1鼓動
『大戦なんざ初めてだな』
ブルーゲイルから約一日の所にイザンカ王国の最前線が設置された。
明日にはここへガレント軍たちが攻めてくるだろう。
イグニバルは先行部隊として編成された俺たち傭兵部隊の「鋼鉄の鎧騎士」小隊長に就任してまだ見えないガレント軍を見る。
俺たち傭兵部隊の使える「鋼鉄の鎧騎士」は三体。
ロマネスクの機体は修理するにも時間がかかる。
結局あの機体は使えないからこの三体で先陣を切る形となる。
機体の調整が終わり俺たちは「鋼鉄の鎧騎士」から降りる。
そして後ろの方でひかえるイザンカの「鋼鉄の鎧騎士」を見る。
ほとんどの「鋼鉄の鎧騎士」はガレント産の機体を模範していると聞いている。
なので基本の素体が有りそれに外装の鎧を着こむ形になる。
条件や破損状況ではその外装だけ変えてすぐに使えるようになっている。
ホリゾン公国の機体も同じだった。
しかしイザンカの「鋼鉄の鎧騎士」は根本的に発想が違う。
外骨格構造と言われ、外装の鎧自体で動かしているという事だ。
なので軽量化には成功して動きは速いものの打たれ弱く、重量がない分肉弾戦に弱い。
武器も大型の武器は装備できず槍や剣がメインだ。
動きは遅いがホリゾンの機体などで連結型魔晶石を二台積んでいるやつはパワーが有るので大型の武具も使え城壁器破壊などをしていると聞く。
「イザンカは魔道のプライドが強い、だから『鋼鉄の鎧騎士』も独自で開発したというがあの機体、一撃離脱を得意とする。こんな大戦で本当に使えるかどうか」
「イグニバルはあれと模擬戦した事が有るのか?」
イグニバルは俺の問いに首を横に振った。
休憩の為に下に降り飲み物を飲みながら雑談をする。
するとガイジもやって来て文句を言っている。
「支給されたあの盾、軽量化しすぎて一発喰らったら使い物にならなくなるぞ!」
「そこはお前さんの腕次第だ。上手く使えば数発は耐えられる」
イグニバルはそう言いながら飲み物を手渡す。
それをガイジは面白くもなさそうに受け取り飲み干す。
「イグニバル、この戦いどう見る? ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』は量産型で全ての平均値はそこそこ。対して中古の俺たちの機体はその都度自分好みに改良している。一対一では負ける気はしないが一度に複数相手は流石にきついぞ?」
「分かっている。せめて後二体いれば方法は有るんだがバビル隊長が生きていてくれたならばな」
そう言いながら後ろを振り向き自分の「鋼鉄の鎧騎士」を見やる。
確かに先陣でたった三機では辛い。
しかしそれでもやらなければならない。
俺たち傭兵にとってもイザンカが負けてしまうのは都合が悪い。
「イグニバル、相談なんだが戦いが始まったら俺が真ん中で切り込み弾かれたやつをイグニバルたちが相手してもらえないか?」
「ずいぶんと強気だな? 勝算はあるのか?」
俺は黙ってうなずく。
そして自分の機体を見ながら言う。
「この中で一番状態が良いのが俺の機体だ。俺が陣形を崩しイグニバルたちが個々に片付ける。そして取りこぼしを本陣の『鋼鉄の鎧騎士』が始末する。それでどうだ?」
「アインがそれでいいならそれでいこう。だが負担はでかいぞ?」
「なに、ガレントの量産機に何ぞに遅れは取らんよ」
そう言って俺たちは拳をぶつけ合う。
と、ビブラーズ隊長が俺たちを呼ぶ。
「イグニバル、お前たちちょっと来てくれ」
「分かったすぐ行く」
イグニバルの答えに俺たちも付いて行くのだった。
* * *
「イザンカ王国『鋼鉄の鎧騎士』隊、隊長のディレット=アモルファスだ」
その隊長様はそう言ってイグニバルに握手をする。
「諸君たち傭兵隊には先陣を切ってもらう訳だが、本来誉れ高き先陣は我らイザンカの『鋼鉄の鎧騎士』が行うべきなのだが、その誉はジバル将軍より君たちに譲られた。だが、我々としても君たちにだけ任せる訳には行かないと思っている。先陣に我らの『鋼鉄の鎧騎士』も数体入れて欲しいのだよ」
「本陣の『鋼鉄の鎧騎士」をですかい? しかし俺らの傭兵部隊の露払いは泥臭いものになりますよ?」
「かまわない、そこに我らがいることが重要なのだよ、イグニバル君」
イグニバルは引きつった笑顔を顔に張り付かせているが、お荷物を押し付けられるようなものだ。
たった三機で先陣を切るだけでも余裕が無いのに一撃離脱を得意とする機体が何をするのやら。
混戦になれば確実にその足を狙われ動きを封じられればいいカモだ。
「俺らも自分の事で精一杯ですぜ? 混戦になったら連携だって取れるかどうかわからない」
思わずガイジがそう言ってしまう。
「問題無い。君たちが突入してすぐに我々も全機で突入する。情報では向こうの鋼鉄の鎧騎士は全部で十三体。対してこちらは君たちを入れれば十八体もいる。この戦勝ったも同然だよ!!」
俺は思わず苦笑してしまう。
量産機でもあのガレント使い手が出てくればいくら数で有利でも分が悪い。
「鋼鉄の鎧騎士」の戦いは単に数だけの問題では無いのだ。
それは俺が一番よく知っている。
何せ俺のオリジナルはそれが出来る機体なのだから。
「まあそう言うなガイジ。ディレット殿、先攻に参加していただけるのはうれしいですが、後方にはまだまだガレントもいます。イグニバルの指示に従えっていただけるなら良いでしょう」
ビブラーズ隊長はガイジをなだめながら条件を言う。
「貴公にも面子がおありだろう、ここは貴公の言う事を聞こう。だが先陣の誉れには我らも必ず参加させてもらう」
それだけ言って後ろに控える二人を呼ぶ。
「我が隊の期待の新人だ。ミナス家のベルギラート=ミナス、そしてケルンドル家のイターシャ=ケルンドルだ」
見れば育ちのよさそうなお坊ちゃまとお嬢様がそこにいた。
「ベルギラート=ミナスです」
「イターシャ=ケルンドルです」
二人はそう言って優雅に貴族風の挨拶をしてくる。
一応俺たちも挨拶を返すがご立派な挨拶は出来ない。
「イグニバルだ」
「俺はガイジ」
「アインという」
三者三様に挨拶を返すとイターシャとか言うお嬢様は眉間にしわを作る。
「ではイグニバル殿、この二人をよろしく頼むよ」
「まあ死なない様になんとかやっては見ますがね、保証は出来ませんぜ?」
ディレット隊長がイグニバルにそう言うと若い二人は噛み付くかのように言う。
「我ら祖国の為には命など惜しみませぬ!」
「ガレントなど必ずや刀の錆にしてくれましょぞ!!」
俺たちはこっそりとため息をつくのだった。
* * * * *
「ビブラーズ隊長、こいつはでかい貸しになりますぜ?」
「そう言うな、それよりイグニバルどうするつもりだ?」
戻って来た俺たちはテントの中で愚痴を言う。
お荷物を二人も預けられ先陣を切って戦うなど面倒など見きれるものではない。
それを分かっていても断り切れないのが傭兵の悲しい所だ。
所詮雇い主の言う事は聞かざるを得ない。
「相手の『鋼鉄の鎧騎士』は全部で十三体という情報が正しければアインの機体が中央突破しその援護を俺とガイジでします。そしてその後ろであの二人は俺たちが叩いたやつのとどめを刺せばいいでしょう。後ろから見れば討ち取ったようには見えるでしょうしね」
「苦労を掛けるな。しかしどうなんだ?」
「苦しい戦いになるでしょうね、イザンカの機体は軽すぎる」
そこまで言ってイグニバルは黙ってしまう。
「だから私が手を貸すのだ」
いきなりしてきたその声に全員が振り返る。
そこにはいつの間にか入って来たザシャがいた。
「私が精霊魔法で援護する。どうせ向こうも魔法使いや精霊魔法使いがいるのだろう? ならばこちらも同様に私の援護が必要だ」
「ザシャか、精霊魔法が援護してくれるのはありがたい」
ビブラーズ隊長はザシャに向かってそう言う。
ザシャは面白くもなさそうに「ふん」とだけ言って俺に向き直る。
「ガレントなぞ必ず潰すがいい!」
それだけ言って出て行ってしまった。
「それでもこれで生き延びられる確率が上がった」
俺はそうつぶやくのだった。
* * * * *
「来たぞ! ガレントの連中だ!!」
物見やぐらで見張りをしていた奴が大声で知らせる。
それを聞いたこの前線は一気に緊張に包まれる。
俺たち傭兵の『鋼鉄の鎧騎士』隊はすぐにでも機体に乗り込む。
「とうとう来たか、しかしこちらも準備は出来ている! ‥‥‥ん?」
乗り込み体を固定する鎧の様なモノが勝手に俺の体を固定し始め、目元まで覆う兜がかぶさってから気付く。
向こうの方に何かあるのか?
俺の機体はガレント本陣の方にうごめく鼓動に気付いたようだった。
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