第33話第六章6-4ガレントの影
6-4ガレントの影
「なあ、今晩どうだ?」
「百年早いわ、出直して来い」
イザンカ王国の傭兵になって早三か月が過ぎた。
ここはたとえ俺たちの様な者でも仕事さえこなしていれば何も言われない。
そう言う意味では非常に助かるのだが。
「なあアイン、またザシャの奴声かけられてるぞ?」
「ルデンなんで俺に言う?」
傭兵部隊は勝手にイザンカの街、ブルーゲイルには入れない。
まあ、ならず者の俺たちから善良な市民を守る為と言えば仕方ないが、そうなると余計に羽目を外したくもなる。
一応傭兵用の酒場は有るが女を抱くところがない。
だから合法的に傭兵同士でああ言った事が行われるわけだが。
「ザシャっていい女だからな、やっぱ人気あるよな?」
「ルデン、お前溜まっているのか?」
仲間の下の世話なんぞ俺にはできない。
気持ちはわかるがそこは自分で何とかして欲しいもんだ。
「いや、相手にされないだろうしすぐに終わっちまう、あの時みたいにな‥‥‥」
苦笑するルデンを見ながら俺もつられて苦笑する。
「おい、アイン。ビブラーズ隊長がお呼びだぞ? また『鋼鉄の鎧騎士』の出番のようだ」
オクツマートがやって来て俺に伝えてくれる。
オクツマートやルデン、ベリアルは通常の傭兵部隊に配属されている。
ザシャは精霊魔法が使える数少ない人材なので本体直属の魔法部隊にいる。
そして俺は勿論「鋼鉄の鎧騎士」部隊に所属する。
現在世界各国で攻めるも守るも「鋼鉄の鎧騎士」が戦争の決定打になっているが、イージム大陸のような特殊な所ではそれ以外にも重宝されている。
このイージム大陸は異常に魔物や魔獣が多い。
おかげでここで生きていくには力が無ければ死んでしまう。
そして一般人でさえ、いや、農家の畑でさえ通常では考えられない程の城壁や堅強な柵の中で守られている。
なので作物を作るのでさえなかなか畑を拡張できずに収穫量も限られてしまう。
だから森に入り狩りをするのが多い。
だが、今回呼ばれて行って隊長から聞かされたのはそんな狩人たちからの情報だった。
「本来イージム大陸にはほとんどいないヒドラが発生した。この近くの森でだ。今回はそのヒドラ討伐が仕事だ」
ビブラーズ隊長はそう言いながら目撃の詳細を説明始める。
「珍しいな、こんな所でヒドラとは‥‥‥」
「あんたもこっちか?」
説明を受けているとザシャが俺の横にやって来た。
相変わらず面白くもなさそうだがそれでも口はきいてくれる。
「サージム大陸には沢山いるがこんな所にいるとはな。しかし並の人間では歯が立たないだろう。『鋼鉄の鎧騎士』でもモノによっては吐き出す炎に耐えられず中身の操縦者が蒸し焼きになる場合もあるからな。厄介な相手だ、だから魔法を使える者も呼び出されるだろう」
そう言ってビブラーズ隊長の説明を受ける。
「西の森の狩場はこの街の貴重な食料調達場だ。早急にヒドラを見つけ出し討伐するぞ!!」
最後にそう言って準備を始める。
俺は言われた通りに「鋼鉄の鎧騎士」部隊に戻るのだった。
* * * * *
「鋼鉄の鎧騎士」部隊は全部で六機。
どれもこれも旧型でその見てくれは俺のも含めぼろぼろの見た目の物が多い。
『待機と言われてもなぁ』
『ハイルド、これも仕事だ。ここで待つのも儂ら勤め、それよりあまり無駄に魔力を使うでないぞ? 急時に魔力切れではかなわんからな』
三機づつ交代となったがバビルを小隊長とするこの「鋼鉄の鎧騎士」部隊も癖のある奴等ばかりだった。
ハイルドと呼ばれるこいつはどうやら元貴族で家が没落した時に唯一所有していた「鋼鉄の鎧騎士」を持ち出しここまで来たと聞く。
この部隊の中では俺に次いで若いがそれでも確か二十八だったはず。
『分かってるって、バビル小隊長殿。こいつだって今は待機状態で魔力何ぞ周りを見る事くらいにしか使ってない』
他の者に何か言われるのが一番嫌いなハイルドだがそれでもバビル小隊長には大人しく従う。
城壁から出て臨時の拠点を西側の森の前に作った俺たちは「鋼鉄の鎧騎士」をいつでも森に突っこめるようにしてはいるものの、レンジャーの連中がヒドラを見つけ出すまで暇なのは事実だった。
「アイン、聞こえるか?」
すっと俺の「鋼鉄の鎧騎士」の肩に姿を消したザシャが現れた。
彼女がこうしてやって来るとは、何か有ったのか?
『どうした?』
俺は「鋼鉄の鎧騎士」の外部音声をかなり絞ってザシャに聞く。
「森の様子がおかしい。いや、それだけではない。ヒドラ以外にも何か潜んでいそうだ」
ヒドラ以外にも何かいるって言うのか?
一体何が?
「私はビブラーズ隊長にこの事を話して来る。お前らも気を付けるがいい。この感じ、良いモノではない」
『‥‥‥分かった』
ザシャの豊富な経験が警銅を鳴らしているのだろう。
俺は素直にその言葉に従う。
そして俺はひそかに「鋼鉄の鎧騎士」の知覚拡大を始めるのだった。
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