第22話第四章4-6真相

4-6真相



 薄暗い闇の中、波の音をわずかに聞きながら俺は魔力を操作してこの鉄の船を操っている。

 


 「しかし、凄いもんだよな。こんな大きな船がアイン一人で動かせるなんてな」


 「だからガレントの鉄の船には兵士が少なかったんだろう。あの時はそれで助かったもんだがな」


 「よせよ、ホリゾンのために戦った事なんか思い出したくもない。畜生、ホリゾンめ‥‥‥」


 

 俺は操舵室と言うこの部屋にある水晶を操作している。

 ルデンたちは鍋に食材を放り込みながらその隣で飯を作っている。


 この船の能力ならあと二日もすればノージム大陸に着けそうだ。

 問題はホリゾン公国の影響のない場所に接岸しなければならないという事とその後についてだ。



 「あと二日もすればノージム大陸に着けると思うが、お前たちはその後どうするつもりだ?」



 「俺はアインに付いて行く」


 「俺もそうする。ホリゾンに戻る気は無いしな」


 「俺はどうするかな? また傭兵止めて冒険者を続けるかな?」


 みんなそれぞれ考えがあるのだろう、もともとテグの俺とは違う。

 俺とは違う生き方を知っているのだろう。



 「アインはどうするつもりなんだ?」



 オクツマートが聞いてくる。


 「俺はテグの奴隷戦士出身だ。戦うこと以外に生きる方法を知らない。だがもうホリゾンには戻れないだろう。だから東を目指そうと思っている」


 俺のその言葉に三人は顔を見合わせる。


 「東か? じゃあルド王国か?」


 「いや、もっと東だ。大陸を渡ってイージムにでも行こうと思う。あそこは確か魔獣が多い。討伐やら何やらで仕事は有りそうだしな‥‥‥」



 実際に行ったことは無い。


 だが奴隷戦士になってからは色々と噂は聞いている。

 それは傭兵だった奴や冒険者だった奴からの話だが噂では東のイザンカ王国も今次のガレントの政策に不満を持っているという。


 ガレントは世界の穀物庫。

 その穀物庫から各国に食料を売り渡しているのは昔から変わらない。

 だがここ数年は不作の為その状況が変わってしまった。


 もともとやせた土地に魔獣や妖魔が多い土地柄のイージム大陸。

 農作物だってギリギリしか育たないらしい。

 だから『鋼鉄の鎧騎士』を持ってどこかの国に転がり込めば何とかなるのではないかと思っている。



 「東の大陸、という事はイザンカか? うーん、そうだな、ならば俺もアインについて行くとしよう。イザンカは冒険者には悪くない国だったからな!」


 「オクツマート、お前イザンカに行った事があるのか?」


 俺は驚き思わず聞いてしまった。

 すると鍋を掻き回す手を止め、オクツマートは顔を上げてこちらを向きにっと笑う。


 「俺はもともとイージムの出だ。あそこは冒険者を重宝するし、街の防衛の為に傭兵も雇っている。中には流れでボロボロの『鋼鉄の鎧騎士』を引っさげてやって来る傭兵たちもいるからな」



 「傭兵が『鋼鉄の鎧騎士』を持っているのか!?」



 初めて聞いた。

 国家防衛の要であるこの魔道兵器が個人所有などとは。



 「ああ、何世代か前のぼろぼろの『鋼鉄の鎧騎士』だがな。国も古くなって破棄するほどの奴をどう言った経緯で手に入れたかは知らないがイージム大陸では意外といるぞ? もっとも、正規のモノに比べ動きは遅いし、補修も大変らしいがな。ゴーレムの代わりくらいにはなる」


 俺はその話を聞き更にイザンカに行く事を決意する。

 

 「ならば俺の『鋼鉄の鎧騎士』もそれっぽく偽装しなければだな。これだけピカピカの新品ではすぐに疑われるからな」


 「ごもっとも、手伝うぜアイン!」


 「よし、出来た。飯にしよう。アイン、船止めて飯にしようぜ!」


 俺は一旦船を止めて飯を食う事にするのだった。



 * * * * *



 「アイン、お前の『鋼鉄の鎧騎士』なんだがな‥‥‥」



 船を操作しているとオクツマートがやって来た。

 先ほど三人で俺の「鋼鉄の鎧騎士」をどうやって偽装するか見に行っていたのだが、オクツマートは興奮した様子でやって来た。


 「どうしたんだ?」



 「凄いんだよ! あの外装、ミスリル金属っぽいんだ!」



 ミスリルと言うのは銀色の軽くて硬く、そして魔力の通りがもの凄く良い希少金属だ。

 この素材を使った武器や防具は冒険者だけでは無く傭兵や、いや国の騎士や貴族、王族でさえ欲しがる代物だ。

 それを「鋼鉄の鎧騎士」に使っているだと?



 「おいおい、オクツマート冗談はやめてくれ。いくらあのアガシタがよこした『鋼鉄の鎧騎士』だからと言ってまさか外装にミスリルを使っているなんて‥‥‥」



 そこまで言って俺はいきなり思い当たる節を思い出した。

 あの「鋼鉄の鎧騎士」は魔術師たちの魔法を全く受け付けなかったり驚異的な動きが出来る。

 今の船を襲った時だって陸地から船までひとっ飛びだった。



 つまりそれだけ軽いという事だ。



 「オクツマート、もしそれが本当だったら‥‥‥」


 「ああ、あの『鋼鉄の鎧騎士』を売っちまえば死ぬまで遊んで暮らせる!」


 興奮するオクツマートだが、そんなことしたら即俺たちの命が無くなるだろう。

 少なくともすぐに国が出て来る。


 「オクツマート、それはやめておけ、むしろミスリルだって事は絶対に秘密にした方が良いぞ。下手をすればそれで国が出てきて俺たちが消される羽目になるぞ?」



 「あっ!」



 オクツマートは興奮状態からすぐに冷めて思わず声を上げる。


 「それもそうか‥‥‥ いきなりミスリルで出来た『鋼鉄の鎧騎士』売るにしたってそれだけの金を持っているやつもいないだろうし、そうこうしている間に国が出て来そうか‥‥‥ ばれたら確かに俺たちを殺した方が早いもんな‥‥‥ 畜生、せっかくミスリルの塊だってのに!」


 悔しがるオクツマートだが元冒険者、バカでは無い。

 俺の話にすぐに危険性の方が高い事を感じる。



 「まあ、後であの『鋼鉄の鎧騎士』の外せるパーツを探してそれだけを売る事で我慢するんだな、その位なら怪しまれずに済むだろうし、偽装するにも完璧だと怪しまれるからな。少しはぼろぼろに見えるようにしなければな」


 俺は苦笑しながら甲板に各座させている「鋼鉄の鎧騎士」を見る。



 天秤の女神アガシタ、いや、今は悪魔のアガシタ。

 彼女がよこした「鋼鉄の鎧騎士」は確かにすごい。

 「魔王」が作ったオリジナルの十二体。

 出来れば他の十一体には出く合わせたくは無いものだ。





 俺はそんな事を思いながら船を操作するのだった。

 

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