第20話第四章4-4密告
4-4密告
俺たちはこの残虐のあった漁村で一晩を過ごし、使えそうなものを見つけてからとりあえず更に南下するつもりだった。
「なあ、アイン。俺たちこの後どうすれば良いかな?」
「このまま南下すれば完全にガレントの勢力圏だもんなぁ」
「アインの『鋼鉄の鎧騎士』がいるから目立つ事は出来ないしな」
そう言われ俺も考えるが今はホリゾン公国の追手が完全にこちらを諦めるまで逃げ切るしかない。
多分ホリゾンとしてもこの「鋼鉄の鎧騎士」は放ってはおけないだろう。
あれだけの性能差を見せつけて逃げだしたんだからな。
『この辺の地理には疎いが先ずはホリゾンの追手が来なくなるまで逃げるしかないだろう? 人の通る道がある、これをたどっていけば人の住んでいる所にたどり着くだろう。まずはそこまで行くとしよう』
俺は「鋼鉄の鎧騎士」を動かしながらそう言う。
「鋼鉄の鎧騎士」の頭だけをもう一度この村に向けてから俺は歩き出す。
そしてこの漁村を後にするのだった。
* * * * *
どのくらい歩いただろうか?
細々と続くこの道の先に村が見えて来た。
「おい、アイン! 村だ!! 助かったな!」
「とにかくこれでまた食い物にありつけそうだ」
「アイン、この『鋼鉄の鎧騎士』をどうする気だ?」
ルデンたちの言う通りこのまま「鋼鉄の鎧騎士」で村に行くわけにはいかない。
俺は「鋼鉄の鎧騎士」を止めて周辺を見渡す。
少しむこうに「鋼鉄の鎧騎士」でも隠せそうな岩の影がある。
俺はそこへこの「鋼鉄の鎧騎士」をひとまず隠す事にしたのだった。
* * *
「だいぶ小さな村だな?」
村に近づくとその規模がはっきりと分かった。
ここも小さな漁村のようだ。
ただ遠くからでも人がいるのが見える。
俺たちは旅の傭兵を装ってこの村に入っていく。
「おい、お前さんたち何モンだ?」
村に入ってすぐに漁の網を修理している漁師に声を掛けられる。
「俺たちか? 俺たちは‥‥‥」
「旅の傭兵だ。食料を分けてもらいたい、それとこの村に宿屋は有るか?」
俺は懐から銅貨を出す。
それをこの漁師に渡す。
「ふん、傭兵か‥‥‥ 宿は無い。だが酒場がある。そこへ行けば飯くらいは食える。このまま村の中心部に行けば酒場が見えるだろうさ」
そう言ってその漁師は銅貨を懐へしまう。
俺たちは顔を見合わせ言われた酒場を目指す事にした。
しばらく村の中心に向かって行くと大き目な建物が見えて来た。
どうやらあそこが酒場のようだ。
まあ酒場と言っても他の建物と造りはほぼ同じ、看板がなければそうと気付かないレベルだ。
俺たちはそこへ向かって歩いて行く。
だがよそ者を警戒しているのだろうか、ゆく先々で視線を感じる。
「アイン、ここって大丈夫なのかよ?」
「ルデン、騒ぐな。まずは酒場に行ってからだ」
そわそわするルデンをたしなめ俺は酒場の扉を開く。
外観とは違い、特に変わった様子の無いどこにでもあるような酒場だった。
店に入りカウンターを見るといろいろな道具も売って言うようだ。
雑貨店も兼務しているのだろう。
「いらっしゃい、初めて見る顔だな?」
「とりあえず腹が減った、人数分の飯をこれで頼む」
俺はそう言って銀貨を一枚出す。
店の店主はそれを見て表裏見返す。
「ふん、ガレント銀貨じゃないな。北からか?」
「傭兵さ、仕事があればどこへでもな」
するとその店主は「分かった」とだけ言って店の奥に入っていった。
そしてしばらくすると人数分の飯となんと酒も持ってきた。
「ホリゾンの銀貨はまがい物が少ない。うちで買うものが有れば都合ををつけてやる」
「ああ、では飯を食ったら頼む。それとこの村は泊まれるところは有るか?」
テーブルに食い物の皿を置きながら店主は俺を見る。
そしてふっと笑って言う。
「こんなさびれた漁村だ、宿など無い。うちの裏の馬小屋で寝るくらいならタダで良いぞ?」
「それは助かる、お言葉に甘えよう」
そう言って俺たちは飯を食い始める。
店主はそれを見ると何も言わず奥へと引っ込んで行った。
「お、おい、アイン。この村で泊まるのか?」
「ああ、そうだ。情報も欲しいしな。この近辺の話も聞きたい」
これからどうするかを決めるにも自分の置かれた状況が分からなければだめだ。
前の漁村で手に入れた物や金があるうちに色々と情報を入手したりしたい所だ。
俺たちは食事をしてから今日は休むことにした。
まあ藁があるから寝るには困らないだろう。
奴隷戦士であった俺には特段あたりまえだから気にもならない。
俺たちは言われた馬小屋に向かうのだった。
* * * * *
「おい、アインっ」
「分かっている。まさかここで追っ手か?」
小声でルデンに言われ俺も目を覚ます。
もっとも既に殺気で目が覚めていたが、まさかこんな所で見つかるとはな。
しかしオクツマートは静かに言う。
「いや、雰囲気が違うぞ‥‥‥」
どちらにせよ誰かが密告でもしてくれたのだろう。
全くおちおち休んでもいられない。
俺たちはひっそりと手元に剣を握るのだった。
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