第6話第一章1-5屍を超えて

1-5屍を超えて



 あの後起死回生の奥の手、「巨人」を投入したおかげで俺たちの軍はからくも勝利できた。



 如何に「鋼鉄の鎧騎士」でも自分の身長の倍以上も有りドラゴンの様な炎を吐くこの化け物にはかなわなかったらしい。

 当然と言えば当然だがあんなバケモノだ、到底太刀打ちできるとは思えない。


 仲間の魔術師はそれを見て古文書に出て来る古代の兵器だと言った。

 魔道の極みを使い竜や巨人族を融合するとか言っていたが俺には詳しく分からない。


 この戦いに勝利し、ガレントの前線を押し戻したので俺たちはとうとうこのノージム大陸からガレント軍を追い出す所まで来ていた。



 「おい、アイン。バッカス隊長が呼んでるぞ?」



 「ん? ああ、分かった、今行く」


 アーシャの遺体を探していた。


 この戦場で仲間の遺体は可能な限り本国に返してやるために見つけ次第に布袋に包み札をつけて荷馬車に載せる。

 しかしあの「巨人」のお陰で味方だか敵だか分からない程黒焦げになっている死体ばかりだ。


 俺はアーシャを見つけるのを断念してバッカス隊長の所へ向かう。



 * * *



 「アイン、よく来たな。お前を呼んだのは他でもない、お前に小隊長をやってもらいたい」


 「俺が? 奴隷戦士の俺が小隊長だなんて気でも狂ったのか?」



 通常奴隷戦士は消耗品だ。

 命令され戦い、そして食い物をもらう。

 それが奴隷戦士だ。


 そして功績を納めると褒美がもらえる。

 だがそれは微々たるものでせいぜい酒が一瓶買えるくらい。


 それが本来の奴隷戦士の待遇というものだ。



 「お前は生き残った。そして今までもそうだ。俺たち傭兵は戦で飯を食っている。しかし死んだら意味が無い。この国の為に死のうとは思わないからな」


 傭兵としては当然だが俺は奴隷としてこの国にいる。

 しかも奴隷戦士となれば戦う事で生きていくしか方法がない存在。

 歳をとる前に功績を認められ女をあてがわれ子を作りそして次世代の奴隷戦士として我が子を鍛えるのが普通だ。


 だがバッカス隊長はそんな俺を見ながら言う。



 「お前は何処か普通の奴隷戦士とは違う。生きる為にどん欲になれる。アーシャの事は残念だがお前はアーシャが死んだあと生き残る事を選んだ。普通は遺体を担ごうとして一緒にやられるのが落ちなんだがな‥‥‥」



 そう言いながら胸からペンダントを取り出し撫でる。


 「自分だけならいいがこれは戦争だ。仲間を死なせるのは愚か者のする所業。死ぬのはこの国の兵士と貴族で十分だ」


 そう言って腰についている水筒を投げよこす。


 「俺の隊は再編成する。また傭兵どもや奴隷戦士が来るが数を減らすわけにはいかない。お前が小隊長をしろ」


 俺は受け取った水筒を開く。

 すると驚くことに中には葡萄酒が詰まっていた。



 「バッカス隊長?」


 「アーシャ達の弔いをしたら残りは飲め」



 それだけ言って遺体を積んでいる馬車の方へ行ってしまった。

 そんなバッカス隊長の後姿を見送ってから周りを見渡す。

 勝利したとはいえ、こちらの死傷者だってかなりの数になる。

 アーシャもその中の一人だった。

 俺は無言のままその場で水筒の葡萄酒を地面にこぼす。

 


 「アーシャ、安らかに眠ってくれ‥‥‥」



 そして葡萄酒を口に運ぶのだった。

 

  

 ◇ ◇ ◇



 ガレント軍が引いたおかげで南のエダーの港町までをホリゾン公国が占領出来た。

 


 しかしここにきてガレント軍は俺たちの軍を脅威として感じたらしい。

 俺たちを撃破する為にウェージム大陸の北に集結を始めているらしい。


 そう、俺たちの軍にいる切り札、「巨人」を撲滅する為に。


 普通に考えれば「鋼鉄の鎧騎士」を追加して魔道部隊やもしかしたらあの機械人形たちも引き連れてくるかもしれない。

 ガレントの量産型「鋼鉄の鎧騎士」は他国のモノに比べ汎用性が高いらしいが逆に言えば特徴らしい特徴は無い。

 だが多勢に無勢。

 そうなればかなりの激戦になるだろう。

 それを予想してか、本国からは追加の兵や傭兵、支援物資が届けられた。



 「アインが小隊長か? 出世したな! 俺もお前の部隊の方が良いな。死なずに済みそうだ」


 ベニルがそう言って肩に手を回して来る。


 「分からんぞ? バッカス隊長だって俺にその責任を押し付けているだけかもしれない。だが、無駄死にするつもりはないがな」


 そう言って俺たちは肩を抱き合って反対の手の拳をぶつけ合う。



 「死ぬなよ」


 「勿論だ、だが約束通り今日はお前のおごりで飲ませてもらうぞ!」


 「ああ、アーシャの分も盛大に飲むぞ!」





 俺は褒美として支給された酒瓶をかかげベニルと一緒に自軍に戻り酒盛りを始めるのであった。

 

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