第276話 骨十字の船出? 宇宙海賊見参!

 振動と張り付くような圧迫感がマジで辛い。何が辛いって? ケツと腰と頭がだ。


「クッソがぁ……」


 全高15.9メートルのスカルゴーストをロケットのコンテナ内に収めるために問題になったひとつは姿勢・・らしい。


 なにせ即座に動ける完動品として打ち上げなきゃならないんだ。箱に収まりが良いようパーツ単位で梱包して、現地で組み立てるなんて事は出来やしない。


 そうなると人型ロボツトをまるっと長方形の箱の中に収める必要がある。そしてスリムな打ち上げロケット内に格納して上げるなら『箱の向き』も決まったようなもの。


 スカルはコンテナの中で体育座りしたような形で納められ、当然として頭部が上にくるよう格納された。


 それがどうしたってか? これが大問題なんだよ! 姿勢がな!


《喋っちゃダメだぞい。舌噛むで。はいイキんでイキんで》


(頭と顎が重くて喋れねえよっ! あと生まねえから!)


 こいつの操縦席は胸元にあって、胸部から見た視界が正面になるようシートが配置されている。当たり前の話だよな。操縦席がロボットの横とか下に向くような配置だったらおかしい。


 そして人体ってのは正面からの負荷に一番強い構造をしているってのも常識だ。目玉だって前を向くよう付いてるし、耳も同様。人は正面にこそ最高のポテンシャルを発揮する設計がされている生き物だ。


 だから乗り物ってのは正面を向いて操るんだ。車でも飛行機でも船でもな。


 じゃあ宇宙ロケットは? 当然としてこれも搭乗員は正面を向く。つまり真上だ。


 ロケットが向かう先は宇宙なんだから当り前さ。シートは壁に張り付くように設置され、パイロットが座れば背中は下。足上げて寝るような姿勢になる。


 重力を振り切るために必要な速度はマッハ30。秒速にして11.2㎞。車のようにカーブなどせずとも、ただそこにいるだけで3.5Gの負荷が掛かる超スピードが要求される。


 ゼッターに慣れてるなら4G未満なんざ平気だろって、軽く考えてるやつがいたらブン殴りてえ――――つまりオレだよクソが!


 というわけで今オレが絶賛苦しんでる理由は姿勢のせいって事さ。人体は正面からの負荷には強い。正面からなら訓練してないやつでも3.5Gくらいは耐えられる。


 だが真上からの圧には弱いんだよ人間の体ってのはよぉ! 上から伸し掛かる負荷にはとても弱いんだわ。


 気分は車椅子に乗ったまますげえスピードで上がるエレベーターに入ったイメージだ。超キッツイわ! 首と腰がミシミシ言うわ! 頭も貧血でクラクラするっての!


 人間が心臓というポンプを使って送り出せる血液の勢いには限界がある。普通の人間が立ったままで耐えられる限界は訓練しても4G未満。それ以上の負荷の前では血液が上に昇って行かないからだ。


 パイロットスーツ+スーツちゃんの耐G性能。それとオレの優秀で健康な体があるからまだ耐えられるが、この状態が打ち上げから大気圏を離脱するまで10分近く続くんだからたまったもんじゃねえわ。拷問か!


《もう少し性能の良いロケットならまだ加速がマイルドだったんだけどナ。これは衛星軌道の研究ステーションに物資コンテナを送るために作られた無人の貨物ロケットだからネ。有人式のような乗り心地は考慮はされてないのデス》


 今にもコンソールに上半身がへばりつきそうな気分のまま耐え続ける。頭部からくる重さに首まで縮みそうだぜ、ただでさえ知り合いの中ではチビなのにこれ以上小さくなったらどうしてくれる。


《ブースター切り離しは予定通りだったし。そろそろ負荷も消えるかナ?》


 数秒後、スーツちゃんの言う通りさっきまであれほど伸し掛かっていた圧力が抜けていく。己の内臓にさえ重さを感じていた時間が噓のよう。


 無重力状態。Sワールドで何度か経験したが、これがリアルの宇宙の感覚か。


「はあ……二度とやりたくねえ」


 何度かの深呼吸をしてクタクタの体調を整える。額から噴き出た汗はスーツの機能で顔を包むエアスクリーン内の空調が吸い出してくれるから拭う必要は無い。


 体力が落ち着いたら待機状態のコンソールを立ち上げてここからの手順をおさらいする。1発勝負だ、次はえんだからヘマはできん。


「まだフィールドは整ってないか」


《予定時刻前だよ。あと58秒》


「ここで撃たれたらアウトだな。心臓がキリキリするぜ」


 今のスカルはまだハリボテ同然。地上の基地からここまでケーブルが届いていないからだ。


 つまりまだSの法則が機能していないリアルの世界。スーパーなロボットが飛び回るなんざ夢もまた夢。これが現実だ。


 だがコンソールに表示されているスカルのパワーゲージが上がればケーブルが届いた合図。


 そこは夢と現実が繋がった世界。オレたちゃここからが本番だ。


 すべてを知るのは時計だけ。この作戦のために合わせた時計の秒針だけが知っている。


 タイミングはこちらからは分からない。だからオレは亡霊と共に棺桶の中でじっと待つだけ――――死者を呼び起こす冒涜の銃声を。


 アンビリーバブル・ケーブルの運搬と連結にはサガの長砲身化した『リボルバーカノン』が使われる。


 これでケーブルを入れたカプセル・バレットを複数ち上げると、軌道を回ったカプセルはプログラムに従ってハワイ上空でケーブルを展開。衛星軌道の一定の宙域まで自動で連結してくれるらしい。


 どんな天才が関わったかまでは知らないが、むしろスカルより開発や調整が難しいんじゃねえのかそのトンデモ砲はよ。 


 長砲身化した『リボルバーカノン』ってのもなんなんだか。あれで宇宙まで届くのかよ? 長砲身化前から大気圏外へカプセルを飛ばすだけの性能はあったらしいが。マスドライバーかっての。


 ケーブルの後はスカル用の武装コンテナもリボルバーカノンそいつ で上げるらしい。ただ諸々あってち上げられるのは2発が限度と言われている。


 それ以上は新型カプセルの製造が間に合わなくて弾切れ。そもそも連射に砲身も耐えられないそうな。


 ――――サガでカノンの指揮をしてるのは訓練ねーちゃんとブーメランヒゲの爺さんらしい。他で忙しいだろうによく間に合わせてくれたもんだよ。これも一種のSパワーの恩恵かねえ。


《暇だしラジオでも聞く? 深夜枠こそはっちゃけろ! スーツちゃんのスペース・ニュースレディオゥ!》


「なんか始まった」


《さっそくラジオネーム・藤巻皿ムーンさんからのメールデース》


「入るわけねえだろメールがよ」


《低ちゃん、スーツちゃんこんばんわ。ボクは火のまどうせん――――チョイ待ち。コンテナ外で複数の反応。探査機か、もしくはコンテナ回収用のドローンかナ? 結構大きいゾ》


「きれいにラッピングしたプレゼントだ。まだ気付かれちゃいないと思いたいね」


《マーネー、このままステーションまで運んでくれたら一番楽だニィ》


 確かに。スカルを使うことなくステーションに取り付ければそれが一番だ。


 ……けどなぁ。オレの頭の後ろを走るヒリヒリした感じが言ってんだよ。そんな楽には行かねえぞってよ。


《あ、マズいかも。ドローンらしいものが内部調査を始めるっぽい》


「だと思った。けど参ったな、予定だともうパワーが上がってもいいはずなんだが――――来たっ」


 それまで低空飛行だったスカルゴーストの出力ゲージがグンと上がった。難題だらけのこの作戦、それでもギリッギリでお膳立てが間に合ったらしい。


「各部チェック。急ぎだ!」


《スカルゴーストの各パラメーター、予定値よりマイナス2から5パーセントがチラホラ。やっぱり要求性能には届かなったナ》


「しょうがねえさ、このさい動くだけで御の字だ」


 突貫で作って突貫で打ち上げたんだ。普通はこんなデスマーチで作った機械なんざS製でも動かねえよ。


「エンジンスタート! 飛び出すぞ!」


《コンテナ開閉と同時にチャフグレネードを散布。敵の推測位置を網膜に投影》


 コンテナの壁がバラけると同時に仕掛けられた攪乱材が吹き出し、辺り一帯を金属片を含むスモークが覆いつくす。


《ドローンのシルエットから武装を特定。小口径のレーザーくらいは積んでるネ》


「なら放置は出来ねえなっ!」


 虫やカニみたいな足を畳んでいる4基の大型ドローンのシルエット。いつもはあのウジャウジャある足でコンテナを挟んで持っていくんだろうが、生憎とてめえらの持ってくブツはここには無いぜ!


 チャフスモークに紛れて両腕のエナジーマーカーを装備。ナックルパートモードにして手近の1基を殴りつけてブッ壊す。


 Sワールド製じゃないならこんなもんだ。たとえ壊れてなくてもスラスターの出力だって弱いもんさ。宇宙の彼方に吹き飛んだ時点でもうここまで帰還できまい。


 チャフによるレーダー波のかく乱で照準も出来ない無人ドローンは攻撃もままならない。対してこっちはスーツちゃんのアシストでスモークの中でもシルエットが分かる。後は順繰りにカニを殴るだけ。


「マントの性能テストだ。1発あえて受けるぞ」


 スモーク外にわざと追い込んだ最後の1基のトドメを遅らせてレーザーを誘う。放たれた赤い光はこちらの黒いマントに吸い込まれるようにして消えていった。


《装甲マント未貫通。このレベルなら同じ個所に受けても5発は耐えると思うナリ》


「十分っ、ご苦労さん!」


 用済みのラストを蹴り飛ばして破壊する。素手で悪いな、使わなくていいエネルギーは温存したくてよ。


「……さて、バレちまったからには突撃と行こうかっ!」


 スカルゴーストの機動力の要となる装備。畳まれていた背後の推進器バーニヤを×の字に展開して、4つの噴射口を輝かせる。


 先端に輝く光が灯った十字のシルエットはまるで大昔の海賊旗に描かれた骨のよう。


 交差した骨――――それは死と略奪の象徴。野蛮なる海原の大罪人。海賊の旗揚げ。


 奪いつくしてやるぞ道化師。お前にゃ命さえ勿体ねえ!


《ステーション近辺から防衛機・砲台らしきものが多数!》


「構うか! 突っ込むぞ!」


 派手に光るスラスターの光を頼りに照射される無数のレーザーがスカルを捉える。


 しかし、エナジー兵器によって受ける被害を塗装と繊維が蒸発することで散らすこの防御マントを、リアルの兵器で貫くのは容易じゃないぜ。回避を考えることなく突進させてもらうぞ。


 こっちもステーションを盾にされているのが厄介だがな。さすがにこれを攻撃したら『うっかり』じゃ済まねえ。殺す気はなかったなんて言い訳がきかん。


《回避!》


「うおっ!?」


 細い糸のようなレーザーの網の中から、突然にションベンみたいな太さと勢いで撒き散らされた黄色いエナジー照射を寸前で躱す。


「粒子砲か!? 現実の研究設備のクセしてなんて物騒なモン配備してやがるっ」


 わずかに引っかけられたマントの端が一発で溶けちまった。威力がレーザーの比じゃねえぞ。


《違うよ低ちゃん。粒子砲なんてSワールドの技術を使わないと実現できない。少なくともサイズの問題がクリアできないはずだヨ》


 粒子加速砲ってのは理論だけは現実でも『出来なくはない』技術だ。要するに電子や陽子を電磁加速で打ち出すってだけだからな。


 ただしそのために必要な施設の規模は巨大そのもの。短くても都市のトレインコース一周分はある大規模施設が必要だ。


 なにせ弾となる電子の加速に必要なサーキット自体に長大さが要求されるからな。これを兵器として運用するにはもっともっとサイズダウンが必要になるんだが、これが現実では難しい。


 少なくとも今の人類の科学力では。ならばそれ以外で実現したとしか考えられない。


「S技術だってのか? おかしいだろ、こっちがどれだけ苦労して今のフィールド設定したと思ってる。あの研修ステーションがS基地だとでも言うのかよ」


《スーツちゃんに言われてもナー。でもあそこがS基地ではないと思う。むしろこっちがフィールドを作ったから動き出したんでナイ?》


「それこそおかし――――危ないっぶねえな! こんな短いサイクルで撃てんのかよ」


 再びションベンみたいなエナジー光。近くを通るだけで粒子加速で発生した電磁界のカスでも当たるのか、命中せずともバチバチとマントを痛めていきやがる。


 だが今の射撃で何かが見えた。


 黒い。ブラックカラーのロボットがステーションの上でクソ長い得物を構えてやがったぞ。


「あれがそうか。さすがに小型っぽいが……なんでスーパーロボットがここに?」


 S技術は基地を離れたら使いものにならない。だからこそ地上基地からケーブルを上げてちまおうなんて、こんなバカバカしい作戦をしなければならなかったんだ。


 それなのに。なんでここにスーパーロボットが待ち構えてんだよ! ありえねえだろ、こっちが『アンビリーバブル・ケーブル作戦』をやってなかったら無駄もいいところだぞ!


《低ちゃん、相手から通信来てるゾ。どうする?》


 通信を寄こしてくるのに射撃が止まってない。こっちをかく乱するブラフか? だが情報も欲しいところだ。


「……チッ、コードは?」


《一般回線。全世界放送上等ってカンジ》


 スーツちゃんの言う通りコンソールから通信回線を開くとコードを合わせるまでもなく、機材が一般回線から通信映像を拾ってくる。


<ごぉーきげんよう! 待ちくたびれたよセニョリータぁ。アーハーン?>


 ワイプに映ったのはやはりこいつ。白塗りの顔に目を覆うようにグリーンの星を描いたピエロ。その血走った目をカメラいっぱいに近づけてヘラヘラと笑っていた。


<宇宙までの旅は満喫できたかぁい? こちらは無重力生活が長くて帰るのが今から億劫さ。足腰が弱ってしょうがないよ。年もあるかな? なんて50代女子に酷い事言っちゃダメだぞ? HAHAHAHAッ!>


「(クソババアが、って、このくらいいいだろ)」


《NO。世界放送でクソババアはNGデス》


「このやろう」


<やだ玉ちゃん恐ぁーい。HAHAHAは――――ヴえ、ん、゛あ゛あ゛、ん゛! ……失礼、最近の食事は喉に張り付くペーストばかりでね。そろそろ新鮮なサラダが食べたいな>


「おとなしく捕まって地上で食べるといいさ」


 途中で事故に見せかけて宇宙に放り出すけどなぁ。てめえみたいなのは土に還ることなく宇宙を彷徨ってもらうぜ。


<それはまた後の楽しみに取っておこう。なにせ傷ついた少女の願いを聞いて、せっかくこうして舞台を作ったのだから。ねぇぇぇぇえ!? 女子パイロッ!>


x2.<……うるさい。もういいでしょ? 邪魔ばかりして>


 英語で別の通信が入る。喉を傷めているようでガラガラ声だが、若い女っぽいな。


<オゥフ、ご機嫌ナナメだね女子パイロッ。コンテナに入ったままで撃ち殺せなかったのがご不満かい? ダメダメ、ダーメーよ? 合体と登場は邪魔しちゃいけないのがお・や・く・そ・く!>


 ワイプの中で踊るピエロ。その言い分からするとドローンで調べる前からこっちの作戦はバレていたらしい。

 だがピエロの謎のこだわりでこっちが戦闘態勢になるまで、この黒いロボットに攻撃させなかったってことか?


 そういやガイサイガーの時にも合体を妨害するなと邪魔してきたっけな。自分の戦力にも徹底させるってんならスジが通ってら。それでもこいつを好きにはなれねえがよ。


<じゃあ後はこの星の海で二人でだけのダンスパーティとシャレ込むといい。これで願いは叶えたよ? 何もかも失った悲劇の女子パイロッ! オウ! グッバイ!>


「毎度毎度、頭痛がしてくる野郎だな……」


 そのまま一方的に通信が切られる。垂れ流すセリフを聞いてるだけでこっちまで頭がイカれそうだわ。


x2.<やっとおまえに復讐できる。待ってたわよ劣等人種! この悪魔が!>


 三度目の射撃。けど不意打ちじゃねえならそんな大物当たるかよ。


(こいつ攫われたっていうブリテンのパイロットか?)


《他にいないでショ。メガネ君のクローン脳を女子に調整した可能性もあるけどネ》


「酷いジョークだ!」


 大砲の発射直後を狙って頭部の60ミリバルカンを飛ばす。他に射撃武器は無くってな。


 狙撃のために姿勢を固定していた相手は回避も防御も間に合わず、それでも持っていた砲身でクリーンヒットだけは防いでステーションを離脱する――――って、このシルエット!?


「スカルゴースト? 黒いスカルじゃねえかこいつ!」


 エックスの形に広げられたフレキシブル・バーニヤの噴射光が映し出したその姿は、まさしくスカルゴースト瓜二つ。


 額に髑髏を飾る黒い海賊。もう1機の亡霊。


x2.<イエロォォォォッッッ!>


 壊れた長砲身のライフルを捨て、血を吐くような雄たけびを上げて突っ込んでくる。


「こぉの(クソが)!」


 どこまでバレていた? どこから仕込みだ? スカルの設計者は誰だ? もしかしてピエロじゃねえだろうな!


《ビームソード装備! おお、二刀流?》


 スカルには2本のビームソードというエナジー系近接装備が搭載できる。こっちは打ち上げの重量制限で持ってこれなかったやつだ。


 待ち構えてた向こうはフル装備ってか? 手数でどうにかなると思うなよ!


 マニピュレーターに付けた二基のエナジーマーカーからピラミッドめいた形のビームを発振し、敵のソードに応戦する。


「――――っ!? クソ」


 鈍い! スカルの四肢が軋んでタイミングがズレちまう!


《無理にカウンターを狙わないで。レティクルの反応とスカルの反応に誤差があるヨ》


 いよいよ急増品の不備が出てきたか。カウンターを止めてなんとかソードは弾いたが、今からこの調子じゃたまんねえな。


《性能値がドンドン下がってる。あまり時間をかけると最悪やられなくても機能停止しちゃうかモ》


「時間をかけるつもりはない! とっとと決めるぞ!」


 マーカーのひとつで敵のバルカンを防いで接近する。すでに機動力でも負けだしているからその選択はありがてえ。こいつのバルカンは実体弾。発射すれば姿勢制御にスラスター推力を取られて動きが鈍るんだよ!


《ドローン!》


「チッ」


 殴りつけようとしたところに数基のドローンが飛び込んできて盾になりやがった。タイマンじゃねえのかブリテン野郎!


x2.<死ねぇぇぇぇぇッッ!>


 前を遮るドローンごとハンドピストルをブッ放してくる黒いスカル。健気に守ってくれたドローンに酷え野郎だな!


《マーカー出力低下。どっちもエネルギー切れ寸前》


 もうすぐシールドとしての役割を果たせなくなるエナジーマーカーを、最後っ屁とばかりにビームを展開したまま投げつける。


「ヒートダガー起動!」


 1発、2発。こちらに到達する軌道のビームを防いでくれたマーカーの後ろから突進し、脚部に仕込まれた赤熱の刃を向けて黒いゴーストを蹴りつける。


 狙いは胴体。0.5秒で溶断温度まで上がる高熱の刃を喰らえ!


x2.<きゃあああああっ!>


《ダメ、浅い! 照準がズレてる》


 狙った箇所はジェネレーターのある胴体。だが微妙にダガーの軌道が逸れて致命傷を逃しちまった!


x2.<あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!>


 そこに放たれるビームピストルの乱射。それを回避しようとしたがスカルが言うことを聞いてくれねえ! 挙動が鈍い!


《マントがもたないヨ! 回避回避回避!》


(んな事言ってもな!)


 いくらオレが反応できてもスカルのほうが拾ってくれねえ。なんとか直撃だけは免れたが……思わず間合いを取っちまった。また接近からやり直しかよクソ。


 足から出したダガーはわずか7.7秒で稼働限界を迎えて刀身から熱の光が消える。後はもう高熱でダメになった脆い棒切れだ。


 バルカンは弾切れ、エナジーマーカーは喪失。使える武装はヒートダガーが残り1本!


 対して向こうはほとんどの装備が健在なうえに、こっちよりはるかに機体のコンディションが良いときた。ヤベえなこりゃ。


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