第258話 萌え袖? キョンシーウェイトレス化計画
東洋のゾンビ、
他の衣装や装飾は布地からの手作りや既製品のレンタルだが、一部の衣装はプロの手を借りないとちょっと厳しいらしい。
まあプロと言っても機械にデザインと体格のデータぶっこんで、軽く手直ししてでっちあげる系だ。いわゆるコスプレ衣装向けのニッチな業者らしい。
それでも素人が作るのとは段違いって事で、女子の賛成多数で発注することになった。
服やらアクセサリーやら、あとは家の装飾や家具の配置とか。女ってこういうの目の色を変えるよな。
特に暗がりで誤魔化しがきかないセーフゾーンでの衣装はウェイターやウェイトレスの衣装でもある。これが野暮ったいとお化け屋敷の空気が一気にチープになって、せっかくの雰囲気が台無しなんだとよ。
(だからってミニチャイナはおかしくね? ピョンピョンゾンビはもっとこう、ダボっとしたスボンだったろ)
《何事もアップデートしていくものだよン。昔好きだったアニメキャラを今見ると線が甘くてダサかったりするでしょ? キョンシーだってリファインしないとネ。下半身をスッキリしつつダボタボ袖でキョンシーの持つイメージはちゃんとカバーするんデス?》
(疑問形じゃねえか。まあ袖そのものはそれっぽいがよ。なんで服がノースリーブで袖が二の腕と繋がってねえの? ベルトで生の腕にダボ袖を付けてるっておかしくね?)
《そうしないと十代女子の二の腕と脇が見えないからデスが何か? 肌色はいくら補充してもいいとモノリスにも刻まれてオマス。それにこれ胸元空きのデザインに注目しがちだけど、実はノースリーブだから神秘のスペースから横山さんと片山さんが見えるんダゼ!》
(最低の事を言い切りやがった……)
別に衣装デザインはスーツちゃんじゃない。複数のクラスから選出された女子どもだ。それぞれがこれかわいいあれかわいいとキャアキャア言い出して、最終的に上がってきた第一稿がこれ。
キョンシー風ミニチャイナ。
バカじゃねえの? 足丸出しハイヒールって。給仕するのにダボ袖が邪魔すぎる。実用性軽視の撮影用衣装だろこれ。日々の飯屋仕事にこんなもん使えるか。
「お札はさすがに視界の邪魔かしら。顔の正面より横に張る感じにしましょう」
「帽子はもっと可愛くしたいなぁ。これそのままだと古臭い雑技団って感じで野暮ったい。シニョンに合わせる?」
「女子のメイクは薄目でいいよね? そのぶん男のはガッツリホラーで」
「付け爪は危ないからウェイトレス用は無しね」
「三つ編みもウィッグで選択式できるようにして。男子はアジアンの被り物か鞭髪でいいや」
「うーん、普通の下着だとスリットから見えちゃうなぁ。やっぱりドレス用の下着がいるよ」
「あー、あの腰からサイドが見えないやつ? いっそ見せパンでもいいんじゃない? リボンとかフリルとか全開のやつ」
脳が滑る。オシャレを話し合う女どもの会話ってぜんっぜん頭に入ってこねえわ。男同士が趣味のもの話し出すときの女もこんな感じかね。
別にオレたちで占拠してるわけじゃないんだが、さっきから男子が教室に入ってこれなくて困ってんぞ。『女の集団』ってオーラにパワー負けしてる感じで、そそくさと回れ右して行っちまう。
オレも出て行きてえ。昨日は外で資材の運搬や外からくるトラックの誘導してたから気楽なもんだったのによぉ。
まあ割り振られた仕事はやると言っちまったからには付き合うしかない。まとめ役をやる苦労を別のやつが買ったんだ、なら他のやつは指示役の言う事聞いて真面目に動かねえとな。
仕事は他人任せで本番参加だけしたいなんて小狡いタコはオレが引っぱたいてやるわ。もちろん野郎はグーだ。オレもやってんだからサボんなよな。
「たまちゃんさん! これどーよ! ぐえっ」
あん?
目の前にはデコりまくった端末。
画面に表示された衣装デザインを自信満々のドヤ顔でオレの前に突き出してきたミミィの顔を反射的に押さえる。こいつ人との距離感バグってるから事前に押さえないとそのままベタベタしてきてかなわん。
「最初にしてはかなりイイ線行ったんじゃない? やっぱこういうのは直感とセンスよねぇ」
同じく高笑いしてふんぞり返りそうな顔で鼻を膨らませてるアスカがウゼえ。おめえは横であーだこーだ騒いでただけじゃねえか。意見をまとめたのは初宮だろ。
「生地はぜんぶラメ入りで、カラーはブラック・ホワイト・パープル・レッド・ピンクが候補だよ。後は暗めのブルーとグリーンも考えるつもり。それぞれ個人の希望色にしたいの。あっ、もちろんホワイトは玉鍵さん専用だから」
言ってない。白を空けとけとか言ってないぞ初宮。
《ん゛ん゛ん゛ん゛っ!? 確かに低ちゃんのイメージカラーは白なんだけどーっ! これはどれもアリっすわ! チャイナのカラーパターンは無限大!》
(その
《同色コンボもいいけど胴体はタイガーのようなイエロー。ヒールはグラスホッパーのようなグリーン。頭飾りはイーグルのようなレッドとか分けてもイイネ!》
(虎の黄色とバッタの緑はイメージカラーとして同意するが、鷹がなんで赤なんです?)
《イーグルは赤でシャークは青でパンサーは黄色だからデハ? 初の三人戦隊からすでにイメージカラーとして魂が燃えているのダ》
(いつから戦隊ものの話になった……)
「タマはどうなの? あんたさっきから何も言わないんだもん。ひとつくらい意見を出しなさいよ」
知らねえよ。ここまで決めた後で今さらオレだけチャイナは嫌だとか言える空気じゃねえし。
「(あ゛ー、)男子のほうは?」
いっそ男子の衣装の衣装を着ちまうのも手だ。いや、むしろこれが正解だな。他クラスと上下学年合同でやるんだからウェイトレスの頭数は十分だ。オレだけ衣装をフケても平気だろ。
「男子の候補のひとつはこんな感じ!」
「《怖っ》」
血糊で汚れたボロボロの肌着に同じくボロいハーフパンツ。足はつっかけのサンダル。クソ暑い地域のアジアの下町で、当然みたいな顔で拳銃持ってうろついてそうな地元マフィアのおっさんかよ。お化けじゃなくてリアルな意味で怖いやつじゃねえか。
「ミミィちゃん、それお化け方の案だよ。雰囲気はあるけど不衛生そうに見えるから飲食店ではちょっと」
(それ以前の問題じゃね? 確かにアジアンテイストの屋台なら汚え店の裏やネオンの下に絶対いるタイプだけどよ)
《観光客が目をつけられたらお化けよりヤバイやつダナ》
「それ特殊メイクの被り物が借りられたからもっとすごくなるわよ? ほらこれ」
だから怖ぇーよ! 口が縦についてるとかお化けじゃくて完全にクリーチャー方向じゃねえか。しかもこっちも傷跡とか『肌着に付着した血糊』みたいに生理的な意味で嫌悪感を感じる『汚し』が入ってるから生々しいんだよ! 学生の文化祭程度で気合入りすぎだろ。
《低ちゃん意外とこういうのダメだよね》
(前は死んだやつの幻覚が出てくる体験なんざしょっちゅうしてたからな。知り合いが恨みがましい目で何か訴えてくる
《はて? クリーチャーとお化けは違うのでは? 低ちゃんのバイタルの記録上、お化けの幻覚よりグロいクリーチャー物の映像媒体を視聴したほうが心拍に変化が顕著っス》
(あ゛ーあ゛ー聞こえなーい)
人間ならどこ殴ってどこを刺してどこを撃てばいいのか分かるが、怪物は急所が分かんねえから嫌いなんだよ!
クソ、当日はお化け担当も考えたが、こりゃあ調理担当として厨房に籠ったほうが良さげだな。作り物と知っててもあんなのが暗がりをウロウロしてるところになんて絶対いたくねえわ。
「で? 男子の衣装はどうでもいいのよ。発注するなら早いほうがいいんだから、あんたの案をさっさと出しなさい」
「玉鍵さんは私服のセンスもすごくいいし、ぜひアドバイスが欲しいな」
「たまちゃんさんもピンク着ない? ミミィとお揃い」
「せめて(下にショーパンかスパッツを、って規制すんなや)」
《ナイナー。チャイナにそれはナイナー。これに関してスーツちゃんは全力で抵抗させてもらいマス》
こぉぉぉん野郎!
「「「せめて?」」」
「(ぐ、が、ぎ……ああクソ!)せ、せめてハイヒールはやめとけ。危ないから」
ただでさえ空間を暗めにするんだ。そこに雰囲気つくりの小物やら置くから足元がかなり怪しい。そこに来て給仕するのが慣れないハイヒールを履いた学生では事故の元だろ。熱いもの持って転んだら大事だぞ。
《ハイヒールはバニー回に残すということで良いでショウ。むしろハイヒールより生足にロングブーツとかでもいいかも。手足はやたらゴツい装備なのに頭や胴体だけ露出多めで薄いのは女子のコスプレ衣装の定番! SFのパワードスーツもただピッチリしてるだけより末端だけゴツゴツしいパターンがスーツちゃんは好きデス》
(スーツちゃんの趣味なんぞ聞いてないわい。デザインより安全を考慮しろや安全を。あといい加減にバニーは諦めろ!)
《スーツちゃんの! 目が! ローアングルカメ子のファインダーなうちは! 必ず低ちゃんにバニーを着せて見せル!》
カメラ取り上げて線路に投げ込んでやろうかこのエロスーツ!
放課後に文化祭の準備が挟まる事で必然的に毎日の訓練時間もズレ込む。
以前はスーツちゃんによって厳しい門限を決められちまっていたが、ここは治安の良いエリート層で
いつもやってる体力と筋力維持のための基礎訓練。これに赤毛ねーちゃんから要請された
ロボットでの訓練は後回しだ。どうも乗機予定の『スカルゴースト』が結構な頻度でアップデートしてるらしくシミュレーターの設定がすぐに古くなっちまう。
なので今からガチガチにやってもあまり有益じゃない。完成形を待ってる間に旧式で変なクセつけても困るしな。
「寝るなミミィ。受けたいって言ったのはおまえだろ」
座学開始5分でもう舟を漕ぎだしたミミィの頭を掴む。直感型の天才ってこういうところ雑だよな。物知らずでもカンでだいたい正解を引き当てられるから、こういう地味な勉強は苦行にしか思えないんだろうよ。
同じくついてきたアスカや初宮。こいつらは寝ないにしても素で詰まらなそうだ。
何気に座学の成績が学年最上位のアスカはわりと講義を理解できてるようだが、初宮は脳内に『?』が飛び交っているのが外から丸わかり。ありゃそのうち講義終了まで『無』になるな。
「つまんなーい」
自分から受けたいとやってきた手前黙って聞いてる二人に対して、空気読めないミミィは無遠慮にぼやきやがる。講師を引き受けてくれた学者の顔が引きつったぞ。
そりゃ『興味が無い事は大嫌い』ってタイプにはこんな座学はキツいだろうよ。こいつ地頭は良いからキッチリ教えれば吸収はするんだがなぁ。
《低ちゃんの作戦成功ってところかナ? これで明日からミミィちゃんたちを撒かなくていいネ》
(ガキの説得は言って聞かせるより体験させるのが一番だ。つまんねえと知ったら自分から逃げ回ってくれるからな)
事前に講師へと連絡して今回の講義は内容をちょっと捻ってもらった。
これもオレの頼まれた仕事に使う知識なのは同じだが、事情を知らないやつからすれば普通に宇宙や物理についてのお勉強だ。興味が無いやつは睡魔と格闘できる事請け合いだぜ。
まあオレも正直これは辛いが。学校生活は楽しいが別に小難しい勉強自体は大好きってわけじゃねえし。学べるありがたさを知ってるだけだ。
「勉強しないならトラックでも走ってこい」
「え゛ー? シミュレーションで対戦しようよー。ミミィ、青鱗に慣れてきたから、もうかなり戦えるよ?」
クソだらけてるピンクだが、これでサイタマ基地から依頼された仕事がある。
超獣機『青鱗』という、Sワールドの戦利品として手に入ったロボットの性能調査だ。
と言ってもあのロボットのソフトウェア自体はオレらが使ってる物と同じ規格で、そこから情報を抜けたからシミュレーター用のデータもすぐに構築できているがね。
実際に構築したデータで試運転をして、どんな機体かをシミュレーターを使った戦闘の中で調べるって感じの仕事らしい。
『青鱗』は本格的な稼働に超能力の才能が必要だと分かっている。
確かP―LINKだったか? 動かすのに
無論シミュレーターならその辺の設定を弄るだけで誰でも乗れる。それでもわざわざこいつに頼むのは、ミミィが青鱗のパイロット候補だからだ。
今のところサイタマにはミミィしか実機のパイロットになれそうなやつがいないらしくてな。ならロボットの操縦訓練を兼ねてって事だろうよ。
同じく手に入ったもう1機の超獣機『白牙』は初宮がテストを担当している。
まさか初宮が超能力者とは思わなかったわ。派手な事が出来るタイプじゃないから本人も今まで能力に気付いてなかったようだし、なら外野が分かるわけねえやなぁ。
不思議な事に
技術者たちの話だと『こっちのロボットとはパイロットのフィーリングが合ってないのかも』だとさ。
つまり原因がよくわからんって事だろう。
これはパイロットの視点で聞くと分からんではない。理屈でなく『感覚が合わないロボット』や『乗っていると嫌な予感のするロボット』ってのはあるもんだ。
『これ乗ってたらそのうち死んじまうな』、って感じるやつがよ。
ま、そんな気分にならなくても死ぬときは死ぬがね。
もう何も怖くないって絶好調の気分でいたところを、不意を打たれてあっさり死にましたはよくある話さ。
「たまちゃんさん、次はゼッターに乗るんでしょ? ミミィ青鱗でリベンジしちゃうよ。ミミィも青鱗もたまちゃんさんに1敗中だしねー」
ミミィは
ピンクはともかく青鱗の場合リベンジになるのかね? 敵討ちの分類じゃね?
「あれの搭乗許可は出ていない」
ゼッターは無人で動いてオレたちを助けた後、再度入念な調査をされることになった。
他のゼッタータイプでこんな事は今まで無いらしく、姿やパワーも明らかに従来機を逸脱してるからピエロの関与まで疑われているらしい。
個人的にはクソピエロとは無関係な気がするがな。むしろもっとおっかねえ気配がするよ。
例えば今はもう『F』によって否定された存在のような。人の繁栄も滅亡も知った事ではない。そんな無責任な化け物の生暖かい呼吸が聞こえてくる気がする。
人を導く怪物――――神か、悪魔か。
へっ、陳腐な妄想だ。あれはロボット。それ以上じゃねえよな。
ちょっとひとりでに動いてピンチの知り合いを助けに行く、そんなお人好しのプログラムが入った気の良いマシンさ。
オレだって助けられたんだから感謝はしてるんだぜ? これでもよ。次の仕事が終わったらまた乗機におまえさんを選ばせてもらうよ。
「それに文化祭が終わるまで出撃はお預けだ」
当面の出撃停止は赤毛ねーちゃんからの要望だ。
信用無いよな。こっちで大仕事が待ってるのに出撃して死なれたり、死なないにしても大怪我されたら困るんだとさ。
怪我と言えば女装王子が起きれるくらいには回復したらしい。あいつの場合は怪我というより衰弱だけどな。見舞いついでに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます