第107話 決戦用超弩級合体変形マシン、発進!!
<放送中>
アスカが玉鍵・天野と共に休憩所でまったりしていた午前中。基地からパイロットに出せる最大レベルの『要請』で基地01、つまり中央基地へと二人は呼び出された。
基地内を走る電動式の移動レーンに乗って自分と玉鍵の他に、付き添いの天野和美も一緒に中央へと向かう。
さっきから眉を寄せっぱなしの天野の顔は困惑を示しており、アスカの叔母であるラングの意図を図りかねているのが伺えた。
ただアスカにしても何か嫌な気配、波乱の予感のようなものはしている。
どこか所在無げな気分になり、アスカはついチラリと隣にいる背丈が自分より小さい少女のほうを伺った。
しかし彼女はアスカと違って特に何も感じていないようで、泰然とした面持ちで電動レーンの先を眺めているだけ。
自分は何があろうと独力で乗り越えられる。そんな自信と覚悟を見せられたようで、アスカは気弱になっていた自分が恥ずかしくなった。
(こういうトコよね、タマと私の違い。ビビるな、ビビるな私)
戦いはわずかな躊躇がすべてを決める。ロボット戦闘は原始から続く生身の殴り合いではない。肉体の反射だけでは成り立たない世界だ。
冷静に戦況を分析する知識と判断力、それに一瞬で身を任せる覚悟がいる。
これもまた戦いにおける玉鍵の強さの秘密だと、隣の少女を密かに目標とするアスカは考えている。
その場の対処の速さという話ではない、戦っているとちょっとした行動のひとつひとつで相手の2手3手先をさりげなく潰してくる、そんな玉鍵の狡猾さにアスカは舌を巻くのだ。
あれこそ知性と判断の速さがあってのもの。敵の次を予想し、それがドンピシャで当たっているのだから行動だって早くなる。
まるで常人の何倍もの速さで思考しているような対処能力。それもまた恐るべき頭の回転があればこそのものだろう。
(しかもこんな可愛い顔して、百戦錬磨のベテランみたいな狡すっからい戦法まで駆使してくるんだから。冗談じゃないわ)
確かに玉鍵は毎週のように戦っており、実戦はまだ2回のアスカより遥かに戦闘経験値は多いだろう。しかしそれにしたって戦法の引き出しが多すぎる。
おそらくはその思考速度を生かして、日常的にイメージトレーニングでもしているのだろうとアスカは結論した。
それも苦戦することを前提に。
でなければこれまでの過酷すぎる戦いを、玉鍵たまというパイロットは生き残ってこれなかったはず。
玉鍵たまの持つワールドエースの名は、その卓越した技量で冠された名声ではない。
純粋に膨大な戦果のみを評価し、大量の物資取得という人類貢献に敬意を払って贈られる武勲の証。
「ここって……」
レーンが続く先の分厚い隔壁が開き、経年劣化で色あせた通路の色や様式が一転、新しくも重くるしいものに変わる。
何か思い当たったのか、天野教官から独り言が漏れた。しかしそれ以上は口にせず、困惑気味であった表情が険しい物になる。
やがてレーンは資材用を兼ねた巨大なエレベーターに行き着き、そこからノンストップで下へと急速降下した。
(エレベーターのこの感覚、嫌い。なんかお腹がフワッて来て、トイレに行きたくなるんだもの。自分で機体を動かしてる分には平気なんだけどなぁ)
玉鍵もそうだろうか、などと益体の無い事を思いつつ後でトイレに付き合うよう言うことに決める。
どうも玉鍵たまという少女は『女の付き合い・連帯』という
(バカどもはもう学園に来てないし当面は平気でしょうけど、どこにでも妬むヤツはいるからね。学園で身を守る
他者が妬むのは玉鍵が悪いわけではない。しかしいちいち女の陰口を聞いた端からぶちのめしていたらキリがないのも事実。
エースとしての名を欲しいままにし、学園でも並み居る敵を薙ぎ倒してきた玉鍵。けれど女らしい間接的な敵意のあしらい方となると、この少女は酷く不得手のように思えた。
まるで女の機微の読めない男のようでさえある。
正面から対処して即解決、という様式は簡潔だが女の戦いとしては無作法だ。明確に争いへと発展させてしまうのは下の下。うまくけん制して表面化させない手際こそ上策である。
近いうちにつまらない女のあしらい方を、自分がレクチャーしたほうがいいかなとアスカは考える。
……もっとも、当のアスカ自身がそういう対処がさほど得意なほうでなく、自分も口より手が出るほうが早い女である事は華麗に忘れているのだが。
「かなり深いところね。下手したら一般層までブチ抜いてんじゃないの?」
走るように次々と数字がカウントされるエレベーター。その表示階数をじっと見ている玉鍵に向けて、アスカは皮肉気に呟く。
「…ありえそうだ。一般層に用があるときに便利かも」
流麗な目線をパネルから外し、アスカのほうに目を向けた玉鍵がどこか優し気な声でアスカの話題に付き合ってくれる。
自分でも気の強いほうと思っているアスカ。そんな自分でもだんだん不安が募り、つい軽口を求めてしまうほどエレベーターには妙な空気が流れていた。
(どこに向かってるの? 地獄の底? フンッ、地獄より底辺層をお断りしたいわね。……まさかこのエレベーターでタマに一般層に帰れってわけじゃないわよね? 私たちは見送り? さすがにタイミングがおかしいから違うと思うけど。ホントにそうだったらラングのやつ許さないわよ!)
やがてアスカの四肢にブレーキの感覚が生じ、床に押し付けられるような重圧からエレベーターが停止の準備を始めたと分かる。そして最後に急すぎる勢いでガコン、と堅い音をさせてエレベーターは止まった。
(万人向けの仕様じゃないわね。小さい子やお年寄りが乗ったら転んでケガするわよコレ)
乱暴なエレベーターに不満を感じつつ、開口したドアの先を見る。開いたドアから即聞こえてきたのは喧噪。それも怒声に近い声が何人も。
ひっきりなしに行きかう搬入車が何機も見える。床に敷かれているのは無秩序に広まった赤、青、黄、緑、紫、他にもたくさんの太い用途不明の配線の大動脈。
そして音の反響から、アスカはここが相当に面積が広く天井が高い吹き抜け構造であることを直感した。
(格納庫? またずいぶんゴチャゴチャしてるわねぇ。ありったけの機材を持ち込んで、突貫工事でやっつけたみたい)
「アスカ、たまちゃん。あっちよ」
立ち尽くすアスカを目当ての場所を見つけたらしい天野が呼ぶ。
爪を伸ばすことなくきれいに切り揃えた『運動する女の手』が指さしているのは、天井近くの壁からボコリとせり出した一角。おそらくこの場の作業監督所か何かと思われた。
あるいは戦艦の
スーツ姿のラングがこちらを見下ろして、クイクイと手招きしてる姿があった。
(確定。絶対ロクなことじゃない)
ゲンナリした気分で肩を落としたアスカの事を置いて、天野と玉鍵は向こうに続くと思しき別の小さなエレベーターに向かっていく。その背中に続きながら、破天荒な叔母からの無茶ぶりに備えるアスカだった。
「急かして悪いわね。時間がないのよ」
上がってきた場所はいわゆる作戦室ってヤツだった。何人ものオペレーターが無線の向こうに向かってわいわい言ってやがる。
ホログラフで浮かんでる資料群がオペレーター同士で飛び交い、ハイテクって感じがする一方で、デスクに付箋された紙媒体の束があったり、床に転がってる誰かのペンがあったりもする。
こういうところは一般とそんな変わらんようだな。一見ゴチャゴチャに見えて実際にゴチャゴチャ。でも分かる人には最適解の配置ってヤツだ。
いずれは思い出したように整理の命令が来て現場だけが混乱し、しばらくしたらまた似たようにカオスに戻るんだろうよ。
「ラン―――」
「アスカ、まずこっちの話よ」
文句を言おうとしたニュアンスの敷島の声は、普段より真面目な声の叔母にピシャリと止められた。
いつも余裕そうな相手の固い表情に、さしもの敷島も不満そうながら黙る。敷島は負けん気が強いといってもタコじゃねえ、何でもかんでも噛みつくような事はない。
「質問は後、簡潔に言うわ。貴方達には2段目で出撃したパイロット、31チームの救援に向かってほしい……正確には27チームになったけど」
赤毛ねーちゃんらしい赤いマニキュアを塗った指がデスク据え付けの端末を操作して、作戦室の正面モニターにその映像が映し出される。
「……何よ、これ」
慄くような呟きは、誰よりもまず訓練ねーちゃんから漏れた。
(なんだありゃ、もぐら叩きか?)
《追い込み漁のラストでない?》
モニターの向こうではデカい隕石の中央に張り付いた一団めがけて、ひっきりなしにミサイル・爆撃・ビームが何百もの小型機から放たれている光景。
早回しの映像は今の状況を手早く説明するためだろう。敵の一隊は撃ちっぱしたあとは別の編隊に攻撃を交代して後方へ下がる。
そして奥に控えるクッソデカい母艦と思しき船に入っていき、やがて先に補給しに行っていたらしき小型機群が発艦。途中で編隊を組んで順次攻撃に加わるというサイクルを繰り返してるようだった。
「推定1000機の小型機、その母艦らしき船は800メートルサイズで多数のエナジー兵器を搭載。さらに後ろには秘匿基地があるわ」
「はあっ!? 1000!? 800メートル!? それに基地!? ……ばっ、ばっ、バッッッカじゃないの!?」
「貴方たちの目標は味方の救援。これらは倒す必要はないわ」
「できるかっ! 会敵した途端に追い掛け回されて、逃げたくてもシャトルが墜とされるだけじゃない! こいつらだってそれで
(だよなぁ、数が多すぎらぁ。こっちに相手する気がなくてもワラワラ寄ってくるだろ)
《ちょっとばかり遠くに引き付けたってこの数じゃねえ。シャトルがゲートを開く前に他の編隊が撃ち落としに行くんじゃネ? 戦いは数だよ兄貴っ!》
こりゃダメだ、もうどう足掻いても助かんねえし助けられねえよ。よくもまあこんな大凶引き当てたもんだ。こいつらオレより運が悪いんじゃねえの?
「……空母もいるけれど、相手のメインはあくまで艦載機よ。瞬間的に広範囲を殲滅すれば、相手が立て直すまで撤退するチャンスがあるわ」
「無茶言わないで! ラング、あんた何言ってるの!? この子たちまで無駄死にさせる気!?」
訓練ねーちゃんも一目で無理の判断。それなのに、当然そのくらい分かるはずの赤毛ねーちゃんが明らかな無茶をのたまったことに驚いて詰め寄っていく。
「和美――――あなたの弟子も、あそこにいるのよ」
「「っ!?」」
詰め寄る足が止まる。敷島も絶句した。食い入るように見つめたモニターの先は、しかし頻発する爆発のせいでまともに見えない。
だが二人の、
あの爆撃の中で、あいつらはまだ生きている。
「具体案は? そこらのスーパーロボットを1機2機向かわせてもすり潰されるだけだ」
「たまちゃん!?」「タマ!?」《低ちゃん!? 》
どこぞのヒゲじゃあるまいし、このねーちゃんは無策でやらせるようなタコじゃねーだろ。つまり赤毛ねーちゃんなりに勝算があるって事だ。
クサクサやってる時間は
さっきまでは2発耐えられたが、今はもう1発も耐えられない。たったそれだけの違いで救援の難度が段違いだ。少しでも余裕があるうちに向かうんだよ。
「……ここまで言っておいてなんだけど、拒否してもいい。無茶を言ってるのは承知のうえよ。断っても絶対に不利益が無いよう取り計らうわ」
《やめとこーよー。これはさすがにヤバイって。ミズキちゃんとベルちゃんはかわいそうだけどさ、低ちゃんが死ぬほうがスーツちゃんは嫌ぞなもし》
「時間が無いと言ったのはそっちだ(ろ)。手早く行こう(ぜ)」
《oh……》
「Good!」
「グッドじゃないわよ! あんた正気!?」
敷島は後ろからオレの肩をグイッと掴むと、そのままガッチリと組みついてきた。オイオイ、オレはぬいぐるみじゃねーぞ。
「その解決法は単機でもなんとかなるのか?」
「タマ!!」
チッ、耳元でつば飛ばして怒鳴るな。キーンと来たわ。
「用意する機体は複座型の1機よ。でも、単座でも操作できなくはない。かなり扱いが難しくなるけど」
よし。ならこれはガキがやることじゃねえ、おまえは待ってろ敷島。ペアはまた今度な。
「単座でセッティング頼む。すぐ操縦席に行く」
「こぉの~~~~~っ゛っ゛っ゛、行くわよぉ! 私も行けばいいんでしょ!! ラング!」
「敷島? おまえはや―――」
「うっさいっ、バカ! バカタマ! 今日のペアは私よ! パートナーが行くなら付き合ってやるわよ!!」
(……若いなぁ。こういうときしれっと拒否れる面の皮があったほうが長生き出来んのによ)
《それを低ちゃんが言う? はっきり言ってそこらのスーパーロボットじゃ、生還難度インフェルノぞ。ブレイガークラスでも無理ジャネ?》
まあな。前回の巨大戦艦戦では切望した艦載機だが、今回は艦載機満載の空母ってのが逆に問題だ。
オレらのロボットでもたまにある『ほぼ無限に撃てるミサイル』みたいに、積んでる艦載機の数がおかし過ぎる。
小型機が1000機ってなんだよ。確か空母自体も推定800メートルの大物だったか? 前にブレイガーでブッ潰した戦艦より小さいが、今回は張り付いてチクチクするわけにもいかねえだろうな。
艦載機があれば痒いところに手が届く。最低射程って安全地帯は無いと見たほうがいい。
そして敵の数も膨大だ。ここまで多いとちょっと撃破してすぐ逃げるって戦法は無理だな。包囲されて絶対に逃げる途中で食いつかれる。
おまけに今回は守るのが自分の身だけじゃねえ。今はなんとか亀の子になって耐えている損傷した味方も連れ帰る必要があるってんだから。
ははっ、スーツちゃんに言われるまでもねえ。自分で考えてバカらしくなるぜ。
「……アスカ……たまちゃん」
そんな顔するなよ、訓練ねーちゃん。バカらしいなりにどっちもなんとかするさ。
「生きてるかぎりは連れ帰る。
他はまあ、ついでくらいで。余裕があったら助ける程度にするよ。あえて見殺しにしたいわけじゃねえしな。
「アスカ、貴方もいいのね?」
「ここまで来させといて言うこと? やったろうじゃない!」
へっ、気が強いヤツはこういうときサッパリしてていいよな。目の前でウジウジぐだぐだされたら、せっかく覚悟決めたこっちがイラついちまうってもんだ。
「Good……強くなったわね」
(赤毛ねーちゃんは叔母って立場とはいえ、引き取って面倒見てるくらいだ。敷島に愛情があるんだろうな。送り出す側としちゃ辛いだろうよ)
《真面目な女教師がウルウルしてるのもいいけど、気の強い美人がウルッてしてるのもカワユイ》
(不浄の妄念を垂れ流すな。さすがに不謹慎だぜスーツちゃん)
《こんなスーツちゃんに一言だけ言わせてほしい》
(なにさ?)
《なんか似合い過ぎで流しちゃったけど、ランちゃんの隣りに黙って控えてる男性が本来の基地長官らしいっスよ?》
(……おっさんは副長官かと思ってた。そういや赤毛ねーちゃんは長官じゃないってどっかで聞いたっけか。全然違和感なくてオレも流しちまったよ)
《たぶん生まれつきどのコミュニティの中でも、当たり前に人の上に立ってるタイプなんだろーねー》
(世の指導者とか独裁者って、こういう雰囲気なのかもな)
「ら、ラングらしくない目で見ないでよ。それで? 解決法ってのは何? 可能性のある案を用意してあるんでしょうね?」
「もちろん。Sワールドの問題を解決するならこれしかないでしょ―――――スーパー
(時間が
《モノが大きいからちょっと時間かかるニャア。マジで信じがたいサイズを作ったもんだネ》
だな。全高200メートル。もうアホかっていうくらいスーパーなサイズのスーパーロボットだもんよ。ここまでのサイズとなるともう自重だけで崩壊するレベルじゃねえの?
ま、そんなものでも実在できるのが今のこの世界だがな。
基地ってやつはゲートの向こうでもSワールドの影響下にあるのか、現実の物理法則が無視されることが多々ある。
ズラッと格納庫に置かれているスーパーロボットの巨体ってのがその最たるものだろう。いやホント滅茶苦茶だぜ。
おかげさんで楽しく生きてるよ『Fever!!』さん。だからもうちょっと加減してくれや。なんだよ200メートルって。こんなの作るから向こうさんが1000機とか出してくんじゃねーの? いや、向こうが先で人類が対抗したのか? 知らんけど。
Z2.<何よこれぇ!? 全っ然バスターモビルと違うじゃない! どこが何なのか分かんないわよぉ!>
通信から聞こえてくるパートナーの声はガチの困惑がある。さすがの敷島でも初めてのロボットは持て余すか。
「敷島、基本は同じだ。どんなロボットもパイロットの用がある装置しかついてない」
Z2.<分かってるわよ! とっさに動かせるかって話っ! こっちの心配はいいから、あんたもさっさと準備しなさい! くっそぉ、帰ったらラングのやつ引っ叩いてやる!>
サブモニターに映る敷島は突然の機種転換に頭を掻きむしりながらも、なんとか操縦席周りの計器を把握するため脳をフル回転させているようだ。
《アスカちんおめめグルグルだべ》
(まー大丈夫だべ。あいつそこらの大人より頭いいぞ。それに操縦席自体はスタンダードみたいだしな)
オレの突っ込まれたZ1の操縦席と違って、敷島の乗るZ2の操縦席は普通の戦闘機のものに近い。これはZ2側がこのロボットの火器管制や機体制御なんかのナビゲート役を主な仕事にしているからだ。
対してオレのZ1側はバスターモビルの操縦方式をより先鋭化したタイプ。パイロットの体の動きを再現するモーショントレースシステムを採用している。
(手足を大きく伸ばしてもまだ余るな、ここまで広い操縦席は初めてだ)
操縦席の内部は球形に近く、全面がモニターになっている。その中に浮かぶような形で最小サイズのシートが吊られていた。
バスターモビルもこんな感じだが、あれよりさらにシートが小さい。これは大きく動かすことになる身体の動きを阻害しないようにだろう。ケツがほぼ乗ってねえわ。
手と足には背後からアームレイカーが取り付けられ、これに連動してロボットの手足も動くようになっている。手の平にはボール型のコントロールスイッチ。ありがたいことに握り込む
(ボタンセレクトはボールタイプか……)
これはオレだけじゃないと思うが、戦闘中にスティックとかを思わず強く握っちまうんだよなぁ。だからパイロットにはあまりナイーブな操縦棹はかなり不人気だったりする。
握る部分にスイッチがやたら付いていたり、ちょっと動かすと劇的に反応するようなのは誤動作の素だ。
強烈な負荷の掛かるロボットはパイロットが踏ん張るためにも、ギュッと握り込まなきゃいけないときだってある。そのたびに用も無いスイッチ握って火器を撃っちまったりしたら大変だもんよ。
過去に握りの部分までスイッチ満載で、小指と薬指、それと親指だけで保持しろってスティックを見たことがあるが、ありゃ技術者が現場を理解しないタイプのクソバカだったんだろうな。
オレたちスーパーロボットのパイロットってのは、その辺の原付とかゲームコントローラー操ってんじゃねーんだわ。
『このロボットの耐G性能なら強く握らなくても平気です』とか関係ねえんだよ。生死を賭けてる精神的な負荷を考えやがれ。怖くて無意識に強く握っちまうもんなんだよ、パイロットはな!
《? 低ちゃんバイタル乱れてる》
(チッ、ボールタイプは嫌いだぜ。やっぱ操縦棹と言ったらスティックだろ。っと、愚痴ってる場合じゃねーか。そっちは済んだかい?)
《ウィ。ハード面で機能不全が多くて、ソフトウェアからだけじゃあニンともカンとも。そのせいで思ったより早かったナ》
(嬉しくねえ情報だなぁ……
用意されたこの200メートル級の頭悪い超巨大ロボット。実はまだテストどころかさっきまで組み上げてもいなかった代物らしい。
それも組むのが間に合わなかったんじゃなく、まだパーツ自体があちこち出来ていないって状態だ。これでもなんとか動くんだと、シミュレーションでの試算上はな。
《炉心1号2号は起動したばかり。溜まってるエネルギー残量だと全力戦闘したら5分で空でおます。戦場でリチャージはとても無理。エナジー兵器は極力抑えて戦うしかないでありんすナ》
(……照射系は完全に封印やね。パーツが足りないせいかエネルギーロスが大きすぎるさかい。なんでキョウトテンプル言葉?)
ビーム兵器の性能が試算されてる物とまったく違ってる。とにかくロボットとして手足が動く事を最優先に組み上げた弊害だろう。
そりゃ固定砲台になる気は
Z2.<ちょっと整備、ミサイル足りてないわよ!? ―――うっさい! 言い訳はいいから、あるだけミサイル寄こせっての!>
……こっちも供給が間に合わなくてフル装填できてないが。
(敷島も気付いたか)
《火器管制はアスカちゃんの担当だもんげ。低ちゃんはロボット動かすドライバーな》
(撃つのはオレだがな。
おーキレてるキレてる。最大1万発積めるところが200発だもんなぁ。いやまあ、200メートル級とはいえ1万発のミサイル積めるほうが頭おかしい気もするがよ。さすがSワールドですねってトコだ。
OP.<タマ、アスカ。作戦は覚えてるわね? やることやったら全部捨てていいから貴方たちだけでも戻ってきなさい。パイロットは自己責任よ>
Z2.<はいはい。帰還のゲートを開いたら、ありったけのミサイルで弾幕張ってその隙に味方を逃がす。で、私たちも逃げる。遅れた機体は見限る。OKよ>
オレと敷島で助けには行く。けどチャンスをやるのは一度きりでモタモタしてるヤツは見捨てる。それが敷島の出した出撃条件だ。
別に敷島が冷たいわけじゃねえ。誰が好き好んであんな無理ゲーみたいな戦場に行くよ。たとえ
サイタマ、トカチ、サガの3大地表都市の3段目の出撃枠。そのすべてを突っ込んでやっと捻り出した、前代未聞の超巨大サイズ200メートル級スーパーロボットのたったひとつの出撃枠。
《はいはーい。出撃時刻3段目、正午ピッタリ。定刻になりましたー》
「敷島、行くぞ。警報」
Z2.<格納庫に出撃警報。退避確認……OK。炉心出力上昇、リフトアップ……はこのサイズじゃ無理だから、このまま飛ぶわよ。背面、両肩ブースター準備>
《肩の噴射口のバランス調整が甘いすな。ちょっとパラメーターを弄りますヨン》
(頼む。せめて四肢くらい思い通りに動かないとシャレにならん)
OP.<全工程終了確認、『ザンバスター』発進許可。――――絶対帰ってきなさいよ!>
開口していく天空への筋道。ミサイルサイロのようなこの格納庫は、たった1機のスーパーロボット『ザンバスター』のために作られた専用の出撃口。
両肩の4基、背中の2基の噴射口から猛然と予備噴射の煙が上がる格納庫。退避の間に合わなかった細かい機材が吹き飛んでは高熱によって溶けていく。
助けられない、見捨てた命のように。
――――細かいものは零れ落ちる。それが世界の真理だとしても。
Z2.<「《ザンバスター、出撃!》」>
手が届くなら、あきらめるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます