112話 記憶の違和感

 異世界転生物の話を思い出そうとするが、違和感を感じる。


 あれ、思い出せない……。

 

 この世界に長くいるからか、それとも生まれ変わりで消えるはずだった反動がきたからかは分からないが、遠い昔のように感じる。

 

 今から前世の覚えている事を書いておいた方がいいかもな……。

 

 蒼については絶対に忘れてはいけない……そう思いつつも記憶が薄れているのもまた事実だ。

 幸い、蒼との日常については記憶がまだ残っている。

 消えゆくかもしれない記憶……それは蒼にだって言える事だ。

 たとえ僕が覚えていたとしても彼女が前世の記憶が消えていたら確かめようがなくなってしまう


 あの女神め、記憶ぐらい定着するようにしとけよ。

 

 言ったって仕方のない事だけれど、僕にとっては大事な事だ。

 このぐらい嘆いたって良いだろう。


 そう思っていると、ミリスが心配そうに顔を覗かせてくる。

 

「うぁ! どうしたの!?」

「あ、やっと気がついた……大丈夫? 顔が怖かったから……」


 そういうと、彼女は自分が持っていた手鏡を見せてくる。

 酷い顔だ……。

 顔が引き攣っている。


「だ、大丈夫ですよ……」

「何かあった?」

「い、いや、本当に大丈夫ですって……」

「……そう」


 不機嫌な表情で僕を見ると、「ふぅ〜」っと大きく息を吸うといつもの表情に戻った。


「取り敢えず、半分の試合が終わったね」


 この試合は半分の試合が終わると格闘戦の予選が始まる。


「よいしょっと……」

「もう大丈夫?」

「えぇ、もう大丈夫です」

「まぁ、一応次もあるし、これ飲んどきなさい」


 医療班の人が僕に回復薬を渡してくる。

 

「ありがとうございます」

「次、運ばれてきても、もう飲めないからね」


 そういうと、医療班の人は他の作業へ戻る。

 この薬は一日に一回と定められている。

 理由は魔力の回復を早めるという事はそれだけ後から疲労がくるからだ。

 一回なら大した事にはならないが、2回目ともなると次の疲労がひどいと言われている。

 いわば前借り状態なのだ。

 僕は取り敢えず回復薬をしまう。

 これから戦いが続く、必要な時に使おう。

 相手によっては使う必要もないのでギリギリまで温存しておこうとおもった。

 僕らは格闘戦の会場に向かった。





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