4話 冒険者ギルド

一年後…


「おめでとう、サウル」

「ありがとうございます」


 月日が流れるのはあっという間である。

 今日は六歳になる日だ。

 この世に生を受けて六年が経つのだ。


「六歳になった記念に少し旅行に行くぞ」

「旅行?」

「あぁ、アルス王国だ」


 アルス王国には冒険者ギルドがあり、適性試験を受けて今後の将来を見据える。

 子供には能力を知りに行くために観光ということにしているのだろう。

 その方が子供にとっても嬉しいし、喜んで行くからだ。


「観光ですか!? 楽しみです!!」


 子供らしくはしゃぐのを見て、両親は嬉しそうにする。

 

「じゃあ、二日後に出かけるとしよう!」

「はい!」

 

 サウルは窓の外を見る。

 村以外の場所に行ったことが無いので、どんなものなのだろう。

 初めての王宮、そしてギルドに期待を膨らませながら二日過ごすのだった。



二日後。


 約束通り三人は冒険者ギルドに向かっている。

 前世の日本とは違い、整備されていない道路を馬が走っている。

 この世界は服装は違えど、中世ヨーロッパの時代を連想させる。


「早いな、サウルももう六歳か……」

「おじさん臭いよ、それにこの話題何回目よ」


 遠くを見るウオラに呆れたようにミリーが言う。

 ウオラは嬉しそうに馬車を走らせている。

 周りには馬車が沢山通る場所なのか、この道だけ草木は生えていない。

 恐らくここは整備されてないだけで、この世界では道路なのだろう。

 稀に商人ともすれ違うので沢山通った為、土の道が出来たのだろう。

 馬車酔いというのを経験すると思っていたのだが、生憎サウルには縁のない事だったようだ。

 

 二日後。


 冒険者ギルドの前に着くと、懐かしそうに建物を見ている両親。

 冒険者だった頃の思い出に浸っているのだろう。

 深呼吸をする両親。


「入るか!」


 ウオラは扉を開く。

 それに連れられ、二人も入っていく。

 入っていくといかにも冒険者です! と言った感じの方々がこちらを見る。

 身体には傷跡があり、大柄な男や小柄な男が防具と武器を装備している。

 酒を飲んでいるのか、複数の男女の顔が真っ赤だった。

 

「ウオラじゃねえか、今日はどうした?」

「そうだな、こいつも六歳になったんでな」

「そうかこいつもそんな歳か!」


 酒の席から一人の男性の声が聞こえ、ウオラは知り合いなのか答える。

 こちらに近づき、男はこちらを見る。 


「会うのは赤ん坊以来だな、俺はギース。 冒険者でそこの二人とはパーティー仲間だったんだ」

「サウルです! 初めまして!」

「おう、よろしくな!」

 

 挨拶すると、ギースは頭を撫でる。

 ウオラは受付の女性を見ている。

 女性もウオラの事に気が付いたようだ。

 知り合いなのだろうが、あからさまな嫌な顔をしている。

 ウオラは受付の女性の方へ近づく。

 

「まだいたのか? てっきり結婚してると思ったんだが、行き遅れたのか?」


 女性はウオラを睨む。

 ミリーはため息をつきながら近づき、ウオラの頭を殴る。


「失礼だよウオラ、ごめんねロナちゃん……」

「はい、大丈夫です。」

「相変わらずデリカシーないなこいつは」


 近くにいたギースもサウルを引き連れ二人の元へ向かうと、呆れた顔でウオラを見ながら言う。

 目に涙を浮かべながらウオラはミリーを見る。


「んだよ、ちょっとした冗だ……」

「ん?」


 ミリーの笑顔に顔を引きつり、何か言おうとしたが黙る。

 その時の顔は笑顔なのに後ろに鬼の様な生き物がいた。

 実際はいないが、確かに感じさせる程の圧力があった。

 

「ご用件は?」


 ミリーはロナの方を見る。

 蛇の睨みから解放された蛇のようにウオラはほっとしている。


「あ、ごめんなさい。 この子の適正診断お願いできる?」


 ロナは緑の綺麗な髪かきあげ、僕に視線を移す。

 サウルを見定める様に見ている。


「ふ~ん、この子がウオラとミリーの……」

「初めましてサウルです」


 見定めるような顔をしていたロナは穏やかな顔になる。


「ウオラと違っていいこそうじゃない。ミリーに似たのね」


 またこれか、一体どんな悪いことしたんだ父よ……。


「おいおい、酷いな~」

「さ、こちらの方へ」


 ウオラを無視して二人にそう言い、案内される。


 どれだけ嫌われてんだよ……。


 ギルドの奥の扉に案内され向かっていくと、真っ白い空間に行き着いた。

 白い空間には魔法陣が前と左右に描かれ、真ん中に水晶が置かれていた。


 ここが適性を図る場所か……。

 ロナは水晶の方へ向かい説明する。


「水晶に手をかざすと魔力が少し抜かれ、この名刺に記録されます」


 こちらに来るように指示し、手の甲を握られる

  

 うわ~、すべすべだ。


 変態と罵られるだろうがあえて言う。

 女の子の手ってどうしてこんなに柔らかいのだろう。

 ドキッとしてしまうし、何よりロナさんが美人なのもあるだろう。

 そんな欲望まみれの気持ちを他所にロナに手を掴まれると水晶の方に誘導される。

 水晶に手が触れてる。

 ロナがは手を放すと、水晶が仄かに光を放つ。

 水晶が光が一瞬点滅すると、体の中の何かが少し持っていかれる感覚がある。

 魔力という物だろう……。

 点滅が終わり白い線が現れる。

 線は複数に枝分かれする。 

 再び集まる。 

 別れるを繰り返して、前と右と左の魔法陣に集まる。

 魔法陣の方に着くと水晶のように点滅し始める。

 点滅が終わり、各魔法陣から一本の線が照射される。

 水晶の前の石板がそれを受け止め、照射が終わる。

 石板から目の前のカードの様なものが記される。

 光が消える。


「終わりました、もう離して大丈夫ですよ」


 手を放し、ロナからカードを受け取る。


 適正魔法 

 最高適正

 自然魔法 陰

 錬成魔法 投影

 治癒魔法 自己回復

 特殊魔法 ???

 総合適正 投影


 何だ、この???って


 カードを見ると先ほどまでは何も記されていなかったのに、サウルの魔法が刻まれていた。


「父さん、これって」

「あ~これな、特殊魔法ってのは自分で作ったオリジナルだからほとんどは???なんだよ」

「父さんのはどうなんですか?」

「俺と母さんはあるぞ?」


 二人のカードを見せてもらう。


 ウオラ

 最高適性

 自然魔法 風

 錬成魔法 身体強化

 治癒魔法 魔力回復

 特殊魔法 神撃

 総合適性 身体強化


 ミリー

 最高適性

 自然魔法 全般

 錬成魔法 魔法圧縮

 治療魔法 範囲回復

 特殊魔法 回復結界

 総合適性 魔法圧縮


 それぞれ特殊魔法に記載があった。


「この魔法はどうやって?」


 解放条件があるのなら知っておきたい。


「それは教えてもいいが、他の奴がしたとしても真似は出来ても再現はまず無理だ」


 ミリーの回復結界は魔法圧縮に範囲回復を合わせた魔法だろう。

 ウオラの魔法はわからんが身体強化の類だろう。

 

 投影か……。


 投影は魔力で物を編んだり、物体を一時的に強化したりするものだ。


「投影とは珍しいな、投影適性はそんなにいないからどうしようか」


 ウオラは困った顔をしていた。

 投影適性は世界でも数千人に一人という割合で稀少ではあるのだ。

 ただ、戦闘面においては下に見られている傾向があった。


「取り敢えずはこれで終了みたいだし観光でもするか!」


 三人はギルドを後にした。


「サウルもそろそろ六歳なんだし、剣でもやってみるか?」

「いいんですか?」

「サウルの適性は投影だから剣が作れるんだ、鍛錬しておいて損はないぞ?」

「え~、魔法の方が良いと思うな~」


 人差し指を口に当て可愛らしい仕草で言うミリー。


 わが母ながら仕草があざとい。


 まだ若いからということもあるが、美人なのでそれをやると男は弱い。


「剣の方が良いに決まってるだろ」

「いいえ、魔法」

「剣!」

「魔法!」


 何か僕の気持ち無視していってませんかね?

 

 正直、両方してみたい気持ちはある。


「僕、両方やってみたいです!!」


 ミリーが何故か心配そうにサウルを見つめる。

 気持ちはわかる、どちらかを中途半端になってしまう可能性があるから……。

 文武両道なんて前世では全くと言っていいほどの落ちこぼれだったのだ。

 それでもせっかくの第二の人生、やってみたいことは沢山あるのだ。

 やれることはやっておきたい。


「両方頑張ります」


 もしかして反対されるのか?

 どっちかに決めろと……。


「仕方ない、やりたいというならやってみると良い」


 反対されると思っていたので予想以上に嬉しかった。


「なら今日帰ってから夫婦で訓練の予定を考えましょ」


 ウオラの肩に腕組みして言うミリーにあからさまに面倒くさそうな顔をする。

 ウオラの顔を見たミリーは頬を膨らます。


「いいじゃない、それとも私に任せていいの? 魔法の訓練増やすかもよ?」


 ウオラは「はぁ~」っと深いため息をつきながら、


「はぁ~わかったよ、帰ったら一緒に考えよう」

「ありがとうございます」


 理解のある親で助かった。

 もしどっちかにしろとか言われたら選べない。

 異世界の剣術や魔法はどっちも定番で、かっこいいし楽しみでもあった。


「帰ったらよろしくお願いします」


 両親はは笑顔でお互いを見ながら帰るのだった。








 1月6日改変

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