アーマーリバイブ!奪った鎧で世界を満喫!
紫陽花
とある盗賊Aの悪夢です。
何だこの状況は
訳が分からねえ
古巣にしてる周辺はあらかた狩り尽くしちまったせいで、したくもねえ遠出をするハメになっちまった
かなり移動したし、道中もそこそこ稼がせてもらった
ほんの2、3時間前にはそこそこの規模の集落も襲えたし、女も食いもんも結構稼げた。守備兵の装備もかっぱらったし、はっきり言って大儲けだ
なのに
なのに何で
俺は
俺の仲間は
血塗れなんだ?
すぐそこのやつなんて完全に逝っちまってる。
まだ戦ってる奴もいるがありゃもうダメだ
まず剣が効かねぇ
何故ならソイツは全身鎧に身を包んでいやがる
そんな相手に唯の剣や短剣が効くわけがねぇ
じゃあ槍はどうかって?
最初は当たってたんだ
だが急にソイツの動きが良くなってカスリもしなくなった
じゃあ弓は?鞭は?斧は?ぜーんぶ効かねぇ
躱すし、掴むし、受けやがる
そうこう言ってるうちにうちの幹部連中を除いて立ってる奴は居なくなっちまった
50人いたそこそこの盗賊団がたった1人にこのザマだ
俺は死んだフリしてかわしてるが……正直、生きた心地がしねぇ
3人いる幹部のうちの1人が細剣を構えつつソイツと対峙する
「てめぇ……良くもヤリやがったな……ただじゃ済まさねぇぞ?」
ダダ漏れの殺気を隠そうともせずソイツを睨む
「……」
だがソイツは怯むことも唸ることも、息を吐くことすらしてるのか怪しいほど静かに佇んでいる
構えすらしてねぇ
「……死ねやぁ!」
細剣野郎が切り込む。と同時に左手を掲げて何かを放る
かなり値が張る
「焼けて刻まれて死ね!」
途端どこからともなく熾った炎。それに包まれる鎧野郎
終わった
俺も、そして幹部連中もそう思っていた
だって鎧着込んでても火達磨だぜ?
普通はのたうったり、身動き取れなくなったり、魔法なりで火を消そうとする
だが、あろう事か
鎧の野郎は
まるで野っ原を歩くみてぇな軽い足取りで
目の前を飛ぶ羽虫を払うような仕草で
細剣野郎のダメ押しの攻撃を
掴んで、放った
「あ?」
細剣野郎も、怯みすらしねぇ鎧野郎に眉を顰めてはいたものの、突っ込んでくるなら刺し殺す!と言わんばかりに、それはもう速度と体重の乗った完璧な一撃を放っていた
事実、その一撃は守備兵をあっさりと殺していた
それをだ
細剣を何でもないように掴んで、そのままそれをまるでゴミでも捨てるみてぇに投げやがった
「なっ、は?」
訳が分からないのか思わず立ち止まり、自分の武器を目で追う細剣野郎
その顔面に
鎧野郎の拳が叩き込まれていた
「ごぁっ!?ぐぉおお!」
だがそこは腐っても幹部だ
殴られて我に返ったのか、すぐに態勢を立て直し懐にしまっていた予備の短刀を抜いて鎧の隙間目掛けて突き出した
がしっ
「ぐ、ぎ!?ぎああああ!!」
急に叫び出す細剣野郎
短刀を握る腕を鎧野郎に掴まれ、みしみし、メキメキと嫌な音がたち、必死の形相で鎧野郎から逃れようとしている
しかし逃げられない
メキリ、と、骨が砕ける音がし、ブチブチ、と肉を突き破る音がする
「あああああああ!」
叫ぶだけになった細剣野郎を、掴んだ腕をおもむろに引っ張り、後ろに投げ飛ばす鎧野郎
ぐしゃっ
変な方向に腕や足を曲げつつ地面に落ち、ビクビクと震えるだけとなった細剣野郎に一瞥をくれるでもなく、残った幹部を見据えるソイツは再び歩き始める
いつの間にか消えていた炎とは違う
黒い、そう、真っ黒な、不気味なオーラをまとって
ゆっくりと歩いていた
「炎は効かねぇか……だったらこりゃどうだよ!喰らえ
杖を持つ魔法使いが何かの魔法を叫べば、鎧野郎を包む水の檻
人間ひとりを優に飲み込んでなおあまりある水は簡単には抜け出せず、確実に溺れさせる
そんな水の檻を
またも何でもないように歩いて抜け出す鎧野郎
「はぁ!?くそ!魔法が効かねぇのか!?」
散発的に水弾を放つ魔法使い
だが鎧野郎は防御も回避もせず、黒いオーラを纏いつつゆったりと歩いてくる
と
不意に、黒いオーラを残し鎧野郎が加速する
「は――――――ぐぶぅ!?」
魔法使いの左側から大質量の塊―――鎧野郎の速度と体重の乗った肘―――が、特に鍛えてるわけでもない体の、急所である脇腹に突き刺さる
一瞬で吹っ飛ぶ魔法使い
残る団長の方へとゆっくり向き直る鎧野郎
「……マジかよ、うちの団が壊滅だ。信じらんねぇ。たった1人にこのザマかよ……てめぇ、マジで何もんだよ。」
「……」
「マジで喋んねぇなこいつ……気味が悪ぃぜ、ったくよ。あぁーあ、こりゃまた手下探しに奔走しなきゃじゃねーか。」
ボヤきながらも油断なく鎧野郎を睨む団長。元はそれなりになの通った冒険者で、ランクはCまで上り詰めており、その前は傭兵として戦場を駆け回っていたとか。さらに信じられないことに、なんと上位属性である雷の魔法を習得しているって話だ
さらに扱う武器は巨大な大剣と来て、これを相手にするのに警戒しねぇ奴はいないだろう
そんな実力者を前に、鎧野郎はついぞ構えることもせず、ただただ黙って団長を見ていた
「名前くらい聞かせろや。あぁ、俺はハーゼンってもんだ。見たところ騎士って風情でもなさそうだ。冒険者かなんかか?だったら俺の名前くらい知ってるだろう?」
「……」
「……ちっ、ノリ悪ぃなぁ!」
一瞬の間に距離を詰め、いつの間に抜いたのかも分からない大剣を、鎧野郎の頭上から振り下ろす
反応できてねぇのか微動だにしない鎧野郎
今度こそ本当に終わった
そう、思っていた
「らぁああああああ!――――――はっ?ぐおぇあ?」
大剣が触れるか否やの、本当に刹那の時に
明らかにあとから動いたはずの鎧野郎の拳が
団長の顎を的確に打ち据えていた
どさりっ
重い音を立てて倒れる団長
壊滅
俺たちハーゼン盗賊団はたった1人の、良くわからないやつによって滅ぼされた
だが、団長はすぐに気を取り戻したのか、あるいは演技だったのか
一瞬で体勢を立て直し、両の手を掲げ何事かを叫ぶ
「死ね!
激しい閃光で視界が塗りつぶされる
雷は超がつくほどの高熱と、視認してから避けることが不可能と言われるほどの速度を持っている
さらにいえば、鎧すらも砕き、中の人間を貫き、魂すらも焦がす
今度こそ、今度こそ終わった
なのに
「おいおい嘘だろ?あの距離の、しかも雷だぜ?当たってなきゃおかしいぜ……」
土煙の中からは埃で汚れてはいるものの、全くダメージのない様子の鎧野郎が立っていた
「……」
気づいたら、鎧野郎がぶれていた
金属でなにか柔らかくもあり、それでいて強度のあるものを、ものすごい力で叩くような音がした
グシャアァンッ!
そして俺が最後に見たのは
ハイキックの形でとどまる鎧野郎と、その場で縦に回転して地面に転がった団長であった
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