西アストゥラの剣士である俺が就職できないわけがない

巨大パン

第1話 剣士と猫耳

猫耳の娘「じゃあ、キミのレベルを見せてもらうにゃ」


男「ああ、構わないよ。ほら」


猫耳の娘「ありがと!」


男「ああ」


猫耳の娘「へえ……キミ剣士なんだね。邪術士じゃじゅつしだと思った」


男「一応な」


猫耳の娘「なんで黒ずくめなの?」


男「闇夜に紛れるため、かな」


猫耳の娘「へえ〜……。それでレベルは……ひゃ、ひゃく、ひゃくきゅうじゅうさんん?!」


男「いや……何をそんなに驚いてるんだよ? レベルがまだ低すぎたとかか?」


猫耳の娘「いやいやいやいや! え? キミ、初めて一年くらいって言ってなかったっけ? いったい何してたらここまでのレベルになれるの……?」


男「何って……地元で街の周りのザコを狩ってたくらいだよ、別に俺は勇者とかじゃないからな」


猫耳の娘「ザコ敵だけ? ……それならいったい何体くらいを……?」


男「何体くらいか……よく覚えていないな……ああ待ってくれ、記録を見ればわかるよ……ああ、9760体だ」


猫耳の娘「きゅうせんななひゃくろくじゅうぅ?! ……なるほどにゃあ……」


男「なあ、さっきから叫んでるが、はっきり言ってくれないか? 結局、俺の評価はどうなんだよ」


猫耳の娘「あっ、ごめんにゃ! そうにゃよね。キミの今のステータス評価をお伝えします!」


男「ああ、頼む」


猫耳の娘「キミのステータス評価は……」


男「……」


猫耳の娘「うん! この調子ならあとで就職できるにゃ!」


男「そうか……えっ? 二百年くらい? それじゃ困るんだけど?」


猫耳の娘「困るんだけど? と言われても……」


男「つまり何だ? ……それって俺のレベルが低いって意味だよな……?」


猫耳の娘「うん! キミはレベルが低いにゃ! 就職するのなら、最低レベル5000はないと」


男「ごせん?!」


猫耳の娘「ザコなんか千狩っても万狩っても同じにゃ。ここらのザコの経験値はだいたい3でしょ……レベル5000くらいになると1レベルあげるだけでも必要経験値は2000以上よ!? 経験が圧倒的に不足してるにゃ」


男「そうなんだ……えっ、マジ?」


猫耳の娘「えっ、マジ? 必要経験値とか必須教養なんすけど? 知らない系?」


男「知らないかもしれん」


猫耳の娘「かもしれん時点で知らないじゃん。むしろ一年もあったのに一万弱しか狩ってないの? 一日何体狩ったにゃ?」


男「40体ずつ……」


猫耳の娘「きっかり?」


男「ああ……ノルマ決めてやってたから……」


猫耳の娘「なら土日祝休んでるじゃん。年間120日休んでるじゃん。鍛錬のことホワイト企業だと思ってない?」


男「いや……年間120日休めるだけじゃまだホワイト企業じゃないと思うけどな俺は……そこは休めて当然って言うか……」


猫耳の娘「意識だけは高いじゃん。ホワイト企業じゃなくったって、年間120日休める会社に就職するなら低くてもレベル7000は必要よ……」


男「なな、ななせん?! 俺のレベルは何だっけ」


猫耳の娘「レベル193でしょ」


男「ひゃくきゅうじゅうさん?! 明らかにおかしいだろこれ。なんか単位違うんじゃない?」


猫耳の娘「え? 単位?」


男「そうだよ、単位。あ、そうだ、俺って地元結構田舎なんだけどさ、屈強な戦士たちがいた時代の名残りが今も残ってて俺の住んでたあたりのレベルの計算方法が違うんじゃないの? 絶対それだよ」


猫耳の娘「ああ、うん……じゃあそれを……」


男「ちょっと待て。あとさ、俺の地元のザコ敵はここらのザコ敵よりちょっと強いんだよ。これも関係あるかもしれん」


猫耳の娘「そうなんだ……じゃあ調べ……」


男「たぶん換算とか出来ると思うんだよね。みたいに……何かそういう資料あるよな? なあ、俺の本当のレベルはどれくらいだ? 調べてくれないか?」


猫耳の娘「わかった! ……わかったから一気にまくしたてないでくれる? ちょっと待ってね、そう言う文化の違いがあるのかな? たしかにレベルがあからさまに低くておかしいもんね……いま調べるからね!」


男「よろしく頼む」


猫耳の娘「はい。じゃあ、ご出身は?」


男「西アストゥラ」


猫耳の娘「西アストゥラ市……岐阜県か。ちょっと待ってね、もしかしたらそう言う換算法があるかもしれないから」


男「よろしく頼む」


猫耳の娘「……もしもし、就職相談室の羽田ハネダです。……お疲れ様です〜。でですね、レベルの計算方法で聞きたいことがあるんですが。……はい。あのですね、レベルの算出で、普通とは異なる計算を行なっている地域とかがあったり……たとえば岐阜県の南の方とかで……はい……はい……そうなんです」


男「……」


猫耳の娘「……はい……あ、そうなんですか! ……はい……はい。あっ、いえ! はい。 ……ああ、はい。あっ、いえ! 大丈夫です。そうなんですねぇ……そうなんですねぇ。はい。ありがとうございます! はい! はい! ありが……失礼しま〜す」


男「どうだったんだ?」


猫耳の娘「あのですね……」


男「ああ……」


猫耳の娘「あるそうです!」


男「ある!」


猫耳の娘「はい! 岐阜の南の方は本当に計算が違うみたいで、全国基準に換算すると、レベル、もっと行ってるはずですよ!」


男「やっぱりそうだよなあ! 絶対そうだと思ったんだよ。えっ、ならいま俺のレベル換算できるのか?」


猫耳の娘「できますよ! 簡単です。ただ30倍すれば良いんです!」


男「さんじゅうばい?! 早くしてくれ!」


猫耳の娘「良いですよ〜! レベル193ですから、これを30倍すると……」


男「ああ……」


猫耳の娘「レベル5790ですね」


男「…………」


猫耳の娘「………………」


男「……焦った〜!!!」


猫耳の娘「焦りましたねぇ〜〜!」


男「就職出来るんだよな、俺?」


猫耳の娘「出来ますよ〜!」


男「良かった〜〜! 俺、就職できないと思ってたから〜〜! 泣きそう〜〜〜!」


猫耳の娘「泣かないでくださいよ〜! ほんと良かったですねぇ〜!」


男「良かったよ、俺、岐阜で良かった〜〜!」


猫耳の娘「良かったですねぇ〜〜! 岐阜で〜〜〜!」


男「ありがとうございました〜〜!」


猫耳の娘「いえいえ〜〜!」


男「じゃ、帰りますねぇ〜!」


猫耳の娘「えっ、ちょっと待ってくださいよ!」


男「え?」


猫耳の娘「今のでやっと話がスタートラインだと思うんですけど」


男「あ、それもそうだな……」


猫耳の娘「もう。ちゃんとどういった進路にしたいかも決めていかないと……」


男「ああ、すまない。じゃあよろしく頼む」


猫耳の娘「はい。じゃあまた座って」


男「ああ……まあ、就職はもう出来るからな」


猫耳の娘「そうですね」


男「だって、レベルが5790もあるからね」


猫耳の娘「ね。まあレベル5790だと年間120日休めるような企業には全然就職出来ませんけどね」


男「え? おい! そういう言い方はないんじゃない? 人が喜んでるところに水を刺すような真似を……」


猫耳の娘「いや、だけど……あんまりに喜んでるからあとでガッカリするのもなあと思って……」


男「それでも……」


猫耳の娘「年間120日は休めないから……」


男「もういいって! わかったよ! だが……本当に無理なのか……? 5790ってほぼ6000なんだが……それでも足りないのか?」


猫耳の娘「最低で7000だからにゃぁ〜……今の段階で6000にもいってないなら本当に厳しいね。だけど、レベル低くても入れる会社が質の悪い会社ってわけじゃないからね」


男「そりゃあ、そうなんだろうけど……足りないのか〜……」


猫耳の娘「あっ、でも。そうだ、資格にゃ!」


男「資格?」


猫耳の娘「そう。君、何か資格持ってないの? レベルが足りないぶんは、資格でカバーできることもあるよ!」


男「なるほど、資格な」


猫耳の娘「うん」


男「持ってないな」


猫耳の娘「資格ひとつも?」


男「ん? ああ、持ってないよ」


猫耳の娘「え? 免許とかも?」


男「免許? 免許は原付3回落ちたし」


猫耳の娘「3回?」


男「ああ。……何か変か?」


猫耳の娘「え? いや……別に変ではないけどにゃ……?」


男「あ! そうだよ。俺、英検4級はもってるよ」


猫耳の娘「あー。英検4級ね?」


男「これは何レベル分に相当するんだ? 100とかいく?」


猫耳の娘「え? 0.244」


男「れいてんにーよんよん?! 4級なのに? 5級もあるんだよ?」


猫耳の娘「妥当よ! 英検3級でも1いかないんだから!」


男「そうか…………3級でも1いかないのか……」


猫耳の娘「うん……そもそも普通四輪でやっとレベル1加算くらいだし……」


男「……やっぱり俺、ホワイト企業では働けないのか? なんとかしてレベル7000相当になれないのか……?」


猫耳の娘「うーん、そうだなあ…………他には〜…………」


男「………」


猫耳の娘「……あ、そうだ! 『指定害獣駆除の履歴』!」


男「指定害獣駆除?」


猫耳の娘「うん、キミ、西アストゥラ出身でモンスター狩ってたんだよね?」


男「あ、ああ……」


猫耳の娘「だったら……県で指定された害獣を狩ってたなら、狩猟難易度によって相当レベル分の評価が加算されるから、就職に有利になるにゃ!」


男「そ……それだよ! だって西アストゥラらへんのザコ敵はちょっと強いからな!」


猫耳の娘「うん! そうだよ、レベルの換算法が違うくらいだもんね! きっと岐阜南部にはいろんな強い害獣がいるはず!」


男「もしかしたら、俺、ホワイト企業どころか一流企業にも入れちまうんじゃないか?」


猫耳の娘「焦らないで。まずはリスト調べるから、今まで狩ったことのある強い敵、ぜんぶ教えてくれる?」


男「ああ、ええと……俺が狩ってたのはだな」


猫耳の娘「はい、ミツマタカクレリュウね。……聞いたことないモンスターだけど、きっと西アストゥラ特有の強いモンスターなのかな? それと他には?」


男「他? 俺が狩ってたのはミツマタカクレリュウだけだが?」


猫耳の娘「み、みつまたかくれりゅうだけぇ?!?!!?!」


男「ああ……何か変か?」


猫耳の娘「あ、いや……大丈夫よ……いまリスト調べてるからね……」


男「ああ、ミツマタカクレリュウはな、大切な農作物を荒らす害獣なんだ。俺はそれを毎日欠かさず狩っていた。だから、地元で俺は農家の方々からありがたがられていて、季節になると野菜をもらえるんだよ。それが日々の害獣を狩るモチベーションにも繋がっている。こうした体験から、働くことで誰かの笑顔を作るということのやりがいを知り、御社に入社した暁には……」


猫耳の娘「あの、ちょっと、ここ面接会場じゃないから勝手に自己アピール始めないでくれる? えっと、ミツマタカクレリュウ、ミツマタカクレリュウ……」


男「指定害獣に載ってるか?」


猫耳の娘「うん、ちょっと待ってね……」


男「ああ……」


猫耳の娘「ミツマタカクレリュウは……」


男「ミツマタカクレリュウは?」


猫耳の娘「ミツマタカクレリュウはね……」


男「ミツマタカクレリュウはね?」


猫耳の娘「リストに載って……」


男「リストに載って?」


猫耳の娘「……」


男「……?」


猫耳の娘「…………」


男「…………?」


猫耳の娘「…………」


男「…………?」


猫耳の娘「…………」


男「…………?」


猫耳の娘「……」


男「……?」


猫耳の娘「…………………」


男「…………………?」


猫耳の娘「る」


男「る?」


猫耳の娘「載ってる!」


男「載ってる!?!!!る!??!??!?」


猫耳の娘「る!!!!!」


男「るー!!!!!!!」


猫耳の娘「るにゃ!!! ミツマタカクレリュウは指定害獣!!!」


男「おおおおおおおおおっっっしゃあああああ! ミツマタカクレリュウ指定害獣乙! 就職キタコレェ!!!!」


猫耳の娘「おめでとうにゃ〜〜!!!」


男「害獣オッケ〜〜〜〜〜! 害獣〜〜〜〜〜!!!!! 指定害獣ゥ〜〜〜〜〜〜!!!! ありがとう〜〜〜!」


猫耳の娘「テーブル登って踊らないでくれる?!!!!??!! みんな見てるよ??!?!!!?!」


男「あっ! すまない。熱い衝動を抑えきれなかった」


猫耳の娘「座ってね。……でもやったね!!! 狩猟難易度に応じたレベルが加算されるよ!」


男「ああ! よしよしよしよし……いったい俺は何レベル加算されるんだ?」


猫耳の娘「待ってね、それは県のホームページに一覧のpdfがあるから」


男「早くしらべてくれ!」


猫耳の娘「言われなくても!! えーっと、『岐阜県 指定害獣リスト』っと! ……どれどれ?」


男「いやー……俺さあ、ミツマタカクレリュウ数え切れないくらい狩ってるからな〜? 案外、レベル10000とかも、行っちゃうんじゃないの?」


猫耳の娘「アハハ、10000もいってたら県議会議員になれるにゃ! あんまり高望みしないように! ミツマタカクレリュウ、ミツマタカクレリュウ……あった!」


男「おお!」


猫耳の娘「狩猟による加算相当レベルは……」


男「いくつだ?」


猫耳の娘「レベルはね」


男「ああ!」


猫耳の娘「0.000025」


男「0.000025?」


猫耳の娘「0.000025」


男「0.000025ってなに?」


猫耳の娘「0.000025は0.000025でしょ」


男「0.000025」


猫耳の娘「0.000025」


男「うん……」


猫耳の娘「……あっ、でも落ち着いてね。これ、だから!!! ほら、キミ、ミツマタカクレリュウ何体倒したんだっけ!?」


男「!!!!! あ、おお!! そうだった! 9760体だ!! どうだ!!! 俺、議員なれるか?」


猫耳の娘「うん! だから、0.000025に9760をかけると!!!」


男「かけると!!?!」


猫耳の娘「0.244! 英検4級相当にゃ!」


男「え、えいけんよんきゅうそうとう〜!?!!!?!?!!!?!」


猫耳の娘「もう雑魚狩るのやめて英検の勉強始めた方がいいんじゃないかにゃ?」


男「くそおおおおあお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」


お し ま い

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