ショートショート「想像の街/因果」

あめしき

想像の街・因果

 このショートショートは別作品「想像の街」の続編です。

 読まれていない方は、ぜひそちらからお読みください!


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ショートショート「想像の街・因果」


 こんにちは。あなた、そう、あなたに話し掛けているの。今あたしのお話を聞いてくれている、あなた。


 ここはね、『想像の街』というところ。実在する街じゃなくて色んな人たちの想像が作り上げた街なの。って言っても、あなたは知っているわね。この街に来るの、初めてじゃないでしょう?

 そう、あなたは前にもこの街に来た。そしてその時、一人の少女が死んだ事、あなたは知っているわよね。


 もちろん、ここは想像の街。彼女だって想像の存在よ。だから、あなたが裁かれる事はありえない。なんせあなたの居る現実じゃないんだから。

 でもね、あなたにとって想像でも、あたし達にとっては、紛れも無い現実なの。傷つけられれば痛いし、悔しい思いだってする。殺されればそこには無があるだけだけど、遺された家族は悲しむの。

 ほんの一時の「面白い」のためだけに殺される存在である事。その辛さが分かる? もちろん、仕方がないのかも知れない、って気持ちもあるわ。もともと、そのためだけに生まれてきたのだもの、あたし達は。


 でも、やっぱり悔しい事に違いは無いの。そして、あなたを憎むの。あの時死んだのは、あたしの妹だから。


 彼女は可愛そうな子よ。誰からも好かれなかった。親からもね。いや、あたしだって同じようなもの。彼女を守れなかった。誰からも無視され、蔑まれたあの子に対して、何もしてやれなかった。

 家から追い出された時も、あたしはただ見送っただけ。だって怖かったのだもの。想像が現実にならない人間をかばうなんて事したら、あたしだって周りからどう思われるか分からない。


 ……もちろん、全て言い訳だったのだけれどね。助けようとすら、しなかったのだから。あの子が死んでから、その事にやっと気付いたわ。あたしは、報いを受けなければならないと思う。

 でも……そんな思いすらも、誰かの想像に過ぎないのね。あたしはあたしだけど、誰かの操り人形。心すら、誰かの想像図。

 その誰かの気持ちが変われば、今すぐにでもあたしは妹の事を忘れられる。悲しさは消し飛び、妹を蔑むことすらできる……。


「こんにちは、お嬢さん」


 ふと後ろを振り返ると、いつの間にか若い男が立っていた。そう、黒いコートを着て、手に大きな鎌を持った男よ。

 あなた、また『思った』のね。あたしも妹と同じように死ぬのか、そう思ったの? そう……。じゃあ、あたしは殺されるわね。ここは想像の街だもの。思った事は現実になるわ、絶対に。

 でもね、もう一度、さっきの男が居た場所を見て。ね、居なくなっているでしょう? なんでか分かる? あなたが『思う』より前に、あたしが『思った』からよ。

 あたしは、妹とは違う。思った事は現実になるわ。あたしはが思ったのは、当り前のことよ。家族を殺された人間が、殺した人間に対して思う、ごく当り前のこと。


 ああ、もう時間がきたみたいね。ここからでも見えるもの。黒いコートと鎌の男は、あなたのすぐ近くに居るじゃない。


 妹の時とは少し違う意味で、この言葉をあなたに贈るわ。

 じゃあね。さよなら。


 せめて、想像の中で。


(了)

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ショートショート「想像の街/因果」 あめしき @amesiki

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