第3-14話 進化
「逃げ出した可能性は無い。重さは変わってねェ」
マコトは自らの目の前に浮き続ける黒い格子、それがぎゅっと凝縮された黒い球体を見ながらそう言った。中からはわずかにあふれ出した血液がぽたり、ぽたり、と落ちていく。
マコトの球体は部屋の中にあった有機物すべてを巻き込んだようで、嫌に部屋の中がすっきりしている。……だが、それを言い換えれば、部屋の中にあったものをビー玉程度の大きさまで圧縮できる技を持っているということだ。
俺が【
俺は【
「……どうにも納得がいかねえなァ」
血が地面に滴り続けるのを眺めながら3人目のマコトがポツリと言う。
「なーんか、嫌な予感がする。……考え過ぎか?」
俺は何とか球体の外に出たが、そのせいで全身は裸になってしまった。今すぐにでも服を着たいが、マコトがいる限り、それはまだ出来ない。
……どうする? また、殺すか??
だが、今まで2回も殺したというのにマコトの代わりはどんどん現れる。勘弁して欲しい。もしかして、マコトは死んだら増えるようなスキルを持っているんだろうか? 確かにそれなら納得も行くが、それにしてはマコトが死ぬときに何かの魔術的反応がないことに気が掛かる。
……スキル、と言われてしまえばそれまでなのだが。
「フーム。死因も分からねぇのに、殺しちしまったな」
ぽりぽりとマコトがもみあげを掻く。
……これは、好機だ。殺す。殺せる。
俺はそっと手を伸ばす。マコトに触れる。一人でぶつぶつ言っていたマコトの身体が大きく前方に倒れ込む。このマコトも死んだ。4人目が出てこないか周囲を探っていて……気が付いた。
「……っ!」
マコトの死体から手が離れない! 何か、粘着性のような物がマコトの身体を覆っているのではないか……。そう錯覚するほどに、俺の手がガッチリとマコトの身体から離れない。しまった。これはマコトの罠だっ!
「……これも、死ぬか。敵は窓の外から狙ってきてるのかね」
ちらり、とマコトは窓の外を見る。そして、そちらに向かって指を振ると黒い壁が出現。窓を閉じた。ぎゅ、と光を絞られたので部屋の中が急に暗くなった。俺はマコトの身体から手を放そうとするが、全く取れないままだ。
「……目立った外傷はない。ということは……どうやって、俺(・)は死んだ?」
マコトが死んだ自分自身を持ち上げる。それには手を突き続ける、全裸の俺。
《ユツキ。コイツは分身、かもしれない》
(分身?)
《……そう。そういう、スキルなのかもしれない》
(だから、死んでも死んでも代わりが出てくる?)
《……そう、なのかも》
天使ちゃんの言葉に、俺はどこかで納得した。確かに天使ちゃんの言っていることなら、この現象にも理由が付けれる。
俺の目の前には一向に本物のマコトは現れておらず、ここにいるのはいつも分身だけ。だからこそ、殺しても殺しても代わりが現れる。
(……分身は、最大で何体まで出るかな)
《私には、分からない。でも、もしかしたら、魔力の続く限りは出るのかも……》
(……ああ、クソ)
マコトの魔力保有量がどれくらいなのかは分からないが、腐っても“稀人(まれびと)”だ。ちょっとやそっとじゃあ、底をつくとは思えない。
「うーん? これ、何で死んだ??」
マコトがやはり、手を突き続けたまま首を傾げる。そして、ばっと死体を放して煙草をくわえた。息を吐きだす。
「……10分前だな」
そして、俺の思考は白く染まった。
――――――――――――
《……うう》
(どしたの? 天使ちゃん)
マコトの部屋の中に侵入したばかりだというのに、天使ちゃんが急に苦しみ始めた。
《分からない……。続けて》
よく分からないが、ここに来て引けるはずもない。俺は天使ちゃんの言葉に従って、テーブルの下に潜り込むと、マコトが椅子に座るのを待って右手でマコトに触れた。
ビクリ、と身体が大きく震えてマコトの身体が倒れ込む。その瞬間。
“条件を達成しました”
“『暗殺術Lv1』がレベルアップします”
“『暗殺術Lv2』になりました”
“『暗殺術Lv2』の取得により、以下のスキルが解放されました”
“『心眼』『広域化』『延魔の腕(かいな)』”
“『侵魔の腕(かいな)』は『延魔の腕(かいな)』に統合されました”
頭の中で何かが騒ぐ。次の瞬間、俺はそっと眼球に力を込めた。ブン、とブラウン管のような幻聴を聞いて、俺の視界が切り替わる。目の前には死体になったマコト。だが、右側から強い気配を感じる。
そちらを見ると、そこにはマコトがいる。見た瞬間、俺は心の中でマコトに殺意を向けた瞬間、マコトにターゲットマークが出現。
……何だ、これは。
しかし、それを確かめるよりも先に勝手に視線が動く。何も無いと思っていたこの部屋、良く見るとどこかに繋がっている“道(パス)”のようなものがいくつか見える。これは、もしかして『心眼』のスキル効果だろうか?
右側に出現したマコトは俺がさっき殺したばかりのマコトに近づいて、首を傾げている。俺はそれを後目に“道(パス)”へと視線を向けると……見つけた。マコトの姿だ。1、2、3……14? 1つの“道(パス)”に繋がっているのは、14人。それら一人一人に殺意を向けた瞬間に、同じようにターゲットマークがついたのが、分かった。
それはつまり、俺からの“道(パス)”。
俺の道が、マコトに繋がったのだ。
それを、本能的に理解した。
だからこそ、俺はまっすぐ手を伸ばし俺から伸びた“道(パス)”に触れる。そして、”絶対”の魔法を使った。
その瞬間、俺が狙い済ました14人のマコト。それが、全員死んだ。
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